王族の姫
ただ、王族として普通に暮らしていた。
寝て、起きて、食べて、愚痴を言って、勉強をサボって、食べて、問題のある使用人をしつけとして殴って、風呂に入って寝る。
それが、私にとって普通で、平和なこと。
だけど、
「もう我慢できない…!!!!!」
「えっ…!!ちょっと、待ちなさいよ!!!あなたに私がなにをしたって………」
城に住まう魔術師が、私に呪いをかけた。
意味がわからない。何故私が呪われるんだろうと、
(私はなにも悪いことはやっていないのに)
私はそこで、意識を落とした。
起き上がると、見知らぬ天井を見ていた。
「なんなのよ……ここ……………え!?!」
ベッドの横には窓があったので無意識に覗いた。
そこには、見たことのないものが広がっていた。
素人の私でも高度な文明だとわかる。
部屋の隅の鏡を見れば、痩せ細った黒髪の女がいた。
「これ………私なの………?」
慌てて駆け寄って鏡に問うても、そこにいる自分の姿は変わらない。
黒いぼさっとした汚らしい髪。目に光という概念がない死んだ黒い目。体は痩せ細っており、死ぬのではないかというくらい青白い肌。
手は震えており寝巻きとは思えないような格好。
(この体は………なにをしたらこうなったの…?)
銀の伸ばした髪に血が透き通ったような赤い目、
健康そうな体つきに少し色白の美しい肌。
___それがかつての私だった。
私の魂的な何かが入る前の彼女は、
いったいどんなことをすればこんなことになるのだろうか。
その時、頭に電流が走ったかのような感覚に陥った。
“電話を見なければいけない”
そう思った。体が勝手に動く。
「な、何故勝手にこの体は動くのですか!?!というか電話とは…!?」
元いた質素な市民が使ってそうなベッドに戻り、震える手で探している。
「………そんなに重要なものなのかしら?」
「板………?え!?何か押したらついた!?!」
疑問に思う思考とは裏腹に動く手。
文字は分からないはずなのに何故か読めた。
「上司………?電話……?メール……?なんなのですか…?」
ピロンッ
“能力:辞書 を入手しました。早速この三つの単語について調べますか?”
「ぅえ!?!なんですかこれ…!?…いや、今はそんなことはどうでもいいです。お願いしますわ」
“承知。辞書でこの三つの言葉について調べます。
上司、その人より上級の役人。すなわちこの体を持つ所有者の上の人間となります。
電話、音声を離れた場所へ伝達できる通信技術。
メール、この物体を通して文字や映像などを送れる手紙のようなものです。手紙と違うのは数秒で相手に届くというところです。”
(なるほど………?…とにかくこの世界は私の予想通り私の住んでいる国より文明が発達しているということ………それであなたは誰なの!?)
“私の名はイーレ。あなたのために動く脳力です。のうは脳みその脳です。”
「脳力………?」
“Yes。脳力は、個体の中の思考とは別に分離している二つ目の思考のようなものだと捉えてくだされば”
「なるほど……?あら、メールは全てこの上司?という方からのようですね。…………え、」
彼女は驚愕した。
こんなことがあっていいのかと、
《いつ会社に来るんだ。もう7時だぞ》
《残業をやっとけと言ったのにできてないじゃないか!!出来損ないが》
《早く来い。お前には仕事とは他にやることがあるだろう?お茶くらいまともに運べないのかよ》
《出来損ないは来るな》
《あと1時間で来ないと刺しに行く》
「…………なに、これ」
ピロンッ
“この文面を解析する限り、この体の所有者はパワハラを受けていたものと捉えられます”
(パワハラ………?)
“Yes。パワハラとは、職場で働くものに対し、優位な立場に立っている者が業務上必要かつ相当な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為です。”
(そんなこと………酷すぎるじゃないの……)
ピロンッ
“あなたが言えることではないです。彼女は主に精神的にですが、あなたは身体的に苦痛を与えましたよね?”
(………え?
いや、そういえば、そうだったかもしれない)
『早く、会社行かなきゃ』




