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聖女二人はサバサバ系  作者: 三輪 有利佳  (旧 美輪 伊織)


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6/8

聖女と討伐隊(後編)

 オスカーはユイナを段々目で追うようになった。

 いつも小柄で華奢なユイナを戦闘中はお姫様のように抱え込んでいるのに、照れたりもせず、馬上から降りる時彼女はサッと飛び降りる。

「いつもありがとうございます」とお辞儀をして名残惜しさなど微塵も見せないところがどうにも気になってきたのだ。

 (おかしい……他の令嬢たちと反応が違う)

 そう思ってからは気になってしょうがなかった。


 ある日、猿型の魔物がオスカーたちに向かって大きな黒い物体を投げつけてきた。

 死角からの攻撃で対応がおくれた。オスカーは咄嗟にユイナに打つからないようマントで庇おうとした。

 ところがユイナは

 『殿下!』と叫ぶとドンッとオスカーを突き飛ばし自分も一緒に倒れ込んだ。オスカーの上に覆い被さるようにして。

 皆は呆気にとられた。ユイナがオスカーを庇ったのだから。


 総司令官がその後その魔物を屠るとユイナはホッとしたように立ち上がった。

「殿下がご無事でよかった。その身に怪我などさせては大変です」

 ユイナが柔らかで自然な笑顔をオスカーに向ける。

 ズッキューーーン!!と音が鳴った気がした。女性は弱くて助けるものとしてきたオスカーの何かがうち砕かれた。

 


 セイナのことをパーカーは逞しい女だと思っていた。

 貴族の令嬢たちと違いセイナは少し筋肉質でスタイルが良い。例えるなら女性兵士たちに近い体型をしている。

 サバサバとしていて、その癖上下関係を勘よく理解しておりユイナの一歩後ろに控えている。


 身長は165センチほどでユイナより頭一つ大きいが時折見せる表情はユイナより可愛らしく映ることもあるくらいだ。

 見た目はユイナの方が幼いが、セイナの方が妹のような雰囲気である。

 体を動かすことが好きだと討伐軍の若手の兵士たちに剣の使い方を教えてもらっている姿には驚かされた。

 しかしセイナの素晴らしさは人の気持ちに寄り添えるところだった。


 村に到着したとき、魔獣に襲われた家族がいくつもあった。

 魔鳥獣の子育て期に子供は攫われて餌にされるのだ。

 全くもって酷い話であるが、セイナはそれを聞いて母親のために一晩かけて子供の遺留品を見つけてきた。

 恐ろしい魔鳥獣の巣になど総司令官でも忍び込んだことはない。亡骸を連れては帰れなかったが、幼子の最後まで手にしていた手袋をセイナは巣に飛び込んで取り返してきた。


「ごめんなさい。来るのが間に合わなくて」

 渡す瞬間、セイナは涙をこぼしながら母親に謝った。

 

 彼女は聖女としての清らかさがあるのだと胸が震えるような感動が討伐軍の皆に広がった。

 聖女二人は確実なカリスマ性があるとパーカーたちは確信した。

 それは力だけではなく、人格的なものが一枚も二枚も上だと思えた。


 二人の会話はいつも注意深く聞くように三人の男達はしていた。情報を少しでも得ておきたかったからだ。

 しかし半年が過ぎた頃聖女二人は異国の言葉で時折話すようになった。

 『偶に母国の言葉を使わないと忘れそうなんですよ』

 と言うがこの言葉は難解でオスカーや周囲の人間も理解することが出来なかった。

 『話の内容がわからないからやめてくれないか?』と言いたかったが聖女二人にそれを伝えるのは神の不況を買いそうで言えない。時間も短いことからその時だけは二人を見守るしかなかった。

 

 一年が経った頃。これだけそばに居て、優しくするのだから聖女達は自分たちのことをそれなりに好きになっているだろう……そう思っていたが、周りの使用人や兵士たちの印象は

『悪くはないと思うんですが、お二人がオスカー殿下たちに恋をしているかと思えばそうではないような……』と微妙な反応をする。


 王宮に戻って宰相に相談すると

『彼女たちは賢い人たちです。頭がお花畑の苦労知らずとも違う。お二人の性格を分かった上で、三人がどちらの聖女を口説くのかきちんと決めたらどうでしょう?』とアドバイスした。


 すると意外なことに宰相の息子パーカーは《聖女セイナ》を指名し、王子のオスカーは《ユイナ》に決めるとはっきりと言う。

 それを聞いた三人の父親は『彼らはいつも卒なくなんでもこなす子どもたちであったけれど、聖女たちに本気で惹かれているのかもしれない』と相談しあった。

 本気で愛し合える夫婦になるのならそれはそれで良いことである。

 王家と公爵と宰相は息子たちに自分たちのとっておきの裏技を伝授するのであった。


 オスカーは今まで好意を寄せられることが多過ぎてユイナをどこか甘く見ていた。

 『好きだよ』と囁けば相手はみんな頬を染めて喜ぶと思っていたからだ。

 だからユイナに愛を囁くとき、正直に胸の内を晒した。

「君のような人は初めてだよ。聖女としての魅力だけじゃない。人間としての器がこの国の令嬢たちと違う。なんて言ったらいいんだろう。こんな気持ち初めてなんだ」


 ユイナは驚いた表情をして暫し考え込んだ。

「殿下……それは気のせいです」

「え?気のせい?」

「はい。気のせいです。これは吊り橋効果と言って、非日常の状態にある男女はいつもより恋に落ちやすく、現実を見ていないという根拠がある話なんです」

「え?でも私は王宮に戻った時でさえユイナのことが頭から離れない」

「それは今まで考えることが少なかったからです。ご両親と離れる時間が長いことなんてなかったでしょう?親がたくさんの身の回りのことをしてくれていたから思考がゆっくりだっただけですよ。夜会が再開して多くの女性を見たらきっと目が覚めます」

「そんな!この気持ちは本物だ」

「大丈夫です!今はわからないかもしれませんが討伐が終わったらきっと答えが見つかります」


 オスカーは真っ向から否定されてもユイナに縋った。

 華奢で線の細いユイナであったが随分と説得力がある。そして深い色の瞳に見つめられるとなんともいえない切ない気持ちになった。

 オスカーは王たちから言われていた密命など忘れて、必死に口説いてみたが

「とりあえず、討伐が終わるまで保留で」と言われた。

 実質の『待て(ステイ)』である。


 オスカーは生まれて初めて敗北感を感じた。


 

 パーカーもセイナと距離を詰めようとするがどうも一歩引かれているような印象だ。

 国一番の美男子であると言われているパーカーは実は女性を口説いたことがない。『必ずや口説き落としましょう!』と父親の宰相に大見得をきったものの全く何をどう言えば良いかわからない。正直にいうとパーカーは褒めてもらうことはあっても、人を褒めたりすることをしたことがなかったのだ。

 

 セイナがある日王宮で体にピッタリ沿うウランバルブ王国では珍しい形のロングドレスを身につけていた。

 それは下腹が出ていない、スタイルの良い彼女しか似合わないような鮮烈な印象のドレスである。


「…………セイナ…………なんて美しい。女神のようだな」

 パーカーの口から自然とほめ言葉がこぼれ落ちた。

 セイナは一瞬驚いたような表情をしたがクックックと笑い出した。

「自分大好きのパーカー様が私を褒めるなんて、さては夕食のデザートを譲って欲しいんですね!でもダメですよ〜今日の晩餐のチェリーパイはこんなドレスを着ていても絶対に完食します!」

 フフフンと顎をあげて得意げに笑う彼女が輝いて見えた。

「そうじゃないんだ……あの!」と言っても彼女は全く気にも留めない様子でサッサと行ってしまった。




 *********

〈白金の森林にて〉


 湖畔が夕焼けに煌めく中ジェラルドはユイナの前に跪いた。



「聖女ユイナ…………討伐の中、貴女ほど高潔な人は居ないと僕は心を奪われた。どうか僕の妻になってください」大きな石が載った指輪を目の前に差し出しユイナの目を見ながら彼はプロポーズした。


 ユイナは驚いた表情を一瞬見せたが『やだ〜〜〜!』と笑い出した。


「一瞬本気にしそうになりましたよ!もーーー!びっくりした。ジェラルド様、いくら私でもあなたに好かれているかどうかくらいわかります」

 そう真面目な顔で語り始めた。

「え?僕は本気だよ?」

 ジェラルドは慌てたようにユイナの手を握った。


「違います。王様たちから私たちに結婚を申し込むように言われているんでしょう?『聖女を囲い込め!』とか命令されているんでしょう?」

 ユイナはひどく真面目な顔でうんうんと頷いた。


「…………ユイナは本当はオスカー殿下が好きなのか?」

「とんでもない。私には恐れ多いことですよ。確かにこの『聖力』は皆様には魅力的かと思います。でも私がこの力を討伐後に失ったら?あなたは本当に私と結婚したいですか?」

「それはもちろん」

「本当に?力がなければただの女です。後ろ盾もありません。貴族の貴方になんのメリットもありませんよ?」

「私はユイナの人柄に惚れたんだ」

「うーーーん。それはないと思います。私だって少なからず恋愛してきましたから愛されているかはわかりますよ」

 そう言われるとジェラルドはドキリとする。

「いや……私はユイナに想いを寄せてこの森林を取り返したら必ず告白すると決めていたんだが」

「一〇〇歩譲って結婚を意識したとしましょう!だったら王宮に帰って半年後に同じ気持ちか確認してからプロポーズしてください!!絶対同じテンションでできないと思います!!」ユイナは力強く拳を握りしめ『ね!!』とジェラルドの肩を叩いた。


 先陣を切ったジェラルドは半年後に再チャレンジを余儀なくされたのであった。

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