面接
私はコンビニにバイトの面接でやってきた。
家の最寄りにあり、私もよく大学帰りに寄っている店舗だ。
目の前には、この店の店長が座っている。
店内は暖かいが、小太りの彼には暑いようで額に汗が滲んでいる。
「じゃあ、採用ね。早速明日から入れるかな?」
店長は履歴書から目を離し、微笑みながら私に問いかける。
はい、と答えると了解と返される。
彼は手帳にボールペンでメモを取り、そのカリカリという音だけが控室に響き渡る。
私が結果に安堵し、小さく息を吐くと、店長は手を止めて、こちらに向き直る。
「うちで働くからには、困ったことがあったら何でも言ってね。よくバイトの子達の相談にのっているからさ」
眼鏡越しに男の細い目が、更に細まる。
男は堅くみえるが、口角が上がると優しそうな雰囲気になった。
つられて私も微笑む。
室内からは緊張感が薄まり、エアコンの風でパタパタと机に積まれた書類の端がなびく。
「最近、少し物騒だろう?この間はストーカーに付き纏われているって相談を受けたなぁ」
ストーカー
そのワードを聞いて、私の心臓は大きく跳ねた。口内には唾液が広がり、それを飲み込んだ音が耳に響いた。
店長はそんな私の顔をじっとみつめ、もしかして……と呟いた。
「君も、ストーカーに遭っているのかい?」
その声は、私を心配しているようだった。
不安気にこちらを伺い、さっきまで組んでいた脚を下ろしていた。
しばらくの間、店員のレジ対応をしている声だけが、控室の外からくぐもって聞こえていた。
「……実は、そうなんです」
私は意を決して、ぽつりと溢した。
緊張で喉が渇いてしまっていたからか、
声は思っていた以上に掠れてしまっていた。
店長は、面接前に出してくれていたペットボトルを私の方に押し進めて、飲みなさいと言ってくれた。
ペットボトルを開け、お茶を喉に流し込むと、ようやく少し落ち着けた。
その様子を店長は、優しい笑みを浮かべてみている。
「落ち着いたかな?」
「はい、ありがとうございます……」
私がお礼を言うと、店長は、気にしないでと言う。
「それより、ストーカーの話、大丈夫かい?さっきも話したけど、他の子の相談にも乗っていたから何か力になれるかもしれない。少し話してみないかい?」
そう促され、私はペットボトルを握りしめながら、自分の足先を見つめて話し出す。
「玄関の前に、紙袋が置いてあったんです。中を見たら、真っ白なノースリーブのワンピースと、薔薇の花束が入っていて……誰に聞いてもそんなもの送ってないって言われて」
話す程に、あの気味が悪い気配を思い出して、体温が奪われるたように身体が震える。
「盗撮写真みたいなものも、ポストに入れられていて、本当に怖いし……」
「それって、君のこと愛してるって愛情表現なんじゃないかな?」
間髪入れずに、店長が早口でそんな事言う。
私は、一瞬何を言われたのかよく理解できなかった。
そんな私に気がついていないのか、店長は饒舌に続ける。
「そんなに愛してくれる人って、中々居ないんじゃないかなぁ。本当素敵な人だねぇ。羨ましいなぁ」
口から唾を飛ばしながら、半笑いで話し続ける店長に、私は眉を顰めそうになるのを我慢する。
「でも……気持ち悪いですよ、そんな一方的な事されても」
嫌悪感いっぱいの声で、そう吐き捨てる。
チカチカと古い蛍光灯が点滅し、部屋が薄暗くなる。
視界がぼやけ、店長の眼鏡の奥の表情が、うまく読み取れず、私は目を擦った。
「気持ち悪いとかいうなぁ!!!!!」
突如、店長が大声で叫び、机の上の書類をぶちまける。
鼻の穴を大きく広げ、息を絶え絶えに、何かずっと呟いている。
眼鏡越しに見える細い目からは、優しさは消え、狂気を孕んでいるように見えた。
店長の異常な姿に私は驚き、席を立とうとする。しかし、それは叶わず脚がうまく動かない。頭が朦朧とし、意識をとばしそうになりなる中懸命に抗う。
店長は私の様子を見て、ニコリと微笑み、
やっと効いてきたね、と呟く。
そして、足元にあった紙袋の中を漁り出す。
「いつもお店に来てくれてたでしょ?その時から君だっで決めてたんだ。プレゼントも、また用意しておいて正解だったよ」
紙袋の中には、白いワンピースと薔薇の花束がみえた。
「今日はね、バイトの他にもう一つ面接をしてたんだよ。最後の一言で本来なら不合格だけど、許してあげるね」
そう言って、私の薬指に指輪をはめる。
「これで、ずっと一緒にいられるね」
気味の悪い笑顔を浮かべる店長が見えたのを最後に、私は意識を手放した。




