表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君だけが俺をユイと呼ぶ  作者: shiyushiyu


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/6

第3話 図書館

 ――やってしまった。


 机に突っ伏しながら、何度目か分からない後悔を噛みしめる。


 クラスの空気は、もう完全に俺から距離を取っていた。

 話しかけてくる人間も、視線も、昨日までとはまるで違う。


 別に、あいつと仲良くなりたかったわけじゃない。

 ……たぶん。


 ただ、あの名前を聞いた瞬間から、頭のどこかがずっと浮ついていた。


 「ユイ」というたった二文字が、

 どうしようもなく俺を動かしてしまっただけで。


 結果は、言うまでもない。


「……元気出せよ」


 知らない男子が、気まずそうに声をかけてくる。


 そいつも白石にアプローチして、撃沈したクチらしい。

 顔に「仲間」って書いてある。


「ありがと」


 そう返しながら、内心では思っていた。


 お前は下心で突っ込んだ。

 俺は、理由すら分からないまま突っ込んだ。


 ……どっちが痛いやつなんだろうな。


 ● 


 それから俺は、白石とほとんど目を合わせなくなった。


 声をかけるなんて論外だし、

 隣の席なのに、まるで知らない人間みたいな距離感だ。


 なのに現実は容赦ない。


「隣同士でペア作ってー」

「次、席近い人でグループねー」


 教師の一言で、簡単に世界が終わる。


 白石と二人。

 クラス中の視線付き。


 ……地獄かよ。


 気まずい沈黙の中、プリントに視線を落としたまま黙々と作業をしていると、突然白石が放った。


「昔のユイは、そんなんじゃなかったのにね」


 なぜか妙に胸がざわついた。


「悪かったね。そのユイとか言う人じゃなくて」


 皮肉が口をついて出た。


 クラスの嫉妬の視線も白石との共同作業も辛かった。


 ただの八つ当たりだ。


「……」


 白石は、何か言いたげに俺を見て、

 結局何も言わずに視線を落とした。


「……そっか」


 何がそっか。なのかは分からない。


 だが、白石のことが少しだけ分かった。


 どうやらユイという人物が鍵らしい。


 ●


 季節はいつの間にか梅雨に入っていた。


 どんよりした空と湿った空気。

 クラスの雰囲気も俺の気分も、似たようなものだった。


 共同発表の資料作りで、俺と白石は放課後に図書館へ行くことになった。


 クラスの男子全員を敵に回したのは、言うまでもない。


「……お待たせ」


 声に顔を上げる。


 そこに立っていたのは、制服じゃない白石だった。


 白いシャツに、淡い色のカーディガン。

 それだけなのに、なぜかクラスで見るより柔らかく見える。


「……うん」


 それ以上何を言えばいいのか分からなくて、俺は視線を逸らした。


 とはいえ、こんな白石を見れるのは隣の席の特権だろうよ。


 作業中、会話はほとんどなかった。


「これ、どう思う?」

「……いいと思う」


 そんなやり取りが、ぽつぽつ続くだけ。


 会話なんて呼べるものがあるわけでもなく、当たり前に白石も不機嫌…………ではない?


 見間違えか?


 どこか楽しそうな。いつもより表情が穏やかな気が…… 


 かくいう俺も、不思議と居心地は悪くなかった。


 むしろ――


 静かな空間の中で、白石がページをめくる音や、

 ペンを動かす仕草が、やけに気になった。


「あっ……」


 小さな声。


 見れば、白石が手元のお茶をこぼしていた。


 慌てたようにティッシュを取ろうとして、動きが少しだけぎこちない。


 ……あれ?


 クラスで見る白石とは、どこか違う。


 近寄りがたくて、完璧で、隙がなくて。

 そんな印象だったはずなのに。


 今目の前にいるのは、

 少し不器用で、少し慌てていて、普通の女の子みたいな――


「……白石じゃないみたいだな」


 ぽろっと、口から漏れた。


「なにそれ」


 白石が、少しだけ眉を寄せる。


「【悲報】シリーズでしょ?」


「は?」


 唐突に言われて素っ頓狂な声が出る。


「ユイを主人公にしたゲーム。2人で協力するやつ」


 ……え? なんで俺がやってるゲーム知ってるの?


「ていうか、いつまで白石呼びなの?」


 呼び名か。確かに呼び捨ては良くないか。


「あ……いや、その……ごめん。白石さん……」


「……そうじゃないでしょ」


 ため息混じりに言われて、俺は完全に言葉を失った。


 そんなに俺は嫌われることをしたのか?


 雰囲気もいつもの教室と同じ雰囲気に戻ってるし。


 俺の中で、白石という人物が不思議な生き物になっていた。


 そして、昔やった”ユイ”が主人公のゲームを気がつけば手に取っていた。

【読者の皆様へ】

ここまでお読みいただきありがとうございます!

少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、画面下の【⭐】での評価やブックマークで応援していただけると、毎日の執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ