三節 夏休み 後編
二人に会った後の夏休みは、行き先を決めないまま電車に乗る、気の向くままの旅行をして過ごしていた。
そうして一人暮らしをやめてから数か月が経って、はじめは懐かしいと思っていた暮らしも段々と日常になってきた。
相変わらず父は僕に気を遣おうとするし、兄とは会話をすることはないけれど、どことなく居心地が悪いという気はしなかった。
家事の分担は高校のときと同じになったが、一時間とはいえそれなりにかかる通学時間のために、最終コマまで講義がある日など、家事をこなせない日も少なからずあった。
そんなときは、兄が代わりにやってくれていた。高校のときには絶対に残されていた風呂掃除までをも、兄はやるようになっていた。二年前の僕だったら絶対に信じないことが、現実に起きている。
その原因は、十中八九去年二人で生活していた時期の名残だとは思うが、それでも僕は、そんなことができるようになった兄の振る舞いに、家での不満が減っているのを感じた。
そうして僕は、少し家族のことを考えていた。
結局両親が離婚した理由は、聞いていないから本当のところはわからない。
だけど、今の僕には、大方の予想はついていた。人に介入しようとしないのは、親同士の関係においても例外ではなかったから。
僕の家の人間は、ずっと本心を隠して、表面上の関係を続けていた。今思い返すと、痛々しく感じる場面も少なくない。
それでも踏み込まなかったのは、きっと傷つくことが怖かったからだと思う。
僕の家族はみんな、心をあらわにするのを恐れていたように思う。
弱さを見せることを、恐れていたように思う。
だから目先のことをあきらめて、薄っぺらい関係にすがろうとしただけ。
だけど、そんな関係が終わるのは、時間の問題だ。それがたまたま、僕が小学生のときだっただけなのだろう。
人と向き合おうとしていないのは、親も同じだった。不和はずっと前からあったのだろう。僕がわざとらしい表情に敏感なのは、そんな親たちを見てきたからなのかもしれない。
だけど、人間関係においては、弱さを見せることもときには必要だ。ずっと壁を張っていたら、何も本音で話せない。
その壁は、いつか壊さなければいけないと、僕は思った。
――――登場人物――――
玉木悠太 僕
中学時代はバレーボール部。
父親と兄との三人暮らし。
永野司 かさ
小学校からの付き合い。
僕をまこと呼ぶ。
京都に住むために勉強をしているらしい。
人との接し方が似ている。
小学生のときに転校してきた。
僕にとっては貴重な、家のことを話せる関係。
前川倖成 倖成くん
中学時代は、僕と同じくバレーボール部。
二年間クラスも同じでよく話をした。
僕をまこと呼ぶ。
高校でもバレーボール部に入った。
最初だけは僕を玉木くんと呼んでいた。
中里佳世 佳世ちゃん
小学三年生のときに知り合った。
いつもくだらないことで笑わせてくる愉快な人。
一緒にコスモスを見に行った。
中学二年生の終わり頃から話さなくなった。
浅羽慎二 慎ちゃん
中学一年生のときに同じクラスだった。
やさしい言葉をかけてくれた。
僕はそんな慎ちゃんのやさしさの在り方に、憧れを抱いている。
今井俊 今井くん
僕と似た空気を感じる。
親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。
曜子という人ともめたらしい。
一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。
それからは、距離が開いてしまった。
小林正樹 小林くん
昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。
勉強に打ち込んでおり、部活もしている。
高校一年生のときは室長もしていた。
修学旅行のときから、僕をたまちゃんと呼ぶようになった。
思っていたよりも、ずっと仲良くなれた。
田原友貴 友貴
中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。
部活をやっている。坊主頭。
修学旅行のとき、急に僕のことをたまちゃんと呼んできた。
おせっかいだが、悪い人間ではない。
森島さん
今井君のことを教えてくれた人。
曜子という人の友人。
友貴と付き合っていたらしい。
冷静な人のようだが、友貴に似ておせっかいな面もある。
伊藤恵 伊藤さん
吹奏楽部。フルートが上手らしい。
わかりやすい感情表現をする。
気さくな人でクラスの中心的存在。
随分と、僕を気遣ってくれていた。
僕の字を褒めてくれた。
何事も一生懸命に取り組むことができる。
江口先生
高校一年生のときの担任。担当科目は国語。
役者めいた話し方をする人。
表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。
気を許せる先生。
中川先生
高校二年生のときの担任。担当科目は国語。
やさしい笑顔が特徴。
いろいろと見抜かれている気がする。
あのやさしい笑顔は、葛藤の末に得たもののように見える。
人にやさしくあれる強さをもっている。
尊敬できる先生。
渥美先生
高校三年生のときの担任。担当科目は数学。
弱さを隠さない人。
だからこそ、信用できる。
人間味あふれる先生。
山瀬貴久 貴久
大学からの友人。柔道部所属。
一人暮らしをしている。語学のクラスが同じ。
同じ部活の人と付き合っている。
惚気話をよくする。
出口和也 和也
大学からの友人。空手部所属。
実家通い。語学のクラスが同じ。
アルバイトに明け暮れており、講義はほとんど寝ている。
高校時代に同じ部活だった先輩のことが好き。




