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初恋の後悔  作者: お風呂かこ
五章 大学生編 二年生
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八節 恋に関する論考

 西牧さんと一緒に駅まで歩いた翌日、僕は河原に立ち寄った。

 近くの石の上に腰を下ろして、流れゆく水を見る。揺れる水面を眺めて頭に浮かんだのは、西牧さんのことだった。


「姿勢なんかで何がわかるの……」


 この言葉がずっと、頭から離れない。

 僕が心の中で思っていたことを、代弁したかのようなこの言葉。


「西牧さんと、もっと一緒にいたいなあ……いやだなあ、西牧さんが他の人と一緒なのは……」

 僕は真似して、思ったことを呟いてみた。

 あれ? 僕今、なんて言った?



「西牧さんと、もっと一緒にいたいなあ……。いやだなあ、西牧さんが他の人と一緒なのは……」



「いやだなあ、西牧さんが他の人と一緒なのは……」



 これって、独占欲?

 僕にはないものではなかったのか?



 僕はこの瞬間、西牧さんに対する独占欲を自覚した。僕は西牧さんが他の人と一緒にいるのが、嫌なのだ。

 僕と、一緒にいてほしい。僕と、僕だけと、一緒にいてほしい。

 これこそが、ほんとうの恋なのではないか……。


 僕はついに、自分の恋心を知った。

 僕は初めて、人と付き合いたいと思った。

 独り占めしたいと、自分だけと付き合ってほしいと、そう思った。


 今まで抱いてきたものとは違う、新しい感情が芽生えていることを、僕は知った。

 僕は、西牧さんが好きだ。西牧さんのことが好きで、付き合いたいと思っている。

 僕は西牧さんに、恋をしている。



 その日僕は、大学の図書館で借りた本をずっと読んでいた。

 たくさんの人間の視点から描かれた愛と自分の経験を通して、自分なりに恋情と愛情の違いがわかった気がした。


 愛情とは、友情などの上限のない感情。誰に対しても抱くことができて、どれだけでも持つことができるもの。

 相手に見返りを求めることはない、一方的な要素が強いものだ。


 一方恋情は、好意から始まる感情であり、さらに相手の思想信条に触れ、そこに自分と似た要素が見い出されると、好意は恋情というものに昇華するのだと思う。そしてこれには相手への承認が含まれており、その分見返りも求めることになる。一方的な要素では、片付けられないものだ。


 最初はただ、話しやすい人、礼儀が正しい人という印象だけだった。

 だが話していくうちに、ふとその人の思想にふれる瞬間があった。あの何気ない呟きがなければ、僕が恋情を起こすことはなかっただろう。


 きっと、今まで通り、単なる好意で終わっていた。しかしその呟きを聞いた僕は、西牧さんのことを強く意識し始めた。好意ではなく、恋情でもって。

 僕は今まで、恋情と好意を同じものだと思っていた。だけどそれは違った。

 そして、恋情と好意が異なるように、恋情と愛情もまた別物だ。

 僕は、今まで抱いたどの感情よりもはるかに強く、西牧さんのことを好きだと思っている。

 これが、恋情だ。


 恋情と好意、そして愛情の違いには、独占欲がある。愛情や好意に、独占欲は存在しない。それがあるのは、恋情だけだ。

 恋情は、相手に対する欲求が大きい。だからこそ僕は、今までその感情を起こすことができなかったのかもしれない。


 いつぶりだろう、人に何かを求めたのは。

 僕は、自分の心の機微をうれしく思った。

 ようやく、たどり着いた。

 これが僕の、初恋だ。



――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。

 父親と兄との三人暮らし。


永野司ながのつかさ かさ

 小学校からの付き合い。

 僕をまこと呼ぶ。

 京都に住むために勉強をしているらしい。

 人との接し方が似ている。

 小学生のときに転校してきた。

 僕にとっては貴重な、家のことを話せる関係。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。

 高校でもバレーボール部に入った。

 最初だけは僕を玉木くんと呼んでいた。


中里佳世なかさとかよ 佳世ちゃん

 小学三年生のときに知り合った。

 いつもくだらないことで笑わせてくる愉快な人。

 一緒にコスモスを見に行った。

 中学二年生の終わり頃から話さなくなった。


浅羽慎二あさばしんじ 慎ちゃん

 中学一年生のときに同じクラスだった。

 やさしい言葉をかけてくれた。

 僕はそんな慎ちゃんのやさしさの在り方に、憧れを抱いている。


今井俊いまいしゅん 今井くん

 僕と似た空気を感じる。

 親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。

 曜子という人ともめたらしい。

 一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。

 それからは、距離が開いてしまった。


小林正樹こばやしまさき 小林くん

 昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。

 勉強に打ち込んでおり、部活もしている。

 高校一年生のときは室長もしていた。

 修学旅行のときから、僕をたまちゃんと呼ぶようになった。

 思っていたよりも、ずっと仲良くなれた。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。

 部活をやっている。坊主頭。

 修学旅行のとき、急に僕のことをたまちゃんと呼んできた。

 おせっかいだが、悪い人間ではない。


森島もりしまさん

 今井君のことを教えてくれた人。

 曜子という人の友人。

 友貴と付き合っていたらしい。

 冷静な人のようだが、友貴に似ておせっかいな面もある。


伊藤恵いとうめぐみ 伊藤さん

 吹奏楽部。フルートが上手らしい。

 わかりやすい感情表現をする。

 気さくな人でクラスの中心的存在。

 随分と、僕を気遣ってくれていた。

 僕の字を褒めてくれた。

 何事も一生懸命に取り組むことができる。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

 表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。

 気を許せる先生。


中川なかがわ先生

 高校二年生のときの担任。担当科目は国語。

 やさしい笑顔が特徴。

 いろいろと見抜かれている気がする。

 あのやさしい笑顔は、葛藤の末に得たもののように見える。

 人にやさしくあれる強さをもっている。

 尊敬できる先生。


渥美あつみ先生

 高校三年生のときの担任。担当科目は数学。

 弱さを隠さない人。

 だからこそ、信用できる。

 人間味あふれる先生。


西牧美緒にしまきみお 西牧さん

 初対面とは思えないほど話しやすい人。

 僕のことをまっきーと呼ぶ。

 僕に似ている。

 ほんとうの初恋の人。

 僕が初めて好きになることができた人。


山瀬貴久やませたかひさ 貴久たかひさ

 大学からの友人。柔道部所属。

 一人暮らしをしている。語学のクラスが同じ。

 同じ部活の人と付き合っている。

 惚気話をよくする。


出口和也でぐちかずや 和也かずや

 大学からの友人。空手部所属。

 実家通い。語学のクラスが同じ。

 アルバイトに明け暮れており、講義はほとんど寝ている。

 高校時代に同じ部活だった先輩のことが好き。


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