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初恋の後悔  作者: お風呂かこ
五章 大学生編 二年生
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四節 秋学期

 夏休みが明け、また電車に乗る毎日に戻ってきた。

 通学時間は、相変わらず本を読んでいる。変わったことといえば、小説以外の本を読むようになったことくらいだ。



 秋学期から、三年生から始まるゼミの導入科目である、基礎ゼミの講義が始まった。

 学部での少人数講義は、入学時以来だ。

 講義の内容は高校の政経の時間にしたような、班に別れて議論をして、翌週その結果を発表する形式だった。政経の時間が好きだった僕は、この講義を少し楽しみに思った。


 そして、一回目の班別けが行われた。四人に分けられた班の中に知り合いは一人もおらず、全員が初めて関わる人だった。お互いに軽く挨拶をしながら、話を進める。

 最初なので議題は簡単なもので、たいして調べが必要でもない。軽く考察をして、意見をまとめるだけで発表用の資料はできそうだった。

 話し合いの後、僕の班は調べたことをまとめ役の人にメールで送ることに決まった。


「まとめは誰がする?」


 僕は班の人たちに尋ねる。しかし面倒ごとを引き受けたくないのか、誰もが曖昧に返事を濁していた。このままでは僕に押し付けられそうな雰囲気だ。


「私はパソコンの操作よくわからないからできないかな」


 隣の人は追い打ちをするように軽く表情を緩めながら、あからさまな嘘を言った。僕はまとめをしてもいいと思っていたが、その発言を聞いて少し出来心が芽生える。

 無性に足をすくいたくなった。


「これってどうやるんだっけ? 表示がうまくできないんだけど、わかる?」


 僕は各班に割り振られていたノートパソコンを操作しながら、わざとわからない風を装って初歩的な質問をした。


「ああ、それはこうで、こうして……」


 隣の人はうまく乗っかってくれた。すかさず僕は言葉を発する。


「すごい、詳しいね。これならまとめはもう僕じゃない方が……」

「おい」


 隣の人は、思ったよりも荒々しい語気をもらした。

 相当に飾っていたようだ。


「ごめんごめん、まとめは僕がやるよ。バイトもしてないし時間あるから」

「ああ、そう?」


 隣の人は、困惑したような表情をしていた。

 僕がからかっただけだということに気付いたのは、少ししてからだった。


 その後も話し合いの時間はかなり残っていたので、班の人たちと発表することを固めていた。

 担当の先生から、割り振られた班と名前を書くように言い渡された紙が回ってきた。僕は持っていたペンで名前を書いて、さっきの隣の人に回す。隣の人は、僕が書いた文字を妙に見つめていた。


「ありがとう」


 隣の人は、そう言って僕のペンも持っていった。

 言おうと思ったけれど、せっかくなので気づくまでそのままにすることにした。

 僕のペンの行方を見ていると、隣の人の名前が西牧美緒にしまきみおだということが分かった。

 想像よりも整った字を書いていて少し感心する。


 西牧さんは逆隣りの人に紙とペンをまわそうとしたが、ペンは受け取ってもらえなかった。西牧さんの奥に座っていた人は、どうやら僕のペンが持っていかれたのを見ていたようだ。


「あれ、これって」

「それ僕の」


 困っていた西牧さんに、僕は短く言った。


「ごめん。ありがとう」


 西牧さんは、僕にペンを返しながら、恥ずかしそうに笑っていた。

 講義が終わり解散になった。席を立つと、西牧さんが声をかけてきた。


「じゃあねまっきー、まとめよろしくね」

「ああ、うん」


 そして西牧さんは、そのまま教室を出ていった。

 いくつかのあだ名で呼ばれている僕だが、まっきーという呼び方は初めてだった。

 それに、初対面であだ名をつけられるのも初めてだ。僕は西牧さんに、妙な話しやすさを感じていた。とても初対面とは思えないような感覚だった。

 西牧さんは、どことなく佳世ちゃんに似ている気がした。



 翌週、基礎ゼミの講義での発表は特に不都合なく終わった。各班の発表だけで、その日の講義は解散になった。

 帰ろうとして、教室の扉まで進むと西牧さんが僕のところに来た。


「まっきー、まとめありがとね」


 西牧さんはそれだけ言って去っていった。ずいぶんと律儀な人だと思った。

 大学に入ってから、貴久と和也を除いて、ほとんどが表面上の付き合いだったけれど、西牧さんとならまともに話ができそうな気がした。


――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。

 父親と兄との三人暮らし。


永野司ながのつかさ かさ

 小学校からの付き合い。

 僕をまこと呼ぶ。

 京都に住むために勉強をしているらしい。

 人との接し方が似ている。

 小学生のときに転校してきた。

 僕にとっては貴重な、家のことを話せる関係。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。

 高校でもバレーボール部に入った。

 最初だけは僕を玉木くんと呼んでいた。


中里佳世なかさとかよ 佳世ちゃん

 小学三年生のときに知り合った。

 いつもくだらないことで笑わせてくる愉快な人。

 一緒にコスモスを見に行った。

 中学二年生の終わり頃から話さなくなった。


浅羽慎二あさばしんじ 慎ちゃん

 中学一年生のときに同じクラスだった。

 やさしい言葉をかけてくれた。

 僕はそんな慎ちゃんのやさしさの在り方に、憧れを抱いている。


今井俊いまいしゅん 今井くん

 僕と似た空気を感じる。

 親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。

 曜子という人ともめたらしい。

 一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。

 それからは、距離が開いてしまった。


小林正樹こばやしまさき 小林くん

 昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。

 勉強に打ち込んでおり、部活もしている。

 高校一年生のときは室長もしていた。

 修学旅行のときから、僕をたまちゃんと呼ぶようになった。

 思っていたよりも、ずっと仲良くなれた。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。

 部活をやっている。坊主頭。

 修学旅行のとき、急に僕のことをたまちゃんと呼んできた。

 おせっかいだが、悪い人間ではない。


森島もりしまさん

 今井君のことを教えてくれた人。

 曜子という人の友人。

 友貴と付き合っていたらしい。

 冷静な人のようだが、友貴に似ておせっかいな面もある。


伊藤恵いとうめぐみ 伊藤さん

 吹奏楽部。フルートが上手らしい。

 わかりやすい感情表現をする。

 気さくな人でクラスの中心的存在。

 随分と、僕を気遣ってくれていた。

 僕の字を褒めてくれた。

 何事も一生懸命に取り組むことができる。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

 表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。

 気を許せる先生。


中川なかがわ先生

 高校二年生のときの担任。担当科目は国語。

 やさしい笑顔が特徴。

 いろいろと見抜かれている気がする。

 あのやさしい笑顔は、葛藤の末に得たもののように見える。

 人にやさしくあれる強さをもっている。

 尊敬できる先生。


渥美あつみ先生

 高校三年生のときの担任。担当科目は数学。

 弱さを隠さない人。

 だからこそ、信用できる。

 人間味あふれる先生。


西牧美緒にしまきみお 西牧さん

 初対面とは思えないほど話しやすい人。

 僕のことをまっきーと呼ぶ。

 少し佳世ちゃんに似ている気がする。


山瀬貴久やませたかひさ 貴久たかひさ

 大学からの友人。柔道部所属。

 一人暮らしをしている。語学のクラスが同じ。

 同じ部活の人と付き合っている。

 惚気話をよくする。


出口和也でぐちかずや 和也かずや

 大学からの友人。空手部所属。

 実家通い。語学のクラスが同じ。

 アルバイトに明け暮れており、講義はほとんど寝ている。

 高校時代に同じ部活だった先輩のことが好き。


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