本音のお茶会は荒れる
セイナは緑のロングドレスに品のいいパールをあしらった髪飾りでお出迎えをした。背の高さと艶のある黒髪が絶妙なバランスで、色白なセイナを神秘的に魅せている。
ウランバルブ王国の中でも流行を取り入れたドレスの色と、派手すぎず、地味すぎないセンスであるとメイナードは値踏みする。
ユイナはベージュに黒い縁取りのジャケットとスカートのセットアップを着ており、お茶会のドレスとしては少々かっちりした印象で優雅にティーポットの準備をしていた。だが、体にボリュームのないユイナが着ると少々野暮ったくなりそうなそのデザインが洗練されて見える。
ビビアンは自分より細身な体に目を奪われたが平静を装った。
キャロラインは皆を代表してお辞儀と挨拶をする。メイナードが敢えて口を開かずとも自分が率先して頭を下げることで彼女をたてた。
「本日はこのような場を設けていただき誠にありがとうございます。聖女様たちに私たちも日頃の感謝をお伝えできる場を頂けたことを心より…………」形式ばった言葉をつらつらと重ねるも二人の聖女は穏やかに頷くだけ。
テーブルに着くと同時に出された茶器は王家の使っているものよりカジュアルで持ち手もシンプルだ。誰かが小声で『聖女様は王室のものを使わせて貰えないんじゃないの?』とクスクス嗤ったがキャロラインは逆だと思った。
(見たことのない茶器を出しているということはオーダーをしているんだわ。聖女様たちが神の国で自分たちが使っていたものを再現しているのよ。態々……)と考えた。
小馬鹿にしたティーカップの内側は白磁。その分紅茶を注ぐと色が美しく見えた。
美しい色とりどりのクリームが載った華やかなお菓子が並んで入るが令嬢たちに今日それを食べる余裕は全くない。
今日は神の国に帰れない彼女たちから今後どの男性を選ぶのかここに呼ばれたメンバーで聞き出さないといけないのだ。
「皆さんとはいつも一度はお会いして親睦を深めたいと思っていたんですよ。こうして招待に応じてくださったことが嬉しいです」
ユイナがどうぞと手を差し出すとセイナがお茶に口をつけた。
メイナードたちもそれに倣って口をつけると豊かな香りとほんのり果物の甘さが口に広がった。
「美味しいですね、ユイナのオリジナルですか?」セイナが呟くとユイナが嬉しそうに頷いた。
ビビアンは二人の言葉遣い、やりとりを見ながら
(平民だと言っていたけど、お作法を抜きにしても上品だわ……)と本当は貴族の出なのではと疑い始めた。まだ、自分たちが口を開くには情報が少ないと思い、様子を窺っている。
そうしていると下位の令嬢二人は当たり障りのない天気の話から始め、自己紹介をする。
「私はメメの東南にある領地を治めている子爵家の次女エマーリアと申します」
「メメ地方ですか?私も一年ほど前に通りました。小麦の生産が盛んなところですよね」ユイナがそういうとエマーリアは嬉しそうにはにかんだ。メメは広大でこの国でも有数の資産家の家だ。魔物被害でも懸命に国に援助金を続けてくれた優秀な貴族でもある。
元婚約者は討伐隊には所属はしていないが王宮で代々大臣職を賜っている家系の子息だ。
黒髪に落ち着いた雰囲気の知的な男性で、聖女様たちのことを褒めていたとエマーリアが半べそで訴えてきたのは一年前。きっと接触があったのだろう。
お茶会のルールなんてそこまで身についているとは思えないが、聖女たちは招待した七名の自己紹介のたびに丁寧に知っている知識を使いながら会話を進めている。
(なんでこんなに会話術に長けているのかしら?)と思ったり、ふとした瞬間のフォークやナイフの使い方が美しかったりで(これは一筋縄では行かないわ)と肩に力が入る。
そんなことを考えていると皆が自己紹介を終わらせた。
その途端聖女二人が顔を見合わせてフフフと笑った。
「今日は皆様私たちに色々聞きたいことがあるんじゃないかと思っていますの。だから今日はその場を設けたんです。お作法がこの国の通りにならないこともありますがご容赦くださいね。その意味はお分かりですよね?」
セイナがコホンと咳払いをして微笑んだ。
「例えば素敵な男性のお話とかですか?」
口元を少し隠しながらホホと笑って全員の顔を見渡すと招待された全員が顔色を悪くした。
ビビアンが意を決して顔を上げる。
「実は私たちは国から言われて婚約者を作ることができなくなっていますの」
「王家がお年頃の男性を聖女様たちのために取っておきたいという法令を出されていて」
「そのせいで私は殿方との交流はあるのに、婚約をしてもらえなくって」
「探すこともできないし、見つかっても先に進めないんです」
堰を切ったように皆が話し始めると、ビビアンも辛そうな表情をした。
「そうなんです。彼とは幼馴染で幼い頃から約束していたのに、今はギグシャグしていまして」
「私は学園時代にサイラスから交際を申し込まれていたんです」
「私も付き合って二年目に彼から『もしかしたら万が一僕が選ばれても恨まないでね』と告げられました。でもそんなふうに言いながら毎年私に誕生日プレゼントを送ってくれるんです」
すると皆が『あぁ〜うちもそれはありますわ』と声が上がった。
「実はこんな状態ですので聖女様たちにははっきりとした態度をとっていただきたく思い、先日も王宮に押しかけるというはしたない真似を」
「私たち行き遅れと言われる年齢に差し掛かってきておりまして」
「後がないので焦ってしまって」
「その節はすみません」
「はい、恥ずかしいことをいたしました」
と皆が素直に謝る。
結菜はフゥンとテーブルのご令嬢たちの顔を見ながらゆったりと座り直した。セイナは慌てる風でもなく彼女たちの言葉に耳を傾けている。なんならちょっと落ち着きのある頼れるお姉さん風でビビアンは上目遣いで一生懸命窮状を語っていた。
その様子を見てメイナードは聖女たちはウランバルブ王国の事情はわかっているのだろうなと察した。
「皆様の事情はわかりましたわ。結婚はこの国の皆様にとって死活問題。本当に苦しい二年間を過ごされていたのでしょう」ユイナの優しい声かけにみんながウンウンと大きく頷く。
「私は聖女様がどれだけ討伐で大変な思いをされていたのかも司令官様から伺いました。とても大変な戦いであったこともわかっております。自分たちのことばかり考えてるのは貴族としてどうなの?と思わないでもあります」
「でも国が立ち直りかけている今、この現状をどうにかしたくて」メイナードは勇気を出して提案してみる。
「ですからどうか、国に留まって夫となる人物を誰にするのか早く決めてくださいませんか!」
聖女二人の目が皿のように大きく見開かれる。
「えーーーっと、そうですね」
セイナが言葉を求めるとユイナはウン、と頷く。
「実は私たちは王家にお伝えできていないことがいくつかあるんですよね」
と苦笑いした。
つるんとした肌が首から赤く染まっている。
セイナも困ったように微笑んでいる。
「もしかして、国を出ようと思っているのですか?」キャロラインが低い声で唸った。
「違うわ…………うーん。メイナード様。私たちを目の敵にしていらっしゃったのってオスカー殿下と私が結婚するんじゃないかと思っていたからですよね?」
ストレートに球を投げつけられて、メイナードは普段のマナーも吹っ飛び思わずコクンと頷いた。
セイナも同じ内容をキャロラインとビビアンにする。
そして他のメンバーに向かって同じように同意を求めた。
「どこで勘違いしてしまったのか話すと長くなるんですが……」
「そもそも一年間の数え方が違うからずれちゃったのか」
令嬢たちは聖女たちの言いたいことがわからずもう一度首を傾げる。
「結論から言うと私は王子たちは選びませんよ。多分」
「そうですねぇ、私も討伐隊の若手の彼らと結婚しようとは思っていないんですよ」あっさりと告げる聖女たちの表情に嘘は感じられない。
それを聞いて全員がホッとした顔になる。
だが待てよ?と疑り深い貴族の血が騒ぐ。
『やっぱり恐れ多くて平民には王子たちは不釣り合いなのだ』と納得しようとしてみたがそこまで不釣り合いとも思えない。
じゃあなんで?
一瞬喜んだのも束の間で令嬢たちは『ではなぜ?』と視線を二人に移した。




