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言霊陰陽師

作者: 津辻真咲

「いってきます」

「いってらっしゃい」

――今日も勉強、頑張るぞ!

 佐久間朱里さくま あかりはそう意気込むと通学路を歩き出す。

 てくてくてく。登校中。いろんなものが見える。

――今日もたくさん、言霊が悪霊化してる。

――あれは〈友達〉 あれは〈死ね〉

――〈友達〉は本当は良い意味なのに……。

 ひとつひとつの言葉にそれぞれ、力が宿っていた。朱里はそれが見えるのだ。

 てくてくてく。朱里は歩く。

「おはよう」

「おはよう」

 朱里は親友の五十嵐彩月いがらし さつきと挨拶を交わす。

――あ。言霊だ。あれは〈大好き〉

――もしかして、告白された?

 朱里には言霊が見えた。

「あのね、あとで大事な話があるの」

 彩月は少し、頬を染めて言う。それに気付き、朱里は問う。

「もしかして、告白された?」

「え!? 何で分かったの!?」

「えーっと、勘。嬉しそうだったから」

「ありがとう! やっぱり、朱里はすごいね」

 ぞぞぞぞ。後方から、嫌な気配が近づいて来た。

 朱里は振り向く。

――あれは悪霊化した言霊。意味は〈許さない〉

――逃げた方が良さそう。

 朱里はそう判断し、彩月を誘導する。

「教室へ行こう」

「うん」


「今日は、転校生を紹介するぞ」

 担任の先生はそう言う。

「えー、誰だろう」

「美人か?」

 クラスメートたちはそれぞれ、会話をする。

「では、入って来い」

 先生がそう促すと、一人の男子が入って来た。

「はじめまして。長谷川和真はせがわ かずまと申します。よろしく」

 彼はそう自己紹介した。

「ねぇ、イケメンじゃない」

「確かに」

「かっこいい」

 女子たちがそうざわめきだす。

「では、席は佐久間さんの隣な。佐久間、しばらくサポートよろしく」

「はい」

 先生の指示に、朱里は従った。

「佐久間さん。よろしく」

 朱里の隣にやって来た和真はそう挨拶する。朱里は彼を見る。

――何、この感覚。

――まるで、この人、悪霊化した言霊と同じ気配。

――何で?

 朱里は不穏な気配を感じ取った。


 化粧室。朱里はあるものに気付いた。

「?」

――あれは、言霊。まだ、悪霊化はしていないみたい。

――今のうちに浄化しておこう。

 朱里は後をついて行く。

――〈大切〉あの言霊はいい意味だったのね。

――中庭まで来ちゃった。どこだ? あ! いた!

 朱里は対象物を見ていた。すると。

 ぼわっ。

――え。

 転校生の和真がいた。

「我が力となれ、言霊」

 ぼわっ。言霊が悪霊化した。

――え!? どうなっているの!?

――和真君が言霊を悪霊化させた!?

 朱里は思わず隠れる。

――どうしよう。あの人、悪霊陰陽師だったの!?

――退治しなきゃ。でも、ここではみんなが危ない。

――放課後、後をつけよう。


 放課後。

――やっと放課後。あじとはどこ?

 てくてくてく。朱里は和真の後をつける。

――ここは神社?

――大きなイチョウの木。まだ、緑色。夏だものね。

――でも、なぜ、ここに?

 朱里は彼を見た。すると。

「やぁ、やっと二人きりになれたね?」

 和真は振り返る。

――ばれていた!?

 朱里は焦る。が。

「裏切者」

――え? 一体どういう。

 朱里は一瞬、固まる。すると。

「はははは、ばれていたか。つけていたことに!」

 後方から声がした。

――あれは悪霊化した言霊!

――もしかして、私じゃなかった?

「さぁ、かかって来い。裏切者」

 和真は札をとばす。が、避けられる。

――〈裏切者〉っていう言霊なのか。

 和真は再び、札をとばす。

――もしかして、あれって!

「最後の一枚!」

 和真は叫ぶ。

――五芒星!

 朱里は見ていて、驚いた。

「我が力となれ! 言霊!」

 和真は再び、叫ぶ。

「うわぁぁぁ!」

 言霊は消えていった。

――一体、どういうこと?

――なぜ、言霊の力が必要?

 朱里は考えていた。すると、和真は彼女に気付いていた。

「そこにいるんだろう? 言霊陰陽師」

――え? ばれて。

「早く出てこい」

「ごめんなさい。後をつけたりして。でも、どうして、言霊を悪霊化したりするの!」

 朱里は叫ぶ。

「中庭での一件か?」

 朱里は頷く。

「あれには、続きがある」

 和真はそう言う。

「続き?」

 朱里は首を傾げる。

「言霊を悪霊化したあと、その言霊を無力化している」

 和真はそう説明した。

「え!? そうなの!?」

「さっきの戦いを見ていないとは言わせないぞ。あれは言霊の力を奪い、無力化しているんだ」

「そっか、そうだよね」

 朱里はほっとする。が。

――ん?

「でも、何で、我が力になれなの?」

 朱里は聞く。

「目的を聞いているのか?」

「うん」

 朱里は真剣に頷く。

「よみがえらせたい言霊があるんだ」

 和真はそう言う。

「悪霊化して、浄化された言霊なんだが……」

 和真は俯く。

「どうして?」

「大切な幼なじみの最期の言葉だったから」

――大切な人……。

「だから、力を集めている。じゃあな」

 和真は立ち去る。朱里は彼の後姿を見ていた。

――大切な人かぁ。願い、叶うといいね。

 朱里は少し、苦笑した。


 次の日。

――ん?

 朱里は彩月を見つける。

――あれは、言霊? あれは、〈消えろ〉!?

――早く浄化しなきゃ!

 朱里は慌てる。が。

「待て」

「和真君!?」

 和真が止めに入った。

「ここでは危ない。昨日の神社まで、おびき出した方がいい」

「でも、どうやって?」

「お前、あいつと仲いいだろう?」

 和真は、朱里と彩月の仲を聞く。

「何で分かるの?」

 朱里は驚く。すると。

「あいつにお前の言霊がついていた。いい意味のな」

 和真は少し、微笑む。

「え! 気付かなかった!」

「無意識だから、仕方ないよ」

 和真は続ける。

「勝負は今日の放課後だ。言霊たちは正体を見破られた途端、暴れ出す。神社まで、あまり刺激するな」

「うん。分かった」


 放課後。

「ちゃんと、呼び出したんだろう?」

 和真は聞く。

「うん。彩月はちゃんと来るよ」

 朱里は答える。すると。

 しゃぁぁぁ。木から落ち葉が落ちてくる。

「ちょっと待って。まだ、夏だよ。どうして、落ち葉が」

 朱里はイチョウの木を見上げる。すると。

「来たみたいだな、言霊が」

「彩月!」

 朱里は驚く。

「かなり進行しているな。行くぞ!」

「はい」

 和真は札をとばす。が、避けられた。

――五芒星さえ、作れれば!

 朱里も札をとばす。

――よし、木に張り付いた!

――これで、五芒星が出来……。

 が、しかし、木に張り付いた札がぼろぼろになっていく。

――どうして!?

「そんな札じゃ、俺は消せない!」

 悪霊化した言霊が叫ぶ。そして、札が燃える。

――そんな! このままじゃ、彩月が!

「もたもたするな!」

 和真は残りの札を持ち出す。

「は! そんな札! 燃えろ!」

 札が燃える。

――あいつ! 言霊を操った!?

「くそっ」

 和真は焦る。

――一体、どうすれば! もう札がない。

 朱里も焦る。すると。

 頭上からは、イチョウの木の葉が落ちてきていた。

――そうか。このイチョウの葉を使えば! 札の代わりになりそう!

「切れろ!」

 朱里はそう叫び、イチョウの葉をとばす。

 ザクッ! イチョウの葉が言霊に切りかかった。

「な、何!?」

「刺され!」

 朱里は再び、葉をとばす。

 グサグサグサ! 葉が刺さる。

「くそぉ!」

 言霊はうなり声を上げて、巨大化する。

「朱里! 一旦逃げろ!」

 和真は叫ぶ。

「一体どこへ?」

「神社の中だ! 急げ!」

 二人は神社の中へ入る。

 ガタンッ。ドアを閉める。

「一体、どうすれば」

 朱里は考えを巡らせる。すると。

「あれは……」

 和真は指さす。

「この神社に代々、祭られている弓矢よ」

 朱里は答える。

「これなら」

 和真は手に取る。

「どうするの?」

「俺は、この矢に今まで集めた言霊の力を入れる。お前は、その矢であいつを射貫け」

 和真は朱里にそう言う。

「それじゃ、和真君の夢が!」

「そんなことを言っている場合ではない! いいな!」

 和真は表情を険しくする。

「分かった射貫く」

 朱里は和真の決意に答えようとする。和真が矢を持ち、力を込める。

「我が力よ。矢に籠れ」

 和真はふらつく。

「和真君!?」

「大丈夫だ。力を込めた。早く射貫け」

「はい」

 朱里は神社の戸を開け、弓矢を構える。

「貴様ら、そんなものでは!」

 巨大化した言霊が叫ぶ。朱里は気にせず、矢を放つ。

「うわぁぁぁ」

 矢で射貫かれた言霊は浄化された。轟音後、辺りは静まりかえる。そして、彩月が倒れていた。

「彩月!」

 朱里は彼女の元へ駆け寄る。

「大丈夫。眠っているだけだ」

 和真はそう言い、朱里を安心させようとする。

「良かった」

 朱里は涙をにじませた。

「……」

 和真は黙っていた。

「ごめんなさい」

 朱里は和真へ頭を下げる。

「ん? どうした?」

 和真は首を傾げる。

「和真君の夢。折角、集めた力を使っちゃって」

 朱里は申し訳なさそうにしていた。

「いいよ。別に」

 和真は気にせず、微笑む。すると、足元から、言霊が出て来る。

「これは、〈好き〉?」

 朱里はそれを拾い上げる。

「これって、和真君の言霊!」

 朱里は驚く。

「ちょっと待て! 忘れろぉ!」

 和真は顔を赤くして、叫んだ。朱里はそれを見て、微笑んだ。

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