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初恋の後悔  作者: お風呂かこ
四章 大学生編 一年生
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七節 家

 年末は実家で過ごした。特に何をするわけでもなく帰ったが、父がやたらと気をまわしてきた。

 わざわざ駅まで車で迎えに来たことにはじまり、部屋に入ると真新しい布団が畳まれていて、さらに夕食は出前の高そうな食べ物が用意されていた。


 至れり尽くせりの状況に、僕は戸惑った。ここまでされると、僕が余所者という感じがする。何となく気まずいまま久しぶりに三人で食卓を囲んだ。

 食事を終えると、今度は兄までもが僕に気をまわし始め、あろうことか自分の食器と一緒に僕の食器も下げた。

 さすがにこれには動揺が隠せなかった。


 兄が僕に気を遣うなどということは、記憶の中には一度もない。我がままで傲慢で、いつも自分の欲求だけを一方的にぶつけてくる兄がそんなことをするなんて、できるなんて、全く想像していなかった。

 信じられない状況に、僕は声が出なかった。


 その後父にお金のことを聞かれて少し会話をしたが、大したことは話さなかった。兄とはいつも通り会話はしなかった。


 そしてやっと僕は、自分の部屋に戻ってきた。

 少し、家具が小さく見えた。

 久しぶりに自分の部屋の感覚を思い出して、父の用意した布団で一晩眠り、次の日僕は下宿先に戻った。



 下宿先に戻ってから、僕はずっと一人暮らしをやめようか悩んでいた。何もしていなくても減っていく貯金と、それを止めるためにするバイト。

 ここでの生活のために、僕が犠牲にしている時間やお金を考えると、もう家から通ったほうがよいのではないかと思うようになった。


 ここにいたとしても、特に何かをするわけでもない。

 家にいるのと大差ないのは、この前家に帰ったときに分かった。

 それに、家から学校までは電車で一時間程度なので、普通に通える距離ではある。

 それならいっそ、家に戻ってしまうのもいいと思った。たしかにここでの暮らしは楽ではあったけれど、減る貯金のことを思えば、家での生活は我慢できると思った。

 それに将来のことを考えるなら、奨学金にはできるだけ手を付けたくない。

 僕はもう、ここでの暮らしを満喫したようにも思った。



 そして、僕はまずアルバイトをやめることにした。

 年明け一回目のバイトのときに、僕は店長にやめる旨を話した。

 店長は残念そうにしながらも、「玉木くんが選んだことなら仕方ない」といった。

 そして引き留められることもなく、一月いっぱいでやめることに決まった。


 秋学期のテストも終わり、最後のバイトの日が来た。閉店作業を終えた僕は、店長とバイトの先輩と一緒に外に出た。


「玉木くんいないと寂しくなるなあ」


 前を歩いていた店長が、急に振り返って言った。


「店長、私は玉木くんみたいには入れませんからね」


 隣にいた先輩は僕よりも早く答えた。


「バイトしてくれる子いないかなあ……そうだ、玉木くんこれあげるよ」


 店長は愚痴っぽく言った後、僕に菓子パンを渡してきた。


「パン? うわ賞味期限ぎりぎりだ」


 先輩は僕の手元を見ながら笑って言った。よく見るとパンには割引シールが貼られている。


「ごめんこんなのしかなくて。すぐ食べたら平気だと思うから」

「ありがとうございます」

「こちらこそありがとね。短い間だったけどほんとうに助かったよ。じゃあこれからもがんばって」


 店長は僕の肩を軽く叩いて去っていった。店長は、渥美先生のような硬い手をしていた。


「私何も持ってないや」


 自分の鞄を漁っていた先輩は言った。


「ちょっとの間だったけど楽しかったよ。ありがと」

「いえ、こちらこそ」

「じゃあね、ばいばい玉木くん」

「はい、ありがとうございました」


 先輩も去っていった。


 数か月とはいえ、かなりの時間を共有していたため、別れはそれなりに寂しく感じた。

 少し話すだけの関係だったが、バイト先の人は僕のことをかなり受け入れてくれていた。感じのいい人たちばかりでよかった。

 もともとテスト期間だったということもあり、ほとんどシフトは入っていなかったので、それほど迷惑をかけることなくやめられたと思う。

 だけど、少し罪悪感もあった。


――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。

 父親と兄との三人暮らし。


永野司ながのつかさ かさ

 小学校からの付き合い。

 僕をまこと呼ぶ。

 京都に住むために勉強をしているらしい。

 人との接し方が似ている。

 小学生のときに転校してきた。

 僕にとっては貴重な、家のことを話せる関係。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。

 高校でもバレーボール部に入った。

 最初だけは僕を玉木くんと呼んでいた。


中里佳世なかさとかよ 佳世ちゃん

 小学三年生のときに知り合った。

 いつもくだらないことで笑わせてくる愉快な人。

 一緒にコスモスを見に行った。

 中学二年生の終わり頃から話さなくなった。


浅羽慎二あさばしんじ 慎ちゃん

 中学一年生のときに同じクラスだった。

 やさしい言葉をかけてくれた。

 僕はそんな慎ちゃんのやさしさの在り方に、憧れを抱いている。


今井俊いまいしゅん 今井くん

 僕と似た空気を感じる。

 親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。

 曜子という人ともめたらしい。

 一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。

 それからは、距離が開いてしまった。


小林正樹こばやしまさき 小林くん

 昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。

 勉強に打ち込んでおり、部活もしている。

 高校一年生のときは室長もしていた。

 修学旅行のときから、僕をたまちゃんと呼ぶようになった。

 思っていたよりも、ずっと仲良くなれた。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。

 部活をやっている。坊主頭。

 修学旅行のとき、急に僕のことをたまちゃんと呼んできた。

 おせっかいだが、悪い人間ではない。


森島もりしまさん

 今井君のことを教えてくれた人。

 曜子という人の友人。

 友貴と付き合っていたらしい。

 冷静な人のようだが、友貴に似ておせっかいな面もある。


伊藤恵いとうめぐみ 伊藤さん

 吹奏楽部。フルートが上手らしい。

 わかりやすい感情表現をする。

 気さくな人でクラスの中心的存在。

 随分と、僕を気遣ってくれていた。

 僕の字を褒めてくれた。

 何事も一生懸命に取り組むことができる。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

 表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。

 気を許せる先生。


中川なかがわ先生

 高校二年生のときの担任。担当科目は国語。

 やさしい笑顔が特徴。

 いろいろと見抜かれている気がする。

 あのやさしい笑顔は、葛藤の末に得たもののように見える。

 人にやさしくあれる強さをもっている。

 尊敬できる先生。


渥美あつみ先生

 高校三年生のときの担任。担当科目は数学。

 弱さを隠さない人。

 だからこそ、信用できる。

 人間味あふれる先生。


山瀬貴久やませたかひさ 貴久たかひさ

 大学からの友人。柔道部所属。

 一人暮らしをしている。語学のクラスが同じ。

 同じ部活の人と付き合っている。


出口和也でぐちかずや 和也かずや

 大学からの友人。空手部所属。

 実家通い。語学のクラスが同じ。

 アルバイトに明け暮れており、講義はほとんど寝ている。


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