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初恋の後悔  作者: お風呂かこ
五章 大学生編 二年生
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十三節 成人式前

 夜遅くの日付が変わる頃、僕は家を出て小学校の方に向かった。

 月明かりに照らされた道を、僕は少し急ぎながら歩いた。

 小学校の校門の前には、よく知っている人物がいた。


「どうも、お久しぶりです」


 かさはおどけた口調で僕に声をかけてきた。


「ちょっと前に会ったけどね」

「まあね」

「こんなに遅くなるなら別に今度でもよかったんだけど。大丈夫?」


「正直大丈夫じゃないけど、でも今日は散歩っていう今世紀一番大事な予定だからなあ」

「そんな大げさな、まあいいけど。じゃあとりあえずてきとうに歩こうか」


 道すがら、僕はさっそく西牧さんとのことをかさに話した。かさは僕の話をひとしきり聞いた後、道路わきの側溝に向かってしゃがみこんだ。


「ねえ嘘だろ、そんな話聞くつもりで来てないんだけど」


 かさは、やけに楽しそうにしている。


「でもちゃんと言ったよ。まあ結果は仕方ないじゃん」

「そうだけどさ、うわあそうなのか。てきっり真逆の話を聞くんだと思ってきたから」

「やるだけはやったし」


「いや、べつに責めてるわけじゃないけどさ。ちゃんと言ったのは素直に偉いと思うよ」

「でしょ?」

「でもその割にはけっこういい顔してるように見える」


 かさは側溝から顔を上げて僕を見た。


「やっぱりそう?」

「そりゃあねえ、露骨に元気だし」

「元気なのは昼寝してたからだと思うけど、まあ悪くなかったなとは思ってるから」

「なるほどね」

「うん。ちゃんとやってよかったよ」

「そっか」


 立ち上がったかさと、僕は再び歩き始めた。



「ただちょっと残念なのは、こうやって感情を揺らせるのは初恋だからのことで、もう二度目はないのかなみたいな。もし次があっても、それは今回の二番煎じみたいに感じてしまうんだろうなってことかな」

「そういうところは少なからずあるかもね」

「まあ、何だろうと、好きになったことは間違いだとは思わないけどね。すごく成長できたし」

「聞く限りだとそうだね」

「今回ばかりはちゃんと頑張ったからね」


 僕はわざとらしく腰に手を当てて、誇るように言った。

 コンビニに着くと、かさが何かをおごると言い出して、僕の分の飲み物も買ってくれた。

 一方的に気を遣われるのは癪だったので、僕もかさの分のお菓子を買った。


 かさが僕に飲み物を渡してくる。


「ありがとう、じゃあこれあげる」


 僕はさっき買ったチョコ菓子を、かさに渡した。


「お……ありがたく頂戴するぜ」


 かさは、倖成君が乗り移ったかのような話し方で受け取った。



 そして僕たちは、中学校の方に行くことにした。

 また二人で歩きながら、昔のことを話した。


 かさとは、ほんとうに長い間一緒にいる。中学では一度も同じクラスにならなかったし、高校も大学も違うけれど、それでも途切れない関係が続いている。

 関係がずっと続いているのは、倖成君も同じだ。


「そういや来るときの電車の中で思ったんだけどさ、僕らが出会ってからってもう十一年になるって知ってた? 倖成くんとは、七年くらいかな。まあ僕は中三になるまではあまり関わりなかったけど」

「長いね」

「ほんと長すぎるよ……」


 かさは空を見上げた。大きな丸い月が、その顔を薄く照らしている。


「あの頃は自分が二十歳になるなんて全然思ってなかったのに、知らないうちに二十歳になっちゃった」

「みんなけっこう老けたよね」

「歳重ねてるんだなって感じる」


 そう言って、かさは見上げていた顔を下ろした。


「でも僕はここ数年でけっこう変わったかも」

「それはたしかに、人間っぽくなった気がする」


 かさは僕を見ていたずらっぽく笑った。


「ばかにしてる?」

「いやだって小学校のときとか特に、何考えてるのか全く分からなかったもん。正直今も訳わからないところはあるけど、まあ前よりはましかな」

「あまり隠さなくなったからね。わりと素直に生きてるよ」

「でもまこが恋愛とか、たぶん昔の僕が聞いたらぶっ倒れると思うわ」

「そんなでもないでしょ」

「いや、ほんとだって」


 かさは懐かしさを織り交ぜたような表情で笑う。笑っている目線は、遠くに流れている。

 こういう笑い方は、かさにしては珍しい。



 僕たちは中学校の校門前に着いた。


「なんか懐かしいなあ」


 かさは学校名が書かれたプレートをなでながら言った。


「そうだね」

「正直、誰かいると思わなかった?」

「うーん、言われてみればいてもおかしくは……でも来るならこんな時間じゃないでしょ。今一時半だよ?」

「たしかにこの時間にくるようなのは僕らくらいか」


「あ、成人式会場とかは? そっちなら本当にいるかもよ」

「おー、これは行くしかない」


 かさは目に見えて楽しそうだった。今日は会ったときからずっと、楽しそうだ。



「いないな」

「まあ、そりゃあね」


 少し期待はしていたけれど、普通に考えたら誰もいないのが当然だ。


「徹夜組僕らだけかよ」

「成人式で徹夜とかおかしいでしょ」


 そして僕たちは、行き先も決めずに歩き始めた。



 ふと、かさが話し始める。


「僕さ、実は今年の冬前くらいまで付き合ってた人いるんだよね」

「そうなんだ」


 僕はあまり驚きはしなかった。

 この前倖成君が話しているときにずっと黙っていたから、何かあるのだろうとは思っていた。


「実はっていうやつね。別れた理由は大したことないっていうか、まあたぶん僕が悪いんだけど。それがあってから、なんかもうめんどくさいなって気がしてるんだよね」

「嫌なことがあったとか?」

「まあ、そんな感じかな」


 かさは返答をはぐらかした。


「嫌なら聞かないけど」

「嫌ってわけでもないけど、まあ気が向いたら今度話すかもです」

「気が向いたらね」

「そういうことです」


 かさは大きく白い息をはいた。


「やっぱ僕らって、そういうの向いてないよね?」

「それはそうかもね」


 僕はかさの言葉に頷きを返した。


「だから僕はさ、そういうめんどくさくなるのが嫌で逃げてる自覚がある」

「僕は逃げてるとはたぶん違うけど、向いてないのは同じ。僕の向いてないっていうのは、自分と似ているっていうのの敷居が高すぎるからかな。

 たぶん僕は、相手とお互いにいい影響を与え合えるような関係が欲しいんだと思う。そういう人と同じ道を、ときには助け合いながら歩いていけたらなみたいな。

 端的に言ってしまえば、僕が好きなのは、たくさん悩んで苦しんで、それでも前を向いている強い人なんだろうね」


「なんか、まこはそういう感じなんだろうなっていうのは察してたかも」

「ばれてた?」

「だてに十一年付き合いがあるわけじゃないからね」


 かさには思ったよりも見抜かれているようだ。僕自身、最近気づいたことなのに。

 十一年の関係は、僕たちにとってかけがえのないものだ。


「僕らって結婚とか、どう考えても無理じゃない?」

「まあねえ。でも僕たちはそもそも、結婚とかにいい印象持ってないじゃんか」


 お互いふつうのしあわせな家庭で、育ったわけではないのだから。


「そうだよなあ。でもちょっとくらいは考えたりしない?」

「少しはするけど、でも今はそういうのはいいかな。もうちょっと考えたい。かさは結婚したいの?」


「いや僕がしたいっていうよりは、結婚してて子ども連れてくるやつとかいるんだろうなって。明日の成人式」

「そういうこと」

「もう子どもいるとか考えられないわ」

「そうだね、夢物語みたい」

「まあ本人が納得してるなら何も言わないけどさ、大丈夫なのとは思うわ」


 たしかに、この年齢で子どもがいるというのは大変だろう。子どもなんて、どの年齢でも大変なようにも思うけれど。

 僕は黙ってしまったかさに向かって、言葉をかける。


「まあでもさ、逃げてるって自覚があるなら、逃げなければ何とかなるんじゃない? よくわからないけどさ」

「そうかもね。僕もよくわからないけど」


 そんないつも通りの会話を、僕たちは続けた。



 そして僕たちは、小学校の前に戻ってきた。


「もう四時なんだけど、明日行けるかな」


 かさは楽しそうに笑いながら言った。


「かさ、今日は付き合ってくれてありがとう。今までも、たぶんこれからも、ほんとうにありがとう」

「あーあの、それさ、えーっと、うーん」


 かさは何かを言い淀んでいた。


「どうしたの?」

「あの、何というか、この関係を作ったのはまこだからね。僕と倖成くんだってまこが集めたからだし、まこが始めてなければ、僕はこうはなってないから」


 かさは恥ずかしそうに言葉をつなげた。一方的な感謝は、違うと言いたいのだろう。

 遠回しな表現だけれど、僕にはそれで十分伝わる。


「うん、わかってるよ」


 しおらしいかさを見て、僕も少し恥ずかしくなったけれど、僕は素直に笑顔を向けた。


「じゃあ、また数時間後。きてなかったら電話かけまくるから」

「それまじめにたのむわ」

「わかった」


 そんな軽いやり取りをして、僕たちはいつものように別れた。

 月明かりは、僕らの進む道のりを、ずっと照らしてくれていた。


――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。

 父親と兄との三人暮らし。


永野司ながのつかさ かさ

 小学校からの付き合い。

 僕をまこと呼ぶ。

 京都に住むために勉強をしているらしい。

 人との接し方が似ている。

 小学生のときに転校してきた。

 僕にとっては貴重な、家のことを話せる関係。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。

 高校でもバレーボール部に入った。

 最初だけは僕を玉木くんと呼んでいた。


中里佳世なかさとかよ 佳世ちゃん

 小学三年生のときに知り合った。

 いつもくだらないことで笑わせてくる愉快な人。

 一緒にコスモスを見に行った。

 中学二年生の終わり頃から話さなくなった。


浅羽慎二あさばしんじ 慎ちゃん

 中学一年生のときに同じクラスだった。

 やさしい言葉をかけてくれた。

 僕はそんな慎ちゃんのやさしさの在り方に、憧れを抱いている。


今井俊いまいしゅん 今井くん

 僕と似た空気を感じる。

 親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。

 曜子という人ともめたらしい。

 一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。

 それからは、距離が開いてしまった。


小林正樹こばやしまさき 小林くん

 昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。

 勉強に打ち込んでおり、部活もしている。

 高校一年生のときは室長もしていた。

 修学旅行のときから、僕をたまちゃんと呼ぶようになった。

 思っていたよりも、ずっと仲良くなれた。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。

 部活をやっている。坊主頭。

 修学旅行のとき、急に僕のことをたまちゃんと呼んできた。

 おせっかいだが、悪い人間ではない。


森島もりしまさん

 今井君のことを教えてくれた人。

 曜子という人の友人。

 友貴と付き合っていたらしい。

 冷静な人のようだが、友貴に似ておせっかいな面もある。


伊藤恵いとうめぐみ 伊藤さん

 吹奏楽部。フルートが上手らしい。

 わかりやすい感情表現をする。

 気さくな人でクラスの中心的存在。

 随分と、僕を気遣ってくれていた。

 僕の字を褒めてくれた。

 何事も一生懸命に取り組むことができる。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

 表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。

 気を許せる先生。


中川なかがわ先生

 高校二年生のときの担任。担当科目は国語。

 やさしい笑顔が特徴。

 いろいろと見抜かれている気がする。

 あのやさしい笑顔は、葛藤の末に得たもののように見える。

 人にやさしくあれる強さをもっている。

 尊敬できる先生。


渥美あつみ先生

 高校三年生のときの担任。担当科目は数学。

 弱さを隠さない人。

 だからこそ、信用できる。

 人間味あふれる先生。


西牧美緒にしまきみお 西牧さん

 初対面とは思えないほど話しやすい人。

 僕のことをまっきーと呼ぶ。

 僕に似ている。

 ほんとうの初恋の人。

 僕が初めて好きになることができた人。


山瀬貴久やませたかひさ 貴久たかひさ

 大学からの友人。柔道部所属。

 一人暮らしをしている。語学のクラスが同じ。

 同じ部活の人と付き合っている。

 惚気話をよくする。


出口和也でぐちかずや 和也かずや

 大学からの友人。空手部所属。

 実家通い。語学のクラスが同じ。

 アルバイトに明け暮れており、講義はほとんど寝ている。

 高校時代に同じ部活だった先輩のことが好き。


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