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初恋の後悔  作者: お風呂かこ
五章 大学生編 二年生
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十節 誕生日会

 そして冬休みは始まり、いつもの三人で集まる日が来た。今日は久々に、倖成君の家に集まることになった。

 僕たちは、去年食べられなかったケーキを食べながら、またくだらない話で盛り上がった。


「というか、何でみんなふつうに集まれるの? 誰かがこの時期に予定入って断るっていうのを、僕は毎年楽しみにしてるのに。一向にその気配がないんだけど」


 かさは機嫌良さげに笑って言った。


「そんなことは知らん。僕のせいじゃない」


 倖成君はケーキをつつく手を止めないまま、かさの言葉を流した。


「いやおかしいって。僕ら大学二年生なのに、何でこうなの?」

「知らんって言ってるだろ」


 倖成君はなおも相手にしない。


「知らんじゃねえ!」


 かさは急に立ち上がると、倖成君に覆いかぶさった。


「騒ぎすぎだぞ、静かにしろ」


 倖成君は振りほどこうとして暴れる。


「騒いでいいって言ったのは倖成くんだろうが。『今日親いないから思いっきり騒ごうぜ』って誘ってきたくせに」

「そんなもん知らん」

「それは知ってろ」


 そう言うとかさは倖成君から離れて、僕に話しかけてきた。


「でさ、まこどうしたの?」

「いや……何もないよ。ちょっと眠たいだけ」


 僕はとっさにごまかした。

 だけど、二人の顔を見てその判断は揺らいだ。二人は、明らかに心配そうな目線を送ってきている。

 わざとらしく騒いでいたのも、そのせいだろう。


「いや、その……」


 二人に話して、どうなるというわけではない。話したとしても、僕がただ失敗した話を聞かせるだけだ。

 そんなことを話しても、二人は困らないだろうか。


「ちょっと買い出し行くか」


 かさは腰に手を当てながら言った。


「そうだね。どうせ泊まりなんだったらこれじゃ足りないし」


 倖成君は立ち上がって言った。


「なら追いケーキも行くか」

「追い追いケーキまでは行くぞ」

「それ本気?」


 かさはわざとらしく持っていた手袋を落として言った。


「当たり前だろ、僕の誕生日だぞ」

「いや、あほだろ」


 二人は呆れるほど楽しそうに笑いながら、外に出る準備を済ませていた。僕も慌てて準備をして、部屋を出る二人についていった。



 僕たちはすっかり暗くなった道を歩き始めた。


「さむ」


 どちらからかわからない声が聞こえた。そして二人は、それきり言葉を発しなくなった。

 きっと二人は、無理には聞こうとしないだろう。僕が強いられることを嫌うのを、二人はよく知っているはずだ。

 だから、ここで言わなくても二人が僕を責めることはないと思う。

 だけど、もしこの話を打ち明けるのであれば、この二人以外にはない。

 僕のことをよく知っていて、僕のことを尊重してくれる二人になら、僕のことを話してもいいと、思う。


 だけどすぐに言い出すことはできず、結局買い出しから戻ってくるまで、僕は何も話せずにいた。



 そのまま時間は流れていく。三人で騒いでいるこの時間は、それだけで楽しいものだ。進めていない僕にも、居場所が与えられているような気がする。でもそう思えるのは、二人のやさしさがあってのことだ。

 いい加減、僕も腹を割って話がしたかった。

 僕は、信頼している二人に自分のことを話すことにした。


 そしてさんざん悩んだ挙句、僕は酔っ払った風を装って話すことを選んだ。


「正直に言えばさ、僕はちょっと前まで支えにしてた関係があったんだけど、それが終わってしまったからこうなってるんだよ。終わってしまったというか、僕が終わらせたみたいなものだけど。

 そしてそれは多分、好きという感情だったと思う。でも結局僕は何もしないままというか、できないままだった。

 初めて見つけた、自分と似た同年代の人だったのに、結局僕は何もできなかった。だからへこんでる、みたいな感じです」


「とうとう恋というやつに出会ったわけか」


 かさが言葉を発した。さっきまで倖成君とじゃれあっていたときの顔とは打って変わって、どこか儚げな表情になっていた。


「なんか、そうみたい。僕はずっと、人に深入りしないような生き方をしているんだけど、そうして精神がすり減らされることを全部避けていたら、それが逆につらくなっていたというか……。

 そうすることで自分を打ち明けることもしなかったというか……まあとにかく僕は、自分の過ごしている日常に疲弊していたんだよ。

 でもそんなとき、偶然にもどこか僕と似たものを持っている人と出会った。


「大学の講義で会った人で、最初は話しやすいくらいに思っていただけだったけど、ふとその人の考え方にふれたときがあって、それからの僕はどんどんその人に惹かれていった。

 自分でも信じられないけれど、本で読んだような、ある意味では普遍的な好きという感情が芽生えていた。今まで気にも留めていなかったことまで気になったりして、それすらも良いものに思えて、盲目的になっているという自覚も少しはあった。でも、その関係は終わってしまった」


 二人は僕の話を、黙って聞いていた。酔ったふりをしてすべらせた言葉は、僕の心に改めて刺さった。


「何があったかは知らないから何とも言えないけれど、好きになれたのはいい傾向なんじゃない?」


 話し終わった僕に向かって、かさが言った。


「そうかもね」


 僕はグラスの中身を全部飲み干して、言葉をつなげる。


「まあそういうわけで、僕の失敗談でした。さすがにもっとうまくやれよって、自分でも思う」

「最初からうまくはいかないんじゃない? 僕もそうだったし」


 静かにしていた倖成君が、口を開いた。


「まこにも言ってないけど、僕は高校のとき告白したことあるから。部活一緒だった人に」

「そうなの?」


 僕は驚きを交えた問いかけを倖成君にした。

 同じ高校だったのに、そんなことは一切知らなかった。


「二年の秋ごろだったかな。振られたけどね。でも、悪くはなかったかなとは思う。気まずくはなったけれど、ちゃんと言ったから」


 倖成君は焼き菓子の袋を見ながら、やわらかい表情で話す。


「そうだったんだ……」


 倖成君はいつも、僕の知らないところで頑張っている。いつまでも逃げているのは、僕だけだ……。


「倖成くんに比べたら、僕はひどいね。告白どころか、誘うことすらしてないし」

「好きなんだったら、ちゃんと言ったほうがいいと思うよ」


 倖成君が真剣なまなざしで言ってきた。その表情に、いつものふざけた雰囲気はまったく感じられない。


「本当に好きなんだったら、ちゃんとしたほうがいいと思う。連絡して予約でも何でもして、ちゃんと話したほうがいいと僕は思うよ」


「それは僕もそうだと思う。そういうのをうやむやで終わらせるのは、僕もよくないかなと思う。まあ僕はあまり偉そうなことは言えないけど」


 倖成君の考えに賛同して、かさも僕に向かって意見を発した。

 僕も、このままではだめだと思う。それがわかっているからこそ、僕は二人に悩みを打ち明けた。

 信頼している二人に、自分の弱さを見せた。



 僕はずっと、強がって生きてきた。何があっても、何でもないように振舞って、心の弱さを必死に隠して、悲しさや寂しさを感情として表出しなかった。

 それは、弱さを見せることが怖かったから。期待することが、怖かったから。


 でも、やっと僕は二人を頼ることができた。本当に久々に、自分から人を頼った。

 僕は親が離婚したそのときから、人を頼りにしない道を選ぶようになった。人に期待することを恐れて、裏切られることを警戒して、信用することをやめていた。

 でも、そんな僕を支えてくれたやさしい人がいた。そして僕は、やっとその人と向き合うことができた。

 そのやさしさと、自分の弱さと、未だに逃げていた部分に。


 僕はやっと、前に進むんだ。


「ありがとう。もうちょっと考えるよ」


 僕は照れ隠しのために、顔を伏せながら言った。

 少しだけ、目頭が熱かった。

 顔を上げると、かさが話し始めた。


「というか、まこがそんなに弱ってるのって何気に初めて見たかも」

「たしかに、僕も初めて」


 倖成君はかさの顔をうかがいながら言った。


「そりゃだって、隠してたし。これでもそれなりに言おうかは迷ったんだよ?」


 僕は素直に、本当のことを話した。


「言っていいでしょ。人間ずっと強い人なんていないし、感情の波がないなんて怖いし」


 かさは少し表情を緩ませながら言った。


「それ遠巻きに今までの僕が怖いって言ってるようなものなんだけど」


 僕は少しいじけたような態度で言った。愛想笑いなんて、絶対にしてやらない。


「まあ怖くないと言われたら嘘かな」


 笑いながら言った倖成君は、いつものふざけた態度になっていた。


「それは間違いないわ」


 そして、かさもすぐに同意をする。


「え、なにそれ」


 僕はこらえきれずに笑った。


 本当に、どういうことなのだろう。

 今がこれほど心地いいのは、二人を信用して弱さを表出したからだろうか。それとも、二人のやさしさを改めて感じることができたからだろうか。

 どちらにしても、僕はもうこの二人には頭が上がらない。

 ありがとうだけでは伝えきれない感謝が、たくさんあった。



 そうして僕たちは、泊まりでの倖成君の誕生日会を楽しんだ。

 みんなで食べたケーキはおいしかった。

 味なんてものに興味のない僕だけれど、この二人と一緒に食べるものだけは、いつも本当においしい。

 わだかまりがなくなった僕は、いつにもなくすがすがしい気分で、思い切りの笑顔で、大切な時間を過ごした。


――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。

 父親と兄との三人暮らし。


永野司ながのつかさ かさ

 小学校からの付き合い。

 僕をまこと呼ぶ。

 京都に住むために勉強をしているらしい。

 人との接し方が似ている。

 小学生のときに転校してきた。

 僕にとっては貴重な、家のことを話せる関係。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。

 高校でもバレーボール部に入った。

 最初だけは僕を玉木くんと呼んでいた。


中里佳世なかさとかよ 佳世ちゃん

 小学三年生のときに知り合った。

 いつもくだらないことで笑わせてくる愉快な人。

 一緒にコスモスを見に行った。

 中学二年生の終わり頃から話さなくなった。


浅羽慎二あさばしんじ 慎ちゃん

 中学一年生のときに同じクラスだった。

 やさしい言葉をかけてくれた。

 僕はそんな慎ちゃんのやさしさの在り方に、憧れを抱いている。


今井俊いまいしゅん 今井くん

 僕と似た空気を感じる。

 親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。

 曜子という人ともめたらしい。

 一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。

 それからは、距離が開いてしまった。


小林正樹こばやしまさき 小林くん

 昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。

 勉強に打ち込んでおり、部活もしている。

 高校一年生のときは室長もしていた。

 修学旅行のときから、僕をたまちゃんと呼ぶようになった。

 思っていたよりも、ずっと仲良くなれた。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。

 部活をやっている。坊主頭。

 修学旅行のとき、急に僕のことをたまちゃんと呼んできた。

 おせっかいだが、悪い人間ではない。


森島もりしまさん

 今井君のことを教えてくれた人。

 曜子という人の友人。

 友貴と付き合っていたらしい。

 冷静な人のようだが、友貴に似ておせっかいな面もある。


伊藤恵いとうめぐみ 伊藤さん

 吹奏楽部。フルートが上手らしい。

 わかりやすい感情表現をする。

 気さくな人でクラスの中心的存在。

 随分と、僕を気遣ってくれていた。

 僕の字を褒めてくれた。

 何事も一生懸命に取り組むことができる。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

 表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。

 気を許せる先生。


中川なかがわ先生

 高校二年生のときの担任。担当科目は国語。

 やさしい笑顔が特徴。

 いろいろと見抜かれている気がする。

 あのやさしい笑顔は、葛藤の末に得たもののように見える。

 人にやさしくあれる強さをもっている。

 尊敬できる先生。


渥美あつみ先生

 高校三年生のときの担任。担当科目は数学。

 弱さを隠さない人。

 だからこそ、信用できる。

 人間味あふれる先生。


西牧美緒にしまきみお 西牧さん

 初対面とは思えないほど話しやすい人。

 僕のことをまっきーと呼ぶ。

 僕に似ている。

 ほんとうの初恋の人。

 僕が初めて好きになることができた人。


山瀬貴久やませたかひさ 貴久たかひさ

 大学からの友人。柔道部所属。

 一人暮らしをしている。語学のクラスが同じ。

 同じ部活の人と付き合っている。

 惚気話をよくする。


出口和也でぐちかずや 和也かずや

 大学からの友人。空手部所属。

 実家通い。語学のクラスが同じ。

 アルバイトに明け暮れており、講義はほとんど寝ている。

 高校時代に同じ部活だった先輩のことが好き。


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