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初恋の後悔  作者: お風呂かこ
五章 大学生編 二年生
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五節 西牧さん

 さらに翌週、また班分けがされた。

 前回同じだった人とは全員離れたため、僕はまた新鮮な気持ちで話をする。

 今回は、まとめ役を買って出てくれる人がいた。

 僕は他にもかなり楽をさせてもらいながら、資料作成にあたった。


 その発表日、基本演習の前の講義が少し早めに終わった。

 特にすることもなかったので、僕はそのまま教室に行った。

 誰もいない教室で時間をつぶしていると、次第に人が現れた。僕はその人たちとどうでもいい話をしながら、講義が始まるのを待っていた。


 そしてしばらくすると、西牧さんも教室に来た。西牧さんは、友だちと楽しそうに笑いながら入ってくる。気分よさげに浮かべているその笑顔は、西牧さんがいい人だということを思わせた。


 そして講義が始まり、発表は順調に進んでいった。最初に発表することになった僕たちの番が終わると、次は西牧さんがいる班だった。

 前に立って話をする西牧さんは、どこか退屈そうだった。そうして原稿を淡々と読み上げるだけで、西牧さんの話す部分は終わった。さっきまで友だちと話していたときの笑顔とは、かなり印象が違う。その違和感は、僕の中で強く残った。


 発表が終わって席に戻った西牧さんは、隣に座っていた友だちに心底楽しそうな笑顔を向けていた。

 もしかすると、単に緊張していただけなのかもしれない。


 そして入れ替わりで西牧さんの友だちは前が出て行くと、西牧さんの表情は笑顔から退屈そうな顔に戻った。

 西牧さんのあまりにも楽しそうな笑顔は、はたから見ているとかえって不自然でもあった。でも僕は、その表情がどういう経緯でたどり着くものなのかを知っている。

 あれはきっと、何かを乗り越えた人の笑顔だ。心の底にあるものを受け入れて、自分らしくあることができている人の表情だ。

 だからこそ、ささいなことでも思い切り笑うことができる。自分を偽らないでいられる。

 それは、やっと自分を受け入れることができた僕と、少し似ている。


 以前の僕は、心の底から笑うことができなかった。

 楽しいという気持ちは持ち合わせているけれど、楽しめていない自分が常にいる。

 楽しくないわけではないけれど、うまく笑うことができない。

 その笑顔が作りものではないことはわかっているけれど、その表情の変化によって、演技めいた部分があるように見えてしまう。角を立てない振る舞いをしているように、見えてしまう。僕はずっと、そんな表情をしていたのだろう。


 高校のとき、友貴や伊藤さんがやたらと僕を気にかけた理由が、少しわかった気がした。

 そして西牧さんの表情はきっと、今の僕と同じだ。西牧さんにも、何かしら抱えているものがあるのだろう。あれは、苦労をしてきた人間だ。

 それでいて、まだ頑張ることをやめていない人の表情だ。


 思えば、慎ちゃんや中川先生も、似たような笑い方をしていた。

 ずっと尊敬してきた人たちに、僕は近づくことができている。

 随分遅くなってしまったけれど、僕はやっと前に進んでいることを実感した。


 僕は西牧さんに、佳世ちゃんと似ている部分がある気がしていた。でも、それは違った。

 本当に西牧さんに似ているのは、僕の方だ。

 僕はそんな西牧さんに、親近感を覚えていた。初めて見つけた、自分と似ている同年代の女の人。

 そんな西牧さんと、僕はもう少し話がしてみたいと思った。


――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。

 父親と兄との三人暮らし。


永野司ながのつかさ かさ

 小学校からの付き合い。

 僕をまこと呼ぶ。

 京都に住むために勉強をしているらしい。

 人との接し方が似ている。

 小学生のときに転校してきた。

 僕にとっては貴重な、家のことを話せる関係。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。

 高校でもバレーボール部に入った。

 最初だけは僕を玉木くんと呼んでいた。


中里佳世なかさとかよ 佳世ちゃん

 小学三年生のときに知り合った。

 いつもくだらないことで笑わせてくる愉快な人。

 一緒にコスモスを見に行った。

 中学二年生の終わり頃から話さなくなった。


浅羽慎二あさばしんじ 慎ちゃん

 中学一年生のときに同じクラスだった。

 やさしい言葉をかけてくれた。

 僕はそんな慎ちゃんのやさしさの在り方に、憧れを抱いている。


今井俊いまいしゅん 今井くん

 僕と似た空気を感じる。

 親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。

 曜子という人ともめたらしい。

 一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。

 それからは、距離が開いてしまった。


小林正樹こばやしまさき 小林くん

 昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。

 勉強に打ち込んでおり、部活もしている。

 高校一年生のときは室長もしていた。

 修学旅行のときから、僕をたまちゃんと呼ぶようになった。

 思っていたよりも、ずっと仲良くなれた。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。

 部活をやっている。坊主頭。

 修学旅行のとき、急に僕のことをたまちゃんと呼んできた。

 おせっかいだが、悪い人間ではない。


森島もりしまさん

 今井君のことを教えてくれた人。

 曜子という人の友人。

 友貴と付き合っていたらしい。

 冷静な人のようだが、友貴に似ておせっかいな面もある。


伊藤恵いとうめぐみ 伊藤さん

 吹奏楽部。フルートが上手らしい。

 わかりやすい感情表現をする。

 気さくな人でクラスの中心的存在。

 随分と、僕を気遣ってくれていた。

 僕の字を褒めてくれた。

 何事も一生懸命に取り組むことができる。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

 表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。

 気を許せる先生。


中川なかがわ先生

 高校二年生のときの担任。担当科目は国語。

 やさしい笑顔が特徴。

 いろいろと見抜かれている気がする。

 あのやさしい笑顔は、葛藤の末に得たもののように見える。

 人にやさしくあれる強さをもっている。

 尊敬できる先生。


渥美あつみ先生

 高校三年生のときの担任。担当科目は数学。

 弱さを隠さない人。

 だからこそ、信用できる。

 人間味あふれる先生。


西牧美緒にしまきみお 西牧さん

 初対面とは思えないほど話しやすい人。

 僕のことをまっきーと呼ぶ。

 僕に似ている。


山瀬貴久やませたかひさ 貴久たかひさ

 大学からの友人。柔道部所属。

 一人暮らしをしている。語学のクラスが同じ。

 同じ部活の人と付き合っている。

 惚気話をよくする。


出口和也でぐちかずや 和也かずや

 大学からの友人。空手部所属。

 実家通い。語学のクラスが同じ。

 アルバイトに明け暮れており、講義はほとんど寝ている。

 高校時代に同じ部活だった先輩のことが好き。


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