十一節 実家
僕は下宿生活をやめることにした。
僕はもっと旅行がしたいと思った。どうやら僕は、風景を見ながら考え事にするのが好きらしい。
でも、自分のやりたいことを、やっと見つけられた。
それほどまでに、一人で海を見に行ったことはいい経験だった。
そして僕は、もっと旅行をするために、お金を節約しようと思った。だから、何もしなくてもお金が減っていくこの生活はやめようと思った。
僕は、もっと広い世界が知りたい。この生活で消える金を、僕は自分のために使う。
実家での生活から逃げるためではなく、自分の好きなことのために使いたいと思った。
だから僕は、この下宿生活をやめることに決めた。
僕は、前回の旅で過去の自分とも向き合うことができた。
もう、この下宿生活で得るものは得た気がした。
僕は大家さんにそのことを話した。
驚かれたが、三月いっぱいで僕はこの部屋を出ることに決まった。
僕は一度実家に帰ることにした。
昼頃家に着いたが、平日なので父はまだ仕事だった。
そしてしばらくして、倖成君に連絡を取った。
あいにく今日はバイトだったが、夜なら会えるという連絡が来た。
高校生のときにかさとよく話した辺りで、僕は倖成君を待った。
倖成君は少し遅れて来たが、やけに急いだように息を切らしていた。
「やあ、まこ。久しぶり」
「久しぶりってほどでもないけどね」
「まあたしかに。で、どうしたの? さっき見たけど、一人暮らしやめるの?」
倖成君は僕が送った文章について聞いてきた。
「うん。理由は書いたとおり。もういいかなって思ったから」
「そうなんだ」
それから僕たちは、久しぶりに二人で、お互いのことをゆっくりと話した。
「それで僕さ、これからもっと頑張るよ。いろいろ逃げたきたこととかあるから」
「逃げてきてたの?」
「うん。いろいろね。だからさ、恋愛とかも頑張ってみようかなって思ってる」
「おー」
「そろそろ、ちゃんと前に進むよ」
僕は空を見上げた。冷たい冬空は、月が浮かんでいる。
僕が空に見惚れていると、倖成君はいつものようなおどけた口調で話し始めた。
「いやでも、まさかまこから恋愛頑張るなんて言葉が出るとはね」
「まあどうなるかわからないけれど、とりあえずここから、いろいろ頑張ってみるよ」
「うん」
倖成君は穏やかに相槌を打った。
「倖成くんは目標とかある?」
「いや僕はなあ、うーんまず金だね」
「またゲーム?」
「それとは別で、ちょっとね、またバレーをやろうかなと思ってて、そのための資金を先に集めてる」
「部活ってこと?」
「いや部活はなかったから、クラブチームに入るつもり。部活引退してから、ずっと物足りない気はしてたんだよね。
ゲームとかバイトとかも悪くはないんだけど、僕はやっぱりバレーの方が好きみたい。それで今までよりもお金かかるから、ちょっと貯めてからにしようと思ってね」
倖成君の声色は、少し恥ずかしそうだった。
「そうなんだ、いいじゃん」
倖成君がどれだけバレーに本気だったのかは、僕もよく知っている。
どれだけ、バレーが好きなのかということも。
「そう?」
「うん。すごいいいと思う」
「……ありがとう」
倖成君の声色は、やはり少し恥ずかしそうだった。
「じゃあお互い頑張ろうか」
「おう」
倖成君は、いつものような演技ばった返事をした。
家に戻ると、父が仕事から帰ってきていた。
僕がこの家に戻ってくるという旨を話すと、また車を出すと言ってくれた。
そして後日、僕は父に頼って荷物を運んでもらった。
大きい家電などは譲ったり、売ったりして、下宿先の部屋からは物がどんどんとなくなっていった。
そして最後の日、広くなった部屋を見渡してから僕は下宿先を出た。
一年ほどしかいなかったけれど、いざ出るとなると少し寂しくも感じた。
施錠して、鍵を封筒の中に入れる。
そして、玄関扉の郵便受けにその封筒を入れた。
これでここでの生活は終わりだ。一人暮らしをしていた期間は、短かったけれど楽しかった。
そしてこれからは、もっと楽しく過ごせるように、素直に生きよう。
豊かな色を、目に収めた。
四章 大学生編 一年生
――――登場人物――――
玉木悠太 僕
中学時代はバレーボール部。
父親と兄との三人暮らし。
永野司 かさ
小学校からの付き合い。
僕をまこと呼ぶ。
京都に住むために勉強をしているらしい。
人との接し方が似ている。
小学生のときに転校してきた。
僕にとっては貴重な、家のことを話せる関係。
前川倖成 倖成くん
中学時代は、僕と同じくバレーボール部。
二年間クラスも同じでよく話をした。
僕をまこと呼ぶ。
高校でもバレーボール部に入った。
最初だけは僕を玉木くんと呼んでいた。
中里佳世 佳世ちゃん
小学三年生のときに知り合った。
いつもくだらないことで笑わせてくる愉快な人。
一緒にコスモスを見に行った。
中学二年生の終わり頃から話さなくなった。
浅羽慎二 慎ちゃん
中学一年生のときに同じクラスだった。
やさしい言葉をかけてくれた。
僕はそんな慎ちゃんのやさしさの在り方に、憧れを抱いている。
今井俊 今井くん
僕と似た空気を感じる。
親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。
曜子という人ともめたらしい。
一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。
それからは、距離が開いてしまった。
小林正樹 小林くん
昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。
勉強に打ち込んでおり、部活もしている。
高校一年生のときは室長もしていた。
修学旅行のときから、僕をたまちゃんと呼ぶようになった。
思っていたよりも、ずっと仲良くなれた。
田原友貴 友貴
中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。
部活をやっている。坊主頭。
修学旅行のとき、急に僕のことをたまちゃんと呼んできた。
おせっかいだが、悪い人間ではない。
森島さん
今井君のことを教えてくれた人。
曜子という人の友人。
友貴と付き合っていたらしい。
冷静な人のようだが、友貴に似ておせっかいな面もある。
伊藤恵 伊藤さん
吹奏楽部。フルートが上手らしい。
わかりやすい感情表現をする。
気さくな人でクラスの中心的存在。
随分と、僕を気遣ってくれていた。
僕の字を褒めてくれた。
何事も一生懸命に取り組むことができる。
江口先生
高校一年生のときの担任。担当科目は国語。
役者めいた話し方をする人。
表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。
気を許せる先生。
中川先生
高校二年生のときの担任。担当科目は国語。
やさしい笑顔が特徴。
いろいろと見抜かれている気がする。
あのやさしい笑顔は、葛藤の末に得たもののように見える。
人にやさしくあれる強さをもっている。
尊敬できる先生。
渥美先生
高校三年生のときの担任。担当科目は数学。
弱さを隠さない人。
だからこそ、信用できる。
人間味あふれる先生。
山瀬貴久 貴久
大学からの友人。柔道部所属。
一人暮らしをしている。語学のクラスが同じ。
同じ部活の人と付き合っている。
出口和也 和也
大学からの友人。空手部所属。
実家通い。語学のクラスが同じ。
アルバイトに明け暮れており、講義はほとんど寝ている。




