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初恋の後悔  作者: お風呂かこ
五章 大学生編 二年生
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十四節 成人式 同窓会

 かさは意外にも、僕より早く会場についていた。

 入り口付近には懐かしい面々に囲まれている、見慣れない格好のかさと倖成君がいる。その人たちと軽く談笑をして、僕は会場に入った。


 ざわつく会場の中、中学校や小学校のときの先生たちが話をした。見ないうちに随分と老けた先生たちの姿を見て、時の流れを感じた。

 それでもなお元気そうにしている先生たちに、僕は懐かしさと少しの安心感を覚えた。



 成人式後、会場前で何人もが集まっていた。ふいに後ろから声がかかる。


「たまちゃん、久しぶり」


 振り返ると顔は友貴だが、記憶の中にある友貴とは違って髪の長い人物がいた。


「えっと、友貴だよね?」

「そうだよ。なんでそんな尋ねる感じなの?」

「友貴と言えば坊主頭だったから、すごく違和感が」

「いや卒業式のときとか坊主じゃなかったでしょ。たしかに短かったけどさあ」


 友貴は呆れたように言う。


「ごめん冗談だって。久しぶり、友貴。元気だった?」

「元気だったよ。たまちゃんも元気そうだね」

「おかげさまで」


 その後僕たちは、高校時代の思い出話に花を咲かせた。


 友貴は僕が文化祭をさぼったというのが、相当お気に入りらしかった。友貴にははぐらかしていたはずだから、おそらく倖成君から聞いたのだろう。

 映画を見に行っていたということが事実だと教えると、苦しそうなほど笑っていた。


「たまちゃん同窓会は行く?」

「行くよ」

「おー、いいねえ。じゃあまた後で」

「うん、また」


 友貴はせわしなく他の人のところに行った。


 そうしていると、僕のよく知った人が前を横切って行った。

 正直なところ、女の人は誰かわからない人もかなりいるが、その人のことだけはすぐにわかった。

 記憶の中とは違って髪を束ねてはいたが、その顔は間違いなく佳世ちゃんだった。

 佳世ちゃんだけははっきりとわかってしまうのが、少し悔しかった。


 しかし、佳世ちゃんは僕を意に介さないで歩いていった。流し目で見られたような気もした。

 やはり変わってしまったのだろうか。

 中学三年生からはほとんど話していないから、それはわからないけれど、気にかけてくれたお礼くらいは言いたいとも思った。



 その後、僕はいつもの三人で集まっていた。かさはしきりに眠いと言っていた。

 倖成君は、元気そうだった。


「そういえば、慎ちゃんっていた?」


 僕は二人に尋ねた。


「あーさっきまでいたけど、帰っちゃったかな。でも同窓会は来るって言ってたから、また会えるんじゃない?」


 倖成君が教えてくれた。


「そっか、じゃあ僕はいったん帰ろうかな。徹夜組だから眠いんだよね」

「僕もけっこう眠い」


 かさは短く賛同した。


「バスって夕方だったよね? それまで帰って寝るわ。また後でね」


 そう言って僕は家に戻って寝た。



 起きてから僕は、バスに乗って同窓会の会場に向かった。

 その道すがら、背中を押してくれた倖成君にも、僕のことを話した。

 話を聞いている最中は、相槌しか返してこなかった倖成君だが、話が終わると「よく頑張った」と、いつものおどけた口調で言ってきた。

 そんな倖成君は、やさしく笑っていた。



 同窓会の会場に着くと、すぐに慎ちゃんの姿を見つけた。


「慎ちゃん、久しぶり」

「お、たまちゃん。久しぶりだね」


 慎ちゃんは全然変わっていなかった。そのやさしい笑顔も僕の知っているままだ。

 そうして僕は、慎ちゃんとその友人たちと話しながら、一緒に宴会場に入った。

 慎ちゃんと、部活の人と、かさと、倖成君と、友貴と、クラスが同じだった人と、色々な人と話しながら、僕は飲み食いを進めた。



 しばらくして、少し酔いが回ってきた。

 そうして夜風に当たろうと宴会場を出ると、ちょうど向こうから佳世ちゃんが歩いてきた。僕は思わず立ち止まる。

 先ほど結われていた髪はほどかれて、記憶と同じ長い髪が自慢げになびいていた。

 思えば昔からきれいな髪をしていた。そのいたずらが好きそうな顔も、相変わらずだ。

 機嫌がいいときの佳世ちゃんの顔だ。


 佳世ちゃんも、僕に気付いたようで歩みを止めた。しばらくの均衡状態の後に、しびれを切らした佳世ちゃんは歩き出した。

 佳世ちゃんは、そのまま僕の横を通り抜けてしまうように思えた。

 だから僕は、佳世ちゃんがすぐ隣に来たところで声をかけた。


「ねえ」

「なに?」


 佳世ちゃんは立ち止まり、僕のほうを見ないまま答えた。僕はお礼を言おうと思って、佳世ちゃんを呼び止めた。目的は明白だ。

 だが、どこか話しづらかった。

 一度話さなくなってしまった関係性の僕たちが、再び話すようになるのは難しいように思えた。


 だけど、西牧さんへの告白のときに比べたら、これくらいは何でもない。

 こんなのは、僕次第でどうにかできることだ。

 それに気づいた僕は、やけに不愛想な顔をしている、懐かしい友だちのほうに向きなおって話しかけた。

 久々に会う友だちの顔は、少し大人びて見えた。


「昔いろいろしてくれたの、けっこううれしかった。気にかけてくれたこととかも、それで救われた部分もあったから、だから、ありがとう」

「うん」


 佳世ちゃんはなおも僕を見ないまま、落ち着いた声で静かに言った。

 佳世ちゃんは、表情を変えなかった。


「じゃあ」


 僕はそう言って歩き始めた。佳世ちゃんが視界から外れる。

 言いたかったことは言えたのだから、これ以上を望むのは贅沢だ。


 そうして歩き始めて、足音が少ないことに気付く。まだ立ち止まっているのだろうか。

 そう思い振り返ると、佳世ちゃんは顔を伏せたまま小走りで僕の方に向かってきた。


「どうしたの?」


 僕は驚きながら尋ねる。

 そして、顔を上げた佳世ちゃんは、僕のよく知っている表情を浮かべていた。


「なにあらたまってるの? そんなこと言う人だっけ?」


 佳世ちゃんは、昔よくしていたいたずらっぽい笑顔をしていた。それを見て僕も思わず笑ってしまった。

 ああ、そうだ、こんな人だった。不機嫌なふりをするくせに、結局最後まで通せずに笑ってしまう。そんなくだらないことを、よくする人だった。

 佳世ちゃんは、いつも素直ではないけれど、からかいがいのある、やさしい友だちだった。



 僕たちは少しの間、立ち止まって話をした。

 思い出の中には、いつも素直ではない二人がいた。

 そこにはくだらないことで笑って、その反応を楽しむだけの、頭を使わなくていい友だち関係があった。


 僕は改めて思った。僕が佳世ちゃんに向けていた思いは、異性としての好きではなくて、だけどそれはとても大切な、友だちとしての好意だった。

 僕が異性として好きになったのは、西牧さんであって、佳世ちゃんではないのだ。


「ねえ、最近部活の人とはどう?」


 コスモス畑で僕を気にかけてくれたことに対する、ほんの小さな仕返しをした。


「……どうだろうね」


 佳世ちゃんは、困ったように笑った。その表情は、初めて見るものだった。

 僕の言葉にその表情をするのなら、やはり佳世ちゃんは僕の知らないところで葛藤していたのだろう。

 それはきっと、僕が踏み入ろうとしなかったから、わからなかっただけのことだ。


 佳世ちゃんは、変わってしまったわけではなかったのだ。

 ただ単に、どうしようもなく素直ではなかっただけだ。


「ふーん、そうなんだ」


 僕は涼しい顔を作ってそう言った。

 佳世ちゃんの本音が少しだけ見えた気がした。僕たちは、やっとお互いの本音を見せ合うことができた。



 別れ際、僕は佳世ちゃんをからかってやろうと思った。


「じゃあね、佳世ちゃん。さよなら」


 僕は初めて、佳世ちゃんの名前を口にした。

 僕たちは一度も名前で呼びあったことがない。いつもお互いに「ねえ」という呼び方をしていた。

 本当にお互い、素直ではない。


 僕の言葉を聞いて、佳世ちゃんは愉快そうな笑みを浮かべる。


「うん。ばいばい、悠太」


 佳世ちゃんはそう言うと、また小走りで去っていった。

 何かしら仕返しはしてくるだろうとは思っていたけれど、呼び捨ては想定していなかった。いつものことながら、佳世ちゃんは僕より一枚上手だ。

 僕を下の名前で呼び捨てにするような人は、後にも先にもきっと佳世ちゃんだけだろう。


 そのあっさりとした別れは、あとくされのないものだった。きっともう、話すことはないだろう。

 それでも僕は、会えてよかったと思った。


 大切な友だちに、ずっとしまっていたありがとうを、伝えることができてよかった。



 宴会場に戻った僕は、慎ちゃんとの交流を深めていた。

 どこか安心感のある慎ちゃんの雰囲気と、酒の酔いにあてられて、僕は最近告白が失敗したことを打ち明けていた。慎ちゃんは、ずっと笑顔で僕の話を聞いていた。


「たまちゃん、頑張ったね」

「うん」

「えらいと思う」

「うん」


 慎ちゃんのやさしさは、いつも通りだ。その見返りを求めないやさしさは、慎ちゃんの良さでもある。

 だけど、そのやさしさに救われた僕なら、慎ちゃんに見返りを与えてもいいと思った。


「僕が頑張れたのは、慎ちゃんのおかげだよ。慎ちゃんのやさしさがあって、慎ちゃんに憧れを抱いたから、僕は頑張れた。だから、ありがとう、慎ちゃん」


 僕は、慎ちゃんに感謝を伝えた。

 たとえ慎ちゃんがそんなことを求めていかったとしても、僕が勝手に伝える分にはいいだろう。


「そんなことないって、たまちゃんは自分で頑張ったんだよ」


 慎ちゃんは、受け入れようとしない。

 だから僕は、もっと言葉を重ねた。


「違うよ。僕は慎ちゃんが支えてくれたから頑張れた。ねえ慎ちゃん、憧れの人がいてくれるっていうのは、ほんとうに心の支えになるんだよ」

「そうなの?」


 慎ちゃんは、笑みをこぼしながら言った。


「そうなんだよ。だから、ありがとう、慎ちゃん」

「そういうことなら、どういたしまして」


 慎ちゃんは、やっと僕の感謝を受け取ってくれた。


 そしてまた、懐かしい話をした。しばらくすると、慎ちゃんもかなり酔っぱらっていた。弱っている慎ちゃんが見られて、少し得をした気分だった。

 どんな強い人にも、どこかには弱さがあるのだということを、僕は改めて感じた。



 二次会のカラオケで、僕のいる部屋は何度も失恋ソングが流れた。

 一緒に来た慎ちゃんと、いつの間にか増えた友貴が、やたらとその類の曲を入れていた。

 友貴がどこから聞きつけたのか知らないが、僕が慎ちゃんに話しているのを聞いていたのだろう。友貴にも、励まされたような気がする。


 そして中盤からは、部屋にいたかさと倖成君もその流れに乗っかって、さらに失恋ソングの歌唱が横行した。

 僕は、僕のためにばかでいてくれるやさしい友だちとともに、楽しく騒ぎ合った。



――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。

 父親と兄との三人暮らし。


永野司ながのつかさ かさ

 小学校からの付き合い。

 僕をまこと呼ぶ。

 京都に住むために勉強をしているらしい。

 人との接し方が似ている。

 小学生のときに転校してきた。

 僕にとっては貴重な、家のことを話せる関係。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。

 高校でもバレーボール部に入った。

 最初だけは僕を玉木くんと呼んでいた。


中里佳世なかさとかよ 佳世ちゃん

 小学三年生のときに知り合った。

 いつもくだらないことで笑わせてくる愉快な人。

 一緒にコスモスを見に行った。

 中学二年生の終わり頃から話さなくなった。


浅羽慎二あさばしんじ 慎ちゃん

 中学一年生のときに同じクラスだった。

 やさしい言葉をかけてくれた。

 僕はそんな慎ちゃんのやさしさの在り方に、憧れを抱いている。


今井俊いまいしゅん 今井くん

 僕と似た空気を感じる。

 親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。

 曜子という人ともめたらしい。

 一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。

 それからは、距離が開いてしまった。


小林正樹こばやしまさき 小林くん

 昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。

 勉強に打ち込んでおり、部活もしている。

 高校一年生のときは室長もしていた。

 修学旅行のときから、僕をたまちゃんと呼ぶようになった。

 思っていたよりも、ずっと仲良くなれた。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。

 部活をやっている。坊主頭。

 修学旅行のとき、急に僕のことをたまちゃんと呼んできた。

 おせっかいだが、悪い人間ではない。


森島もりしまさん

 今井君のことを教えてくれた人。

 曜子という人の友人。

 友貴と付き合っていたらしい。

 冷静な人のようだが、友貴に似ておせっかいな面もある。


伊藤恵いとうめぐみ 伊藤さん

 吹奏楽部。フルートが上手らしい。

 わかりやすい感情表現をする。

 気さくな人でクラスの中心的存在。

 随分と、僕を気遣ってくれていた。

 僕の字を褒めてくれた。

 何事も一生懸命に取り組むことができる。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

 表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。

 気を許せる先生。


中川なかがわ先生

 高校二年生のときの担任。担当科目は国語。

 やさしい笑顔が特徴。

 いろいろと見抜かれている気がする。

 あのやさしい笑顔は、葛藤の末に得たもののように見える。

 人にやさしくあれる強さをもっている。

 尊敬できる先生。


渥美あつみ先生

 高校三年生のときの担任。担当科目は数学。

 弱さを隠さない人。

 だからこそ、信用できる。

 人間味あふれる先生。


西牧美緒にしまきみお 西牧さん

 初対面とは思えないほど話しやすい人。

 僕のことをまっきーと呼ぶ。

 僕に似ている。

 ほんとうの初恋の人。

 僕が初めて好きになることができた人。


山瀬貴久やませたかひさ 貴久たかひさ

 大学からの友人。柔道部所属。

 一人暮らしをしている。語学のクラスが同じ。

 同じ部活の人と付き合っている。

 惚気話をよくする。


出口和也でぐちかずや 和也かずや

 大学からの友人。空手部所属。

 実家通い。語学のクラスが同じ。

 アルバイトに明け暮れており、講義はほとんど寝ている。

 高校時代に同じ部活だった先輩のことが好き。


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