表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ローズマリー

作者: 感情否定派
掲載日:2026/05/14

灰色の雲が一面に広がっている。その下には多種多様な花が地面を覆っていた。

歩く、歩く、歩く、雲と花以外ない空間をひたすらに歩く。するとだんだん人影が見え始めた。父と母だ。2人は笑顔を向け続けている。両親がいることに安心感を覚え、両親のもとへと歩く。あと5歩、4歩、3歩、2歩、すると母の顔がだんだんと正気がなくなって、思わず止まってしまう。ふと下を見ると血が大量に溢れていた。それがしばらく続き、体が物のように倒れた。俺はその母だったものをしばらく見続けた。見続けることしかできなかった。父は笑顔のままだった。


歩く、歩く、歩く,2人はだんだんと小さくなっていく。いつからか、所々花の隙間から土が見えた。それを気にせず歩き続ける。すると前方に建物が見えた。近づくにつれ、昔通っていた保育園だとわかった。自由に出入りが出来るようだ。どんな内装だったか、そう思いながら足を踏み入れる。一階の各部屋には12前後の幼児たちが居た。各自積み木やお絵描きなどを笑顔や真剣な顔を浮かべて無邪気に遊んでいた。2階に続く階段を上がっていき、部屋を見て回る。2階にいる幼児たちは一階にある幼児たちより一回り大きいようだ。こちらも一階にいる幼児たちとさほど変わりはない。そして最後の部屋を見た。そこには懐かしい顔がいた。その中には俺の顔をしたやつもいた。ついついこの部屋を見入ってしまったが、長居するのは違うと思い、保育園を離れた。花の隙間から見える土が広がっている気がする。


歩く、歩く、歩く、保育園の各部屋に居た奴らは最後の部屋に居た奴らと顔が同じだった。そんなことを考えながら。そしてまたもや構造物が見え始める。構造物は昔通っていた小学校だった。中に入り、一階から各部屋を見て回る。どこの部屋も椅子と机が規則正しく並べてある。そこに生徒たちが座り、授業を受けている。それは2階も3階も同じだった。校庭を見てみると陽気に遊んでいる子どもやイタズラをしている子ども、様々な子供たちがいた。見知っている顔の奴らと俺の顔の奴が必ずいた。それを見ていると何故か笑えた。小学校を離れ、そして所々見える土の面積が大きくなっていることに気づいた。


歩く、歩く、歩く、空間は変化している。雲は変わらずだが、花の数は明らかに減ってきている。わけもわからぬまま歩く。そして昔通っていた中学校が見えてきた。中に入り、懐かしさを感じながらも各部屋を見て回る。そこには小学校の時と同じように授業を受けている子どもたちがいた。2階も3階も同じだ。慣れを感じながらも不思議と飽きることはなかった。体育館に向かう。中にはバトミントンをしていた子どもたちがいた。見知った顔を持ちながら、楽しそうにしている。それを暫く見届けたあと、校庭を見に行く。運動会だろうか。リレーをしている子供達がいた。それを見ている別の子供達はとても盛り上がっている。そんな様子を見ていると純粋に混ざりたいと思えた。再び体育館に向かった。すると中はさっきの風景とはうって変わって厳格な雰囲気の中、卒業式が行われていた。式が終わり、退場していった。ある子供は泣いて、ある子供はダルそうにして。少し物寂しい気持ちに包まれたが、中学校を後にした。花が少なくなっていくのを実感しながら。


歩く、歩く、歩く、途中に咲いていたヘーベを抜いて、ポケットにそっといれた。次は高校だ。高校に入り、見知った場所、見知った顔、その全てを噛み締めながら探索する。同じ風景、同じ顔、記憶と大半が同じだ。教室からグラウンドを見ると、サッカーをしていた。ボールを追いかけ、とても元気に走り回っている。羨ましさを感じながら、体育館へと歩く。中にはバスケをしている奴らがいた。ボールを巧みに扱い、見事にゴールを決める。そのプレーを長いこと見続けてしまった。次はプールへと向かった。今じゃ完全にアウトだなと笑いながら向かう。そこにはいろんな奴がいた。見知った顔が変顔をしながら泳いでいるからとても笑わされた。ひとしきり満足したあと、再び体育館へと歩いた。そしてそこは卒業式の場面に切り替わっていた。ふざけたやつを見て笑う。懐かしさを噛み締め、みんなが退場すると共に高校を離れた。ポケットに手を突っ込んだがそこには何もなかった。


歩く、歩く、歩く、花もだいぶ少なくなってきた。そんなことを思いながらも歩き続ける。次は最初に務めた会社だ。色々迷惑かけたことを思い出して深く頭を下げてから中に入る。今思えばこの会社では色々なことを学ばせてもらった。感謝をしつつ歩く。どの部屋も似たようなもので、机と椅子が並べてあり、机にパソコンがある。最初は慣れなかったなと思いながら、俺の顔をした奴が怒られていたり、褒められていたりするのを見つけて小さく微笑み、屋上に向かって歩く。この会社に勤めていた頃はよく屋上で昼飯を食っていた。青空の下で涼しくも暖かい風に吹かれ、美味いコンビニ弁当を食べることが密かな楽しみだった。そして屋上に辿り着き、いつも飯を食っていた場所へと深く腰掛ける。勿論この空間に風一つなく、灰色の雲が空を覆っている。ましてや花もすっかり減って点々としか見えないが、風情を味わうように長い時間そのままでいた。


歩く、歩く、歩く、もう残り少ない花を踏まぬように下を見ながら歩き続ける。もう次の構造物が見えてもいいぐらいには歩いたが、未だに見えない。少し歩いただろうか、父がいた。最初に会った時と変わらずの笑顔を浮かべて立っていた。父に向かって歩いていく。あと5歩、4歩、3歩、2歩、すると父が突然無表情になり、思わず足を止めてしまう。しばらく経つと、父は顔を歪めてゆっくりと手を胸に当てると、バタッと倒れ、頭から大量の血を流し、再び笑顔を浮かべることはなかった。そしてより一層花はなくなり、辺は茶色に侵食された。


歩く、歩く、歩く、咲いている花の数が少なくなり、どの花が消えているのかがわかる。父が倒れたあとはアルストロメリアが消えていた。それが何を意味するのかはわからないがとにかく歩き続ける。すると次は構造物が見えてきた。転職して勤めた会社だ。ここでは後輩に指導していたんだよなと、誇らしげに中に入ると、見知った顔をした奴を指導する俺の顔をした奴がいた。この会社では中々の功績を残せたんだよなとそう思いながら最後の部屋へと足を踏み入れる。そこには見知った顔をしている奴に囲まれている中で、俺の顔をした奴が倒れていた。


歩く、歩く、歩く、最初の頃とは見違えるほどに花は少なくなった。時々ポツン、ポツンと佇む花の横を歩き続ける。そして次の構造物が見えてきた。現在入院している病院だ。比較的新鮮さを感じながら中に入ると、見知った顔をした奴と自分の顔をした奴がいた。誰もが笑顔を浮かべている。そんな光景に嬉しさを感じつつ、今自分がいる病室の扉を開けた。そこにはベッドの上で俺の顔をした奴が何かめくりながら見ていた。


歩く、歩く、歩く、たまに咲いている花を見つけてもすぐに消える。だんだんと花の数は少なくなっていく。しばらく歩くと、もう花は一つも咲いていなかった。そして何故か進めなくなり、立ち尽くした。ふと前をみると一輪の彼岸花が咲いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ