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初恋の後悔  作者: お風呂かこ
一章 高校生編 一年生
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六節 夏休み

 何事もなく一学期は終了し、明日から夏休みに入ろうという今日、僕は昔からの友人、かさと久しぶりに会う約束をした。

 一足早く集合場所のスーパーに着いた僕は、野菜売り場を練り歩いて待っていた。そうして少し待つと、かさが来た。


「おー、まこ。なんかけっこう久しぶりじゃない?」


 かさは、僕のことを当たり前のように、まこと呼んで近づいてきた。最近は倖成君にしか呼ばれなくなったその呼び方が、少し懐かしかった。


「久しぶり。あ、そういやかさって部活入った?」

「いや入ってないよ。僕は大学進学を見据えてるんでね。勉強してる」

「へえーそっか。どこ行きたいの?」

「学校はまだ未定だけど京都に行きたいというか、あそこに住みたいんだよね」

「憧れみたいな?」


「うーん、まあそんなかんじかな」

「へえ」


 僕が雑な相槌を返すと、かさは話題を変えた。


「というか、なんでここなの?」

「いやだって、二階にファミレスあるし」


 僕がかさを呼び出した理由は、何か食べながら話をしようと思っていたからだ。高校生になってからあまり人と遊んでいない僕は、久しぶりに誰かと話したい気分だった。小学校以来の部活のない夏休みに浮かれているというのも、理由の一つではある。


「ああそういうこと、でもそれならそっち集合でよくない? なんでわざわざ野菜売り場に」

「いや、ふつうに呼び出したらおもしろくないし」

「まあいいけど。じゃあ行こうか」


 僕たちは二階に上がり、店内の一角にあるファミレスに入った。


「そういや倖成くんは? 学校一緒だよね」

「倖成くんは部活やってる。けっこう本気だよ、倖成くんは」

「あーそっか。それなら仕方ないか」


 一応誘ってはみたが、部活の練習があると断られた。かさは勉強をするようだし、何もないのは僕だけだ。僕も進学志望なわけだし、勉強をしようか。まだ志望校は決めていないけれど。


「まこはどっか行きたいとかないの?」

「一人暮らしはしたいけど、住みたい場所は特にないかな。まあ、しいて言うなら瀬戸内海って言葉の響きが好きだから、その辺りかな」

「おお、その独特な感じ、全然変わってない」

「まあ、久しぶりとは言っても半年も経ってないし、そうそう変わらないよ」

「確かに、それもそうか」


 かさは困ったような顔で、うれしそうに笑った。

 かさは僕のよくわからないところを気に入っているらしい。僕としては、自分が楽しいと思う方を選んでいるだけなのだが、かさがいいというなら僕はこのままでいようと思う。


「というか、僕的にはかさが勉強頑張るってのが意外なんだけど。ほんとは入りたい大学あるとか?」

「いや、まあ候補はいくつかあるけど、特にここってのはないよ。でもどうせならいいところ目指したいなと思って勉強してるだけ」

「ふーん。あ、そういや友だちできた?」


 僕は話題を変えた。これも気になっていた。


「まあ、少しは」

「けっこうちゃんと喋る?」

「うん。でも高校はもう、気の合う人だけでいいかなと思ってる。なんかもう、いいかなって気になるんだよね」


 そう言ってかさは少し顔をそらした。

 僕も、その感覚は分からないわけではない。今から新しい関係を作るより、こんなふうに既にある関係を続けるほうが楽だ。今までの自分を知らない人に、教えなければいけない手間もある。それに僕は、あまり進んで話したくもないし。


「僕はわりと話す人いるよ。友だちってよりかは、知り合いみたいな感じだけど」


 僕は顔をそらしたかさに向かって言った。


「そうそう、そんな感じ。仲良くなれそうなやつと仲良くしとけばいいかなって」

「まあ、そうなるよね。まだまだこれから仲良くなるのかなって感じもするけれど」


 そうこうしていると料理が運ばれてきた。

 食べ終わってから、僕たちはファミレスを後にした。


「じゃあ、また」


 僕はかさにそう言った。

 スーパーからは僕の家のほうが遠い。途中まで一緒に帰っていたが、ここでお別れだ。


「まこ、夏休み暇ならまた遊ぼう。勉強でもいいけど」

「ならまた声かける」

「うん、ほんじゃまた」


 僕は、特に目標もないままに夏休みを迎えた。


 そうして始まった夏休みは、かなり退屈だった。たまにかさを呼び出して、勉強したりする以外は、ほとんど外出もしなかった。蒸し暑い気温のせいもあり、僕の大部分は倦怠感が占めていた。何もやる気が出ないままに月日は流れ、あっという間に前半は終わってしまった。


 後半は、かさと一緒にいるときくらいにしかしていなかった宿題に追われ、本当に溶けるように過ぎてしまった。中学のときには、やりたいと思っていたことがあったはずなのに、いざ時間が与えられると、何もかもを先送りにしてしまう自分がいた。こうして僕の高校一年の夏休みは、己の自堕落さを目の当たりにするだけで終わった。

――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。

 父親と兄との三人暮らし。


永野司ながのつかさ かさ

 小学校からの付き合い。

 僕をまこと呼ぶ。

 京都に住むために勉強をしているらしい。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。

 高校でもバレーボール部に入った。


今井俊いまいしゅん 今井くん

 僕と似た空気を感じる。

 親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。


小林正樹こばやしまさき 小林くん

 昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。

 部活をやっている。坊主頭。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

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