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初恋の後悔  作者: お風呂かこ
四章 大学生編 一年生
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六節 誕生日会

 十二月末の今日は、ずっと前に約束をした、二人に会う日だ。

 バイトはいつも多めに入っているからか、忙しい時期にも関わらずあっさり連休を取らせてくれた。

 僕は久しぶりに会った倖成君と一緒に、電車に乗って京都へ向かった。


「倖成くんバイトしてる?」

「うん。大学近くのうどん屋でやってる」


 倖成君はおにぎりを食べながら言った。


「どんなところ? 忙しいの?」

「普通のチェーン店。僕が入ってる時間帯はいつも忙しいかな」

「たいへんそうだね」

「まあね。まこは?」

「僕は薬局でやってるよ。楽だけどすごいひま」

「いいなあ、うらやましい」


 倖成君は席に座りなおして、閉じていた足を開いた。


「でもひまなのもけっこうつらいよ」

「まあそれはたしかにそうかも」


 考えるようにして静かになってしまった倖成君に、僕はまた話しかけた。


「倖成くんは何でバイトしてるの?」

「お金欲しいからかな」

「それは何か買うため?」

「最近はゲームとかだね。この前新しいゲーム機も買ったから」


 僕もゲームでも買えば暇つぶしになるだろうか。でも、今さら新しいゲーム機を買う気は起こらない。

 おそらく、僕はすぐやめてしまう。



 倖成君と話しながら電車に揺られてしばらく、僕たちは京都に着いた。

 駅の改札を抜けたところで、かさを見つけた。かさは僕たちを見つけるなり、顔を伏せて笑った。


「ちょっと待て、人の顔見ていきなり笑うのは失礼だぞ」


 倖成君はおどけた口調で言った。


「いやー、あなたたち変わってなさすぎでしょ」


 かさは顔を上げてもなお、笑い続けていた。僕もよくわからないけれど笑っていた。

 僕たちは、久しぶりにいつもの三人での再会を果たした。



「こっちに来たときから、売ってないなあとは思ってたんだよね」


 かさがスーパーの袋を下ろして残念そうに言った。

 僕たちは、かさの下宿先に向かう途中のスーパーで買い物をすることにした。だけど、肝心のケーキ台がなかった。そして僕たちは仕方なく、代わりにピザやお菓子を大量に買い込んだ。


「まあケーキくらいよくない? いらないでしょ」


 そう言ったのは祝われる側のはずの倖成君だった。


「倖成くんが言うならまあいいか」


 僕は不服ながらもそう言った。


「ていうかケーキ作りってあれ、僕以外の二人が遊びたいだけだしね」


 なぜか倖成君は自分を外して言った。いつもひどいのを入れるのは倖成君なのに。その分倖成君はいつも処理分量が多めだ。


 そうして僕たちは、少し味気ない誕生日会をした。ケーキはなかったけれど、またこの三人で集まって、くだらない話で盛り上がれることがうれしかった。

 ひとしきり騒いだ後、僕たちはお菓子と飲み物を追加しようとコンビニに行った。



 寒くて明るい夜道を、また三人で話ながら歩いた。


「あれ、倖成くんは?」


 一足先に買い物を終えて、外で待っていたかさが話しかけてきた。


「トイレ行ってくるって。中で待つ?」

「いや、ここでいいよ」


 かさは大きく息を吐いた。後ろからの光で、白い息がよく見える。


「ねえ、一人暮らしどう?」


 かさは夜空を見上げたまま言った。


「快適だよ。自分のことしかやらなくていいから、家いたときよりやること減ったし。お風呂の時間とかも気にしなくていいし」

「お金はどうしてるの?」

「今はバイトもしてるけど、それまでは貯金切り崩してた」

「ふーん」


 かさは興味なさそうに相槌を打った。

 その声は、乾いていた。


「かさ、バイトしてないでしょ?」


 僕はかさが欲していそうなことを聞いた。おそらくかさが言いたのはこれだ。


「うん。バイトなんて意味ないもん」

「やっぱりそう言う?」

「そりゃあね。だって学生生活は今しかないし。これが最後だし。そんな大事な時間を安い時給で切り売りするなんて嫌だわ」


 自分の時間の使い方については悩んでいた。このままでいいのか。親に高い学費を払ってもらってまで得た時間を、こんなふうに使ってしまっていいのかと。

 どうせなら、今しかできないことをするべきだとは思う。

 バイトなんて、いつだってできるのだから。


「みんながやってるからとか、就活のためとか、社会経験のためとか、そんな理由でバイトしてるやつはばかだと思うよ」


 かさはさらに言葉をつなげる。


「そんなこと言うくらいなら、単純に金が欲しいからやってるっていうやつのほうがいい。バイトが自分のやりたいことのためになるならそれはまた別だけどね」

「それはまあ、そうだね。貴重な時間を捨ててるっていうのはそうだと思う」

「まあ、まこがどういう理由でやってるのかは知らないけど。僕は今の時間が時給千円程度で失っていいものだとは思えないかな」


 それは僕だって同じだ。バイトに明け暮れて、講義は寝てしまうことも多くなった。出席が必要ではない講義は行かないことの方が多い。

 僕は、ただ家賃を浮かせたいというだけの理由で、いろいろなものをつぶしている。

 まだ、貯金はあるのに。


「僕は家賃浮かせたいだけだよ。他に理由はない」

「ふーん」


 かさはまた気のない返事をした。その後すぐ、かさはずっと空に向けていた視線を僕に向けた。


「というかさっきからのこれ、全部まこが言ってたことなんだけど、覚えてないの?」


 どうりで少し違和感があったわけだ。大学で何かあったのかと思ったが、振り返れば確かに、昔僕が言った覚えのある言葉だった。


「らしくないと思ったら、それ僕が言ったことか。高校のときだっけ?」

「まこがこんなこといったから僕仕送りと貯金で何とかしてるのに、なんでまこがバイトやってるの?」


 かさは楽しそうに笑った。ぎこちなさも屈託も感じさせない表情だった。


「さあね、僕もわからない」

「まあ、なんだっていいけどさ……大学はどう? 楽しい?」

「それなりに」

「そっか」


 そのやわらかい表情は、どこか悲しそうにも見えた。


「あ、そういえば倖成くんの誕生日プレゼント買った? 僕まだなんだけど」


 店内をうかがいながらかさは言った。


「いや僕もまだ。タイミングがなくて」

「どうする? 明日どこかに買いに行く?」

「そうしよう。誕生日ちょうど明日だし。目の前で変なもの買ってあげよう」

「それだ」


 かさはまた笑った。

 今度はいたずらっぽさのある自然な笑顔だった。



 次の日、僕たちは街の方に行ってプレゼントを買った。僕は白檀の匂い袋と奇抜な色をした木箱を、かさはベルトとだるまの人形をあげていた。

 そうして楽しい時間はあっという間に過ぎて、僕たちはかさの下宿先から、三人そろって実家の方に戻った。

 会うのは久しぶりだったけれど、この三人でいる時間はいつも通りの愉快さだった。


――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。

 父親と兄との三人暮らし。


永野司ながのつかさ かさ

 小学校からの付き合い。

 僕をまこと呼ぶ。

 京都に住むために勉強をしているらしい。

 人との接し方が似ている。

 小学生のときに転校してきた。

 僕にとっては貴重な、家のことを話せる関係。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。

 高校でもバレーボール部に入った。

 最初だけは僕を玉木くんと呼んでいた。


中里佳世なかさとかよ 佳世ちゃん

 小学三年生のときに知り合った。

 いつもくだらないことで笑わせてくる愉快な人。

 一緒にコスモスを見に行った。

 中学二年生の終わり頃から話さなくなった。


浅羽慎二あさばしんじ 慎ちゃん

 中学一年生のときに同じクラスだった。

 やさしい言葉をかけてくれた。

 僕はそんな慎ちゃんのやさしさの在り方に、憧れを抱いている。


今井俊いまいしゅん 今井くん

 僕と似た空気を感じる。

 親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。

 曜子という人ともめたらしい。

 一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。

 それからは、距離が開いてしまった。


小林正樹こばやしまさき 小林くん

 昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。

 勉強に打ち込んでおり、部活もしている。

 高校一年生のときは室長もしていた。

 修学旅行のときから、僕をたまちゃんと呼ぶようになった。

 思っていたよりも、ずっと仲良くなれた。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。

 部活をやっている。坊主頭。

 修学旅行のとき、急に僕のことをたまちゃんと呼んできた。

 おせっかいだが、悪い人間ではない。


森島もりしまさん

 今井君のことを教えてくれた人。

 曜子という人の友人。

 友貴と付き合っていたらしい。

 冷静な人のようだが、友貴に似ておせっかいな面もある。


伊藤恵いとうめぐみ 伊藤さん

 吹奏楽部。フルートが上手らしい。

 わかりやすい感情表現をする。

 気さくな人でクラスの中心的存在。

 随分と、僕を気遣ってくれていた。

 僕の字を褒めてくれた。

 何事も一生懸命に取り組むことができる。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

 表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。

 気を許せる先生。


中川なかがわ先生

 高校二年生のときの担任。担当科目は国語。

 やさしい笑顔が特徴。

 いろいろと見抜かれている気がする。

 あのやさしい笑顔は、葛藤の末に得たもののように見える。

 人にやさしくあれる強さをもっている。

 尊敬できる先生。


渥美あつみ先生

 高校三年生のときの担任。担当科目は数学。

 弱さを隠さない人。

 だからこそ、信用できる。

 人間味あふれる先生。


山瀬貴久やませたかひさ 貴久たかひさ

 大学からの友人。柔道部所属。

 一人暮らしをしている。語学のクラスが同じ。

 同じ部活の人と付き合っている。


出口和也でぐちかずや 和也かずや

 大学からの友人。空手部所属。

 実家通い。語学のクラスが同じ。

 アルバイトに明け暮れており、講義はほとんど寝ている。


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