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初恋の後悔  作者: お風呂かこ
四章 大学生編 一年生
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四節 夏休み

 春学期を終えた僕は、単発のバイトをはじめた。テストの結果はまだわからないが、とにかく暇だったので、ネットで検索してバイトを入れた。

 貴久と和也は部活で忙しいらしく、夏休みの予定はほとんど合わなかった。そうして始めたバイトは、暑さもあって想像よりも大変だった。


 家賃と生活費で、お金は何もしていなくてもなくなっていく。この生活は元の家にいるときよりは、精神的にも肉体的にもずっと楽だったが、その分金がかかった。

 バイトがない日、僕は暇つぶしに出かけようとも思った。しかし外に出てもすることがないので、結局ほとんど部屋に引きこもっていた。僕が普段、当たり前のように見ていた川や森は近くにない。

 都会の利便性は、僕の生活には合わなかった。



 夏休みの終盤、僕たちは久しぶりに三人で貴久の家に集まった。

 テレビで怖い映画を見ながら、僕たちは一緒にご飯を食べていた。今日は貴久が炒飯を振舞ってくれた。


「ねえ、玉木くん。ちょっとこれ見て」


 映画を見ている最中、貴久が僕に携帯電話の画面を見せてきた。

 そこには、貴久と知らない女の人が映っている写真が表示されていた。


「誰これ?」

「誰だと思う?」


 やけに上機嫌な顔で貴久は言った。


「ねえ、和也は知ってる?」


 僕は、映画に釘付けになっていた和也に聞いた。

 和也は振り返るなり、こっちに移動してきた。


「なにこれ、彼女?」


 僕とは違ってかなりいい反応をしている。

 貴久は何も言わないまま、携帯電話を置いて流しのほうに行った。


「おい教えろ、彼女か?」


 和也は貴久を追いかけて、流しのほうに行った。

 置いていかれた携帯電話の画面を改めて見る。言われてみれば、確かにそうにも見えた。


 そして僕たちは、貴久からその女の人との関係について聞いた。

 横で流れたままの怖い映画は、もはや誰も興味を示していなかった。


 その人は貴久と部活が同じ人で、夏休みが始まる辺りから付き合いはじめたらしい。

 女の人の方が告白してきて、そのまま返事をして付き合うことになったようだ。


「貴久はその人のこと好きなの?」


 馴れ初めなどを聞いていろいろと盛り上がっている中、僕は貴久に尋ねた。


「うん、好きだよ」


 貴久は当然のようにそう言った。


「さすがに好きじゃなかったら付き合わないだろー」


 和也も僕に言葉を返した。


「そっか、そうだよね」


 僕はこの二人の前で初めて、ごまかすための愛想笑いをした。僕は、二人との距離を感じた。

 二人にとって当たり前のことが、僕にはよくわからない。

 付き合うって、好きって、何だろう。



「玉木くんって、どんな人が好きなの?」


 貴久の家を出て一緒に歩いていると、和也が聞いてきた。


「急にどうしたの?」

「玉木くんはどうなのかなって思って」


 和也は、僕の顔を覗き込むように見た。いつもより少し目を細めている。

 もしかして、僕が愛想笑いをしたことに気付いたのだろうか。そこまで見られていたような気はしなかったけれど。


 そうして少し考えて、僕は素直に話すことにした。それほど関係性が深くない和也になら、話してもいいと思えた。


「えーっと、正直言えば、よくわからないんだよね。好きってなんだろう、みたいな……」

「あー」


 和也は目線を空に向けた。


「今まで付き合った人とかはいなかったの?」

「うん」

「正直俺はかわいければ付き合いたいとか思っちゃうけど、玉木くんはそんな感じではなさそうだなあ」

「まあ、そうだね」


「気になる人とかもいなかった?」

「昔はいたかも。でも、それだって好きだったのかと言われるとあまり自信ない」

「へー。ちなみにどんな人?」

「えーっと…………ふっ」


 佳世ちゃんのことを思い出していると、吹き出してしまった。


「おーどうした?」

「いや、なんか変な人だったなと思って」

「でも好きだったんでしょ?」


 和也がにやついた顔で僕を見てきた。


「だから好きかどうかはわかんないって」

「それ本当は好きだったんでしょ?」

「なんでそう思うの?」

「だって玉木くんがそんな楽しそうに笑ってるの初めて見たし」


 そう言われて僕は、自分の表情が弛緩しきっていることに気付いた。

 和也は機嫌によさげにさらに聞いてくる。


「その人って今大学生?」

「知らない。中学以来会ってないし。なんか勉強はしてたみたいだから、たぶん進学してると思うけど」

「やっぱり引きずってるんじゃん。ほら、素直になれって」


 和也は軽く背中を叩いてくる。布越しだから、それほど不快感はなかった。


「だから引きずるとかじゃないから。好きとかでもないんだって」

「わかったわかった」


 そう言って視線をそらした和也と、僕は笑顔を交えて話を続けた。

 和也はいつにもまして、やさしく笑っていた。


――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。

 父親と兄との三人暮らし。


永野司ながのつかさ かさ

 小学校からの付き合い。

 僕をまこと呼ぶ。

 京都に住むために勉強をしているらしい。

 人との接し方が似ている。

 小学生のときに転校してきた。

 僕にとっては貴重な、家のことを話せる関係。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。

 高校でもバレーボール部に入った。

 最初だけは僕を玉木くんと呼んでいた。


中里佳世なかさとかよ 佳世ちゃん

 小学三年生のときに知り合った。

 いつもくだらないことで笑わせてくる愉快な人。

 一緒にコスモスを見に行った。

 中学二年生の終わり頃から話さなくなった。


浅羽慎二あさばしんじ 慎ちゃん

 中学一年生のときに同じクラスだった。

 やさしい言葉をかけてくれた。

 僕はそんな慎ちゃんのやさしさの在り方に、憧れを抱いている。


今井俊いまいしゅん 今井くん

 僕と似た空気を感じる。

 親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。

 曜子という人ともめたらしい。

 一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。

 それからは、距離が開いてしまった。


小林正樹こばやしまさき 小林くん

 昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。

 勉強に打ち込んでおり、部活もしている。

 高校一年生のときは室長もしていた。

 修学旅行のときから、僕をたまちゃんと呼ぶようになった。

 思っていたよりも、ずっと仲良くなれた。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。

 部活をやっている。坊主頭。

 修学旅行のとき、急に僕のことをたまちゃんと呼んできた。

 おせっかいだが、悪い人間ではない。


森島もりしまさん

 今井君のことを教えてくれた人。

 曜子という人の友人。

 友貴と付き合っていたらしい。

 冷静な人のようだが、友貴に似ておせっかいな面もある。


伊藤恵いとうめぐみ 伊藤さん

 吹奏楽部。フルートが上手らしい。

 わかりやすい感情表現をする。

 気さくな人でクラスの中心的存在。

 随分と、僕を気遣ってくれていた。

 僕の字を褒めてくれた。

 何事も一生懸命に取り組むことができる。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

 表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。

 気を許せる先生。


中川なかがわ先生

 高校二年生のときの担任。担当科目は国語。

 やさしい笑顔が特徴。

 いろいろと見抜かれている気がする。

 あのやさしい笑顔は、葛藤の末に得たもののように見える。

 人にやさしくあれる強さをもっている。

 尊敬できる先生。


渥美あつみ先生

 高校三年生のときの担任。担当科目は数学。

 弱さを隠さない人。

 だからこそ、信用できる。

 人間味あふれる先生。


山瀬貴久やませたかひさ 貴久たかひさ

 大学からの友人。柔道部所属。

 一人暮らしをしている。語学のクラスが同じ。

 同じ部活の人と付き合っている。


出口和也でぐちかずや 和也かずや

 大学からの友人。空手部所属。

 実家通い。語学のクラスが同じ。

 アルバイトに明け暮れており、講義はほとんど寝ている。


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