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誰かの一人言

作者: 塩狸
掲載日:2025/11/11

仕事先で縁あって

少しだけ不思議な力があるんですよって人に

「何か気になることあります?」

って聞かれて

「私は一度も聞こえたことがないんですけど

静かな場所とか夜道で歩いていると

私の方から足音が2つ聞こえると言われます」

夜道なんかは

隣を歩く友達が頻繁に振り返って

「?」

と首を傾げるくらいにはよく聞こえるらしい

そう話したら

「手拍子

それはあなたにも聞こえるはずです

手拍子が聞こえたら

覚悟してください」

って真面目な顔で言われた


数年もしないうちに

ある日を境に

初めはほんの微かに

段々はっきりと手拍子が聞こえるようになって

小さくて柔らかな手をパチパチしてるみたいな手拍子

覚悟してくださいって言われたけど

あんまり緊迫感ない音だなと思ったら

不思議な力のある人に再び会えた

「手拍子の音がします」

と伝えたら

「あー、そうですね」

って不躾にお腹の辺り見られてから

「……おわっすみません、今これセクハラですよねっ」

ってペコペコ謝られたけど

「とてもおめでたい、おめでたいことなのでついつい」

おめでとうございますとペコペコついでに祝われた

「えっ?」

は?

おめでたいって

え?え?

妊娠?

「あれ、お気付きでない?」

お気付きでないです

「これはこれは重ねて失礼」

手拍子が聞こえたら覚悟しろと言われたし

てっきり突発的に不幸が起きるのか死ぬのかくらい思っていたら

「いえいえ、生活が一変しますからね、色々な覚悟が必要ですよ!」

って

「そっちの覚悟かー!」

ってびっくりしたけど

うん

帰って検査キット試したら見事に陽性だった



海外に住んでるよ

皆が憧れるような海外でなくて

「あぁ、それはお気の毒に」

とか

人によっては

「えぇ~?私ならそんなとこ絶対無理ぃ~断るぅ~!!」

って逆マウント取られそうな方の海外ね

仕事は仕事

その土地で淡々と仕事してたら

取引先の都合で引っ越し決まって

たった半年とは言えお世話になった部屋だし

部屋の大掃除してたら

不意に

「○✕△□ー?」

って何か女の人の声で問い掛けられた

頭の上からかな

でも

頭上にも部屋にも誰もいなくて

日本語ではなくて現地の言葉にしても癖が強くて聞き取れなかったけど

何かこう

問い掛けられていることは分かったから

あんまり気にもせずに

「お世話になったお部屋だから、お引っ越し前にお掃除してます」

って答えたら

「……」

考えるような間があって、それから、

「ふーん?」

みたいな、そうなんだ、みたいな返事が来た

でも

なんと言うか

うまく言語化できないけど

恩情的な

絶対的なものから与えられる猶予

みたいなものを感じた

まぁそれっきり

なんだろうと思ったけど

異国だし

引っ越しで忙しかったしね

気にせず掃除して

空っぽになった部屋を後にして

わりといい感じの新居に着いた時

まだテレビもないからラジオのスイッチ押したら

つい午前中に退去したばかりの住所辺りで

激しい地盤沈下が起きて

当然建物も複数崩壊した模様、続報を待て、と臨時速報が流れてきた

あの時に私の感じた

何かからの

「恩情」

的な感覚は

間違っていなかったらしい



高校時代に仲良くて

別々の大学へ行った友人

半年くらい連絡とってなくて

どうしてるかなとSNS通して連絡してみたら

「お茶しよう」

と返事来て

久々に会ったの

友人は

少し、でもなく痩せてた

わりとふっくらしてたのに

でも

ふっくらしてた時のままの服を着てるから

ダボダボでちぐはぐさが拭えなくて

もしかしたら病気で痩せたのかもしれないし

迂闊にダイエットでもしたのかとも聞きにくくて

友人もお茶しようと言ってくれたわりにだんまりでさ


「えーと、最近、断捨離しててね」

と差し障りのない話題を口にしたら

椅子が軋むくらいに友人が固まって

「断捨離はやめて……」

蚊の鳴くような声で懇願された

何事かと思ったら


友人のお母さん

数ヵ月前から

いきなり家中の断捨離を始めて

「ママ、どうしたの?」

「え、死ぬんじゃないの?」

「やめてよもう」

とか軽口叩いて笑ってたんだけど

断捨離が済んですっきりした家になったある日

お母さん

夫と友人と息子を置いて失踪

もういい年だけど独身だった実の兄と

手に手をとって海外へ行って

行方知れずなのだと


父親は母親から

「好きな人がいたけれど叶わぬ恋だった」

婚前に聞いたことがあると

その叶わぬ恋は

“その時は”

叶わぬ恋であり

友人の母親も

その相手の兄も

どちらも

諦めてなどいなかった


(……え、うわ、重いなぁ)

が正直な本音だよね

友人は友人で

別に、話したことですっきりすることもなく

“自身にそういう出来事が最近あった”

と機械的に溢しただけで

なんなら

カフェの窓際でボロボロ涙を溢されて

私は

ただハンカチを差し出すくらいしか出来ずに

友人の涙が止まるのを待った


私たち以外の席は

和やかなカフェで

友人が泣き止むのを待ちながら

私は

ぼんやりと

窓の外に視線を向けて通り過ぎていく人を眺めなから

きっと

「互いに、いくつになったら一緒になろう」

と、2人で決めていたのであろう友人の母とその兄に

想いを馳せる

それぞれに想い合った兄妹で

いつか2人で暮らそう

2人で過ごそうと

そんな2人を

勝手だと責める人が大半だろうし

目の前の

よく見ればげっそりと意気消沈した

二度と母親に会うことは叶わないであろう友人の前では

口が裂けても言えないけれど


2人はやりきったのだ

生きて生きて

長い時をやり過ごし

誰にも知られず

悟られず


とうとう

やっと

執念とも言える

願いが

望みが


それはとても

とても

とても

とても


窓の外は

友人の涙に誘われたように

雨が降り出してきた



引っ越したワンルームマンション

条件もぴったり

壁もしっかり厚そう

それに

作り付けのお洒落な飾り棚があるんだけど

「これね、地震でちょっとガタ付いちゃって、開けるのはいいんたけど、閉めるのにコツがあるのよ。ちょっと押しながらこうね、こう閉めるの」

大家さんに教えてもらった

うんうん

慣れれば全然平気

住み始めて3ヶ月と10日

仕事から帰ったら

普段から絶対に閉めてる

その飾り棚の扉が開いてたのね

とりあえず

部屋の鍵だけは取り替えてもらった



親が子連れ同士の再婚なんだけど

新しくできた義兄はもう大学生で

私も高校生で

とにかく義兄がね

何て言うんだろう

「人間が出来ている」

と言うのかな

義兄は

母親に

再婚したいと考えている

と相談された時

お相手に娘がいると聞いた途端

自分たちよりも

義兄妹になる私のメンタルを一番に考えて欲しいって

母親にも私の父親に対しても

そんなことを頼み込んでくれる人だった

義兄は見た目も性格も話し方もおっとりで

悪く言うと悪い人に騙されそうな感じ

だけどね

昔から良いことにも悪いことにも勘がよーく働く子供で

義兄は

父親をだいぶ若くしての事故死で亡くしているのだけれど

義兄は

その日の朝

父親を見送る時に

「いってらっしゃい」

ではなく

「バイバイ」

と見送ったらしい

本人は覚えてないらしいけれど

それだけでなく

普段から

生きてない人とかもよく視えるらしい

「良いことないよ」

と苦笑いされるけど

義兄が言うには

「僕に限りだけど、少しの勘の良さと“視える”はセットなんだよ」

視えなくなったら、勘も働かなくなりそうだと

そうなんだ

そんな義兄は

義妹の私のことをすごく可愛がってくれた

義兄は普段から

人ならざる

ええと常世のもの?

みたいな存在は

なるべく見て見ぬふりをしてるらしいけど

一緒にいると

やっぱり

「何かいるの?」

って聞いちゃう程度には色々視えるみたいで

「ごめんね」

って謝ってすらくれるけれど

義兄は

一緒にいる私に害がないかを確かめるために視てるだけって知ってるから

謝る必要なんかないのにって思ってた

私は

そんな兄の

その視え方

が気になってね

自分で言うのもあれだけど

高校生のわりに中身が幼かったから

多分

小学校3年生くらいの精神年齢だったと思う

「どうやれば視えるの?」

って義兄にしつこく(たず)ねては困らせてた


高校2年の初夏かな

新婚旅行へ行く両親を送り出してさ

「義兄さん独り占めだー!」

ってね

はしゃいでたんだけど

夕方に

義兄がね

リビングを見回して

「覚悟があるなら今日だけ」

子供用のおもちゃのスイッチを見せてきたの

兄の手のひらサイズで

赤い丸いボタンが1つ乗ってるだけのホントに単純なスイッチ

押すと

「ポーン」

って気の抜けた音がするだけ

兄は

寝る前に

これをキッチンのテーブルに置けばいい

私は隣のリビングのソファで眠ればいいと

「?」

キッチンを通り過ぎる目には視えない人たちが

気まぐれにこれを押していくかもしれないと

「えーっ?」

私は大はしゃぎでさ

高校生なのによ

夜は9時に夏がけ用の布団部屋から持ってきて

キッチンもリビングも暗くして

ソファでスマホ弄ってたの

兄は早々と自室へ籠ってたから

たまには兄とL○NEしてね

両親から来たメッセージに返信したりして

それでどれくらい経ったかな

気付いたら寝ててさ

「ポーン」

って音で目が覚めたの

「……?」

家のチャイムかと思ったけど

うちのチャイム

ブーッてブザーなの

(あっ……!)

って思い出して

ドキドキしたけど

半分は疑ってたんだ

義兄が遠隔操作でもしてるんじゃないかって

でも

「……」

リビングのね

テーブルの前に

スーツ着た小柄なおじさんっぽい人が

立ち止まってボタン眺めてるのが視えた

不思議そうな顔して

でもそのおじさんはなにもせずに通り過ぎて行った

そのまま庭へ出て行った

私は心臓が凄い早鐘打ってて

そのままじっと目を凝らしてたけど

気付いたら私はまた眠っちゃって

「……ポーン」

って音で起こされてね

(あ……)

なんか悲しかったのは

小さな子供が椅子によじ登ってスイッチを押してたこと

あぁ

あんな小さいのにもう死んじゃってるんだなって

その子は

音が鳴っても

特に反応なくて

椅子から降りると駆けて行った

あ、これは無理だと思ったのは

首だけをこちらに向けながらスイッチを押していた女の人

身体はテーブルのスイッチなのに

顔はこっちなの

オシッコ漏らしそうだった


明るくなって起きてきた義兄に

「呼び出されると思ったけど大丈夫だったね」

って度胸を感心されたけど

あれから朝まで

ほぼ気絶するように意識失ってただけ

私はお漏らししてない自分を内心で褒めながら

「毎日あんなの視えてるの?」

って義兄に訊ねたら

「毎日じゃないよ」

笑ってたけど

きっと視えてるんだろうね

たった一晩で視えるのは凄いよとも言われたけど

こんなの凄くなくていいよ

義兄といることで

私にも少し移ったんだと思う

全然影響されない人もいるし

そうでない人もいる

私は後者だった

義兄が好きだし全然気にしなかったけどね

普段は滅多に視えなかったし

義兄の視てる世界を共有できたのは嬉しかった

義兄はよく気が狂わなくて済んでるなとは思ったけど


義兄は

自分のごくごく身近な人を守る時しか、余計なことは言わなかったし

なにもしなかった

助けることもしなかった

いつか

信号待ちで

歩きスマホの人がスマホしか見てなくて

赤信号でも渡り始めた時

義兄がしたのは

その人を止めることではなくて

私の目を塞ぐように私の前に立ち塞がったこと

「何?」

と思ったらさ

その直後に

青信号ではあるけど

明らかにスピード違反で走ってきた乗用車に跳ね飛ばされて宙に舞う女の人とスマホをね

私が見ないで済むように

義兄は私の前に立ったの

「どうして助けなかったの?」

さすがに聞いたよ

義兄は

「僕があの人の腕を引いて防いでも

彼女は明日

踏み切りで電車に轢かれた

肉塊になるより今の方がまだ綺麗だから」

って小さく呟かれた

義兄は

そんな未来まで視えるのか

「たまたまだよ

彼女の死が物凄く近くて

彼女が足を踏み出した瞬間にそれが視えただけ」

義兄が言うには

例え明日の踏み切りで彼女を止めても

更に次の日に彼女は何らかの原因で死ぬと言った

義兄は

なんでそれが分かるんだろう

歩きスマホ彼女を撥ね飛ばした運転手は

「俺は悪くねぇぇぇぇー!!

何だよこいつっ何だよこいつっ!!

ちくしょう何だよ出てくんなよ!!車が傷付いたじゃん!!」

って警察と救急車が来るまで叫んでた

あと

「俺は悪くないって証言しろや!!」

って横断歩道にいる私たちや他の人にも唾飛ばしながら迫ってきた


私は

変わらず兄が好き

家族としてね

尊敬してる

その兄がね

最近

特に私に優しい

元から優しかったけど

まるで思い出作りの様に出掛けたり話したりしてくれる

両親を交えても

2人きりでも

多分ね

兄には

もう

近い未来に

私を助ける

助けられる未来がどうやっても視えないみたい

そう思った


でもね

気付いた

死ぬのは本当に私なのか

兄が死ぬのか

あるいは

2人で死ぬのか

って


それは

死ぬまでわからないのだけれど

運が良ければ

死ぬ間際に分かりそうだよね


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