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初恋の後悔  作者: お風呂かこ
五章 大学生編 二年生
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最終節 後悔の先へ

 三月になり、かさが実家に帰ってきた。僕は連絡を受けて、川沿いの道で待っていた。

 しばらく待つと、よく知った声がかかる。


「久しぶり、でもないか」

「そうだね」


 そしていつものように軽いやり取りをした後、僕がしあわせな家庭に対して、憧れや劣等感を抱いていたことを話した。

 かさは僕の話を、時折頷きながら聞いた。


「まあ、なんとなく察してはいた」

「やっぱり?」

「なんとなくだけどね。でも強がってるのはわかりきってたし」

「僕だって、かさは察しているだろうなと思ってたけどね」

「へえ」


 かさは不敵に笑った。その表情につられて、僕も少し笑ってしまう。

 かさが気づいているということは当然予想済みだ。そしてそれをずっと言わないでいてくれたのが、かさらしいとも思った。

 嘘をつかずに壁を張らずに、自分の心の内を素直に打ち明けられる存在がいることを、僕はしあわせに思う。


 その存在はきっと、簡単にできるものではないのだろう。

 長い時間をかけて、積み上げてきた言葉の上に、このかけがえのない関係は成り立っている。


「まあだから、今度はこれにも向き合っていこうかなってね」

「まこは忙しいなあ」

「まあね」


 そうして僕たちは、また笑い合った。僕の人生は、まだまだやることがたくさんある。


「今だから言うけど、兄が学校行ったっていうのを話してるときのまこ、すごいうれしそうだったよ。何かやけに機嫌いいなと思ったから、よく覚えてる」

「え……そうだったんだ」


 なんだ、僕も、うれしかったのか。

 ほんとうに僕は、ごまかしてばかりだ。


「ははは、はははは」


 僕は思わず、声を出して笑った。

 僕を見ているかさは、口角を上げてやさしげな笑顔を向けてきた。


 そして、かさはその笑顔を崩さないまま提案をしてきた。



「今から、花見でもしない?」

「まだ咲いてないか」


 かさは桜のつぼみを見ながら言った。あたりの桜並木は、まだ花を咲かせる準備の段階だった。


「春はまだ、これからだからね」


 かさはつぼみをみたまま、僕の言葉に笑みを浮かべる。


「そういやかさって、なんで京都行きたがってたの?」

「あー、それね。実は京都って僕が生まれた場所なんだよ。でもまだ小さかった頃だから記憶になくてさ。

 だから京都で生活してみたら、何かが見つかるような気がしてたんだよね。まあ現実は何もなかったんだけど」

「いつまでいたの?」

「二歳くらいって言ってたかな」


 そう言うとかさは、ずっと眺めていたつぼみから、僕の目に視線を移した。


「まあ僕もさ、まこの話を聞いてから、自分と向き合えてなかったってことに気付いたわ。なんかわかった気になってただけだった。僕ももう少し、ちゃんと向き合ってみるよ」

「へえ」


 そうしてまたも僕たちは、どちらともなく笑い合う。


 かさがそういう状態だということは、僕もわかっていた。

 かさだけが、僕を見ているわけではないのだ。僕だって、ずっとかさを見てきた。

 だからこそ僕たちは、お互いを理解して、尊重して、言葉だけでは得られない関係を築くことができている。



 結局僕は、恋人がほしかったわけではない。好きな人ができたから、その人の恋人になりたいと思った。僕の考えは、相手ありきのものだ。

 付き合いたいと思う人がいれば、僕は行動を起こすことができた。今までは、恋人になりたいと思う人に、出会っていなかっただけの話だ。


 その根底には、しあわせな家庭に対する憧れや劣等感があって、それが原因で僕は、人を好きになることが難しくなっていた。

 だけど僕は、それをしても好きだと思える人に出会うことができた。


 いい友だちにも恵まれて、好きになれる人にも出会えて、そうしてたくさんのことに気付くことができた。

 たくさんの人のやさしさの上に紡がれてきた僕の人生には、無駄なことなんて、ひとつもない。


 僕の人生は、振り返ると思わず笑ってしまうほどに、いいものだ。

 今まで関わってくれた大切な人たちへ。



 ありがとう。



 そして、これからもよろしく。





  五章 大学生編 二年生




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