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愛しさの傀儡(かいらい)

作者: てあれった

逃げて逃げて、行きついた先がここであった。

ここはとあるVRゲームにあるワールドのひとつだ。


窓から夕陽が差し込む4畳ほどのワンルームに

フローリングの床、小さな机と椅子が置いてある。


机の上には購入したアバターを並べられる。

そして、それらを手に取って遊ぶことが出来るのだ。


僕はよくここで人形ごっこに興じていた。

手が届く範囲の狭い狭い劇場の中で、

僕の想像力はどこまでも遠くに広がっていた。


今日も僕はやるべき事を終えて、

PCを立ち上げゲームを起動し、

このワールドに入場した。


しかしそこには既にキミがいた。

僕とキミは互いのアバターで会話を始めた。


僕「やぁ、こんなへんぴな所でどうしたの?」


キミ「それはこっちのセリフだよ。この部屋はなんなの?」


僕「えーと、この部屋はね、人形ごっこが出来るんだよ。」


キミ「人形ごっこ?」


僕「そうさ、この机の端に手をかざしてみて?」


そう言われたキミは訝しげに僕を見つめたあと、

机の端に手をかざしてみせた。


すると彼女の姿をしたアバターがひとつ、

机の上に人形として現れた。


キミ「へぇ、これはすごいね。」


僕「すごいよね!」


キミ「それで、君はここで何をしてるの?」


二人で交わす会話というのは時に真に迫りすぎる。

僕はそういう時とぼけたフリをして遠回りをする。


会話というのが遊びがなければいけない。

真っすぐで無駄のない物語は

古臭い説教と何ら変わらないことを知っている。


僕「人形ごっこをしているんだよ。ほら、こんにちは!○○さん!」


キミ「こんにちは。」


僕らはお互いの人形を手に取って、

なりきってお話を始めた。


キミ「ここで何をしているの。」


僕「遊んでるんだよー!君も一緒に遊ぼうよ!」


キミ「何をするの。」


僕「そうだなぁ~、ここには沢山の遊具があるんだけど。」


そう言って僕は自分の人形をくるりと回して見せた。


僕「まずはお砂場に行こうよ!こっちだよ!」


そう言って僕は人形を

左右にコトコトと揺らしながら3cmほど移動させた。


そこには別に砂場は無いのだけど、

あるということにしてもらった。

君の人形はそんな僕に無言で付いてきた。


キミ「私、砂場の遊び方わからないよ。」


僕「大丈夫!僕のマネをしてごらん。出来そうかな?」


キミ「わかった。やってみる。」


思えば君はいつも大胆な返事をしてくれた。


初めて会った時控えめで臆病にすら見えたのに、

見過ごせないダイヤのような輝きが、

膨大な砂粒の中に隠れていた。


僕「まずは僕の番ね!こうやってこうやって…。」


僕はそう言いながら人形を前のめりに

劇場の床にツンツンして、

砂場で遊ぶような素振りを見せた。

そしてもう片方の手で机の端に手をかざした。


すると僕が昔購入した恐竜アバターの人形が僕らの人形の間に現れた。


僕「じゃじゃーん!恐竜さんだよ!君にもできる?」


キミ「フーン。見てて、こうしてこうして。」


そう言うと君も慣れない手つきで

人形を劇場の床にツンツンしながら、

もう片方の手で机の端に手をかざした。


すると動物アバターの人形が3体も現れた。


僕「わぁ!3体も!?キミ、本当にはじめて?」


ぼくは思わず噴き出した。

キミはそんな僕を見て少し微笑んだ。


僕はそんな君を見て顔が綻んだ。

キミはそれに気付いたのか少しツンとした。


キミ「砂場はもういい、他には何があるの。」


僕「えー他に?何かあるのかなぁ…」


無い。ここには何も無い。

しいて言えば

綺麗な夕陽のエフェクトが差し込んでいるだけだ。


僕「ねぇご覧!綺麗な夕陽だよね!」


二人で広い窓際に立ってみた。


キミ「くだらない、この夕陽は沈まない。」


そう、この陽は決して落ちない。


僕「今日はいつになく厳しいね~!」


キミ「もう、良いでしょう?」


そうキミは言うと僕の肩を掴んだ。

僕は再び劇場の方へと押し戻された。


その時、劇場にいた僕の人形が

彼女の服に当たって、

グラグラとバランスを崩した。


そしてそのまま僕は壁に追い詰められて、

キミの顔しか見えなくなった。


キミ「何が言いたいかわかる?」


わからない、何もわからない。聞きたくない。

僕は決してそれの支配下には置かれない。


眼の端に映る夕陽はいつまでも下に移動しなかった。

それなのに劇場にいた僕の人形は

机の上をくるくると回転し、遂には下に移動した。


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