表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋の後悔  作者: お風呂かこ
幕間 過去編
31/68

五節 中学校編 一年生

 僕は中学に入ってもおとなしくしていた。環境が変わり、新しい友だちもできた。かさは隣のクラスだったが、よく廊下に出て話をした。一年の教室周りは、楽しかった。


 しかし中学には、僕に絡んできた兄の同級生たちもいた。僕は面倒な奴らと、再会することになる。

 移動教室などで僕の姿を見つけると、僕が不登校の兄の弟であるということを強調するようにして話しかけてきた。周りでたむろっている奴らに、僕の存在を教えるように。

 いい加減うっとうしかったので、僕は無視を決め込んだ。


 新しくできた友だちは、その言葉を聞いても僕には何も聞いてこなかった。おそらく、僕の表情を見て察してくれたのだと思う。

 僕は、新しくできた友だちに兄のことを聞かれるのが嫌だった。だから少し安堵していた。

 やさしい人が友だちになってくれて良かったと思った。



 中学に入って少しすると部活の見学が始まった。

 僕は部活の体験入部でも、不登校の兄の弟という認識をされた。弟というだけで、知らない上級生にも懐疑心をはらんだ目を向けられた。初対面の三年生には、たいてい気まずい顔をされた。


 兄の存在があることで、僕がそういう扱いを受けるのが嫌だった。そんなことをしてくるやつらにも、その原因を作った兄にも僕は不満を抱いていた。

 家で喧嘩ばかりして、そのうえ僕に当たってくる兄が許せなかった。

 このころにはもう、僕は兄と一切会話をしなくなっていた。

 もう繕うのは無理だった。


 結局僕は、上級生が比較的少なかったバレーボール部を選んだ。

 僕たちは部活毎に分かれて顔合わせをするのために、指定された教室に集まった。

 新入部員は同じ小学校の人が二人、初めて見る人たちが四人いる。小学校のときに見たことがある先輩も何人かいた。

 軽く挨拶を済ませて、すぐに体育館に行くことになった。


「ねえ、なんで玉木くんって、まこって呼ばれてるの?」


 僕と同じバレー部一年の人が話しかけてきた。同じ小学校だった二人が僕のことをまこと呼んでいて、疑問に思ったのだろう。

 名前は確か、倖成君だっただろうか。


「『まこ』は小学校のときについたあだ名だよ。もともと『たまこ』だったんだけど、いつの間にか短くされてて『まこ』になってたんだよね」

「そうなんだ、じゃあ僕もまこって呼んでいい?」

「ぜんぜんいいよ、倖成こうせいくんだよね? これからよろしく」

「うん、よろしく」


 僕は倖成君をはじめとして、部活の同じ学年の人と仲良くなっていった。

 体育館に入ってボールに慣れるための練習をしていると、女子のバレー部に佳世ちゃんがいることに気が付いた。クラスも違うので何をしているのだろうと思っていたけれど、同じバレーボールを選んでいたようだ。

 僕はそのことを少しうれしく思った。



 バレー部の先輩たちはとてもいい人だった。僕が何かをされるということはまったくなく、僕にも他の人たちと分け隔てなく接してくれた。はじまりは確かに、あの兄の弟であるという認識だったと思うが、それは単なる僕の第一印象に過ぎなかった。

 先輩たちは、僕をそのまま見てくれた。

 本当は持ってきてはいけないはずのお菓子をこっそりくれたりして、先生にはたまに一緒に注意されたりした。バレー部の先輩たちは、いつもやさしく教えてくれる、おもしろくて楽しい人たちだった。

 部活は、僕にとってほんとうに居心地のいい場所だった。



 毎年の苦痛である面談がやってきた。

 先生も親も、勝手に言いたい放題言っていた。成績も学校での態度も、非の打ち所がないくらい優秀らしい。先生からすると、そう見えるのも仕方がないのかもしれない。

 事実表面上は、体のいい優等生そのものなのだから。

 僕が一番引っかかたのは、親が発した「反抗期もなく」という言葉だった。

 反抗期もなく、ではないだろう。

 あの家庭状況で僕が反抗して、あなたはどうにかできるのか……?

 そもそも兄の態度にも父の態度にも辟易していた僕は、反抗する気自体なかった。関わりたいとも思わなかった。

 反抗なんて贅沢な行為は、僕にはできない。


 そうして僕は問題を起こさない優等生をずっと演じていた。親が離婚したそのときから、僕が本音を話すことは一切なくなっている。そうして仮面をかぶったままずっと過ごしてきた。

 でもそうでもしないと、あの不安定な家庭に居続けられなかったのだから仕方がない。僕はまだ、一人では生きていくことはできない。兄があの状況なのに、僕がさらに迷惑をかけるわけにもいかない。

 面談の薄っぺらい会話は、僕の精神を逆なでするだけで終わった。

 だけど、それでも僕は親に対して不満があるなんて素振りは見せなかった。

 そういう演技だけは、皮肉にも上手だった。



 夏の大会が終わり、二つ上の先輩たちがいなくなると、一つ上の先輩たちとよく関わるようになった。

 一つ上の先輩たちは、バレーボールのことが大好きな人たちばかりだった。そんな先輩たちと、同じ学年の仲間たちとともに、僕は部活を楽しんだ。


 そうして学校生活を送っていると、どこからか僕が喧嘩が強いという噂が流れた。

 僕の小学校時代のことを恨んでいる人がいるのか、はたまた上級生に絡まれているのを見てそう思ったのか、真意はわからない。

 僕は絡んでくる上級生に、兄のことや家のことについてごちゃごちゃと大声で喚かれていた。自転車で突っ込まれたり、ヘルメットで殴られたりもしたが、それも僕は無視していた。

 それは、そんなくだらない人間に裂く時間が惜しいと思ったからだ。僕は敵意を向けてくるだけの存在の幼稚さを、相手をする時間の無意味さを、よく知っている。

 だからこそ僕は、どうでもいい人間とは関わらないようにしていた。

 噂の発端が何なのかはわからないけれど、小学校のときのことを思えば、悪い噂が流れるのは仕方ないとも思った。だけど、平凡におとなしく過ごそうとしていた僕は困っていた。


 他の小学校出身の人が、わざわざ僕のところに来て話しかけてくる。喧嘩なんてしたこともない僕は、言い訳をしてごまかしていた。僕は人に嫌われるのも、人を傷つけるのも、もう嫌だと思っていたのに。

 だから、あまり関わらないようにしているのに。

 それでもうわさはだんだんと大きくなっていって、僕は周りの人に隠れ不良だと思われるようになった。

 僕はどうしたらいいのかわからなかった。

 毎日、何も起きないようにと祈りながら過ごした。



 そんなある日の放課後、僕は机に座ったままうつむいていた。

 かさは、このことを知っているのだろうか。

 そう思ったとき、中学から新しくできた友だちの一人である、浅羽慎二あさばしんじ君が話しかけてきた。


「たまちゃん、困ってるならいつでも頼って。力になるから」


 僕は急にかけられたその言葉に戸惑った。言葉の意味ははっきりと分かるが、その言葉を発した理由がわからなかった。だけど、慎二君のまっすぐな目が、その言葉が嘘ではないことを物語っていた。

 僕はふいに泣きそうになる。一気に感情がのぼってきて、目にはうっすらと涙が溜まった。僕はとっさに顔を伏せて、それと同時にかさや佳世ちゃんが僕にしてくれたことを少し思い出した。

 そして僕は、ゆっくりと言葉をつなげた。


「ありがとう……慎ちゃん」


 僕は慎二君をあだ名で呼んだ。たまちゃんと呼んでくれていることも、気にかけてくれたことも、全部が全部うれしかった。


「部活行くでしょ?」

「うん」


 僕は慎ちゃんと一緒に体育館前まで来た。


「慎ちゃん、バスケ楽しい?」

「楽しいよ。たまちゃんは? バレーどう?」

「楽しい。ありがとう慎ちゃん」


 僕は心からの笑顔で言った。


「また明日ね、たまちゃん」


 慎ちゃんはやさしげな笑顔を浮かべていた。



 秋の校外学習のとき、なぜか兄が学校に行った。それを知ったのは家に帰ってからだったが、その日の父はやけに機嫌がよかった。

 兄が学校に行ったのはそれきりだった。単なる気まぐれだったのか、何かの理由があったのかはわからない。でも、その日を境に兄と父は喧嘩しなくなった。


 家庭内は落ち着いて、家事の分担も昔に戻った。交代でご飯を用意して、風呂掃除や洗濯物の片付けをする毎日は、少し懐かしかった。



 結局僕の噂は風化していった。もしかすると、僕はからかわれていただけなのかもしれない。噂は噂のままで何事もなく終わった。

 でも、そのおかげで僕は若干話す人も増えた。

 そして何より、人の温かさを知ることができた。


 僕の中学校生活一年目は、慎ちゃんをはじめとするクラスの人たち、同じ部活の倖成君やたまに話す佳世ちゃん、クラスは一緒ではないけれど友だちでいてくれるかさなど、たくさんのいい人たちに囲まれた生活をした。


 家庭も最悪な状況からは脱したようで、中学に入ってからはほんとうに毎日が楽しかった。

 そうして長かった一年も終わりに差し掛かった頃、慎ちゃんははやくに親を亡くしているということを耳にした。噂話が好きではなかった僕は、それについて慎ちゃんと小学校が同じだった倖成君に聞いてみた。

 倖成君は、

「それ、慎二は気にしてないように振舞うけど、もし本人に直接聞くつもりだったら、そういう事情があることはちゃんと考えてあげて」と言っていた。


 それを聞いて僕は、倖成君の温かさや自分の至らなさ、そして慎ちゃんの強さを改めて実感した。

 本当はたくさん思うところがあるだろうに、慎ちゃんはいつもやさしい。いや、だからこそなのかもしれない。


 人の痛みがわかるからこそ、やさしくできる。

 つらい気持ちがわかるからこそ、寄り添うことができる。

 それは、周りに当たってしまった僕とは、正反対の在り方だった。

 慎ちゃんは、本当に強い人間だ。

 敵わないと思いながらも僕は、慎ちゃんのやさしさに憧れを抱いた。


――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。

 父親と兄との三人暮らし。


永野司ながのつかさ かさ

 小学校からの付き合い。

 僕をまこと呼ぶ。

 京都に住むために勉強をしているらしい。

 人との接し方が似ている。

 小学生のときに転校してきた。

 僕にとっては貴重な、家のことを話せる関係。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。

 高校でもバレーボール部に入った。

 最初だけは僕を玉木くんと呼んでいた。


中里佳世なかさとかよ 佳世ちゃん

 小学三年生のときに知り合った。

 いつもくだらないことで笑わせてくる愉快な人。

 一緒にコスモスを見に行った。


浅羽慎二あさばしんじ 慎ちゃん

 中学一年生のときに同じクラスだった。

 やさしい言葉をかけてくれた。

 僕はそんな慎ちゃんのやさしさの在り方に、憧れを抱いている。


今井俊いまいしゅん 今井くん

 僕と似た空気を感じる。

 親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。

 曜子という人ともめたらしい。

 一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。

 それからは、距離が開いてしまった。


小林正樹こばやしまさき 小林くん

 昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。

 勉強に打ち込んでおり、部活もしている。

 高校一年生のときは室長もしていた。

 修学旅行のときから、僕をたまちゃんと呼ぶようになった。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。

 部活をやっている。坊主頭。

 修学旅行のとき、急に僕のことをたまちゃんと呼んできた。


森島もりしまさん

 今井君のことを教えてくれた人。

 冷静な人のようだが、意図はよくわからない。

 曜子という人の友人。


伊藤恵いとうめぐみ 伊藤さん

 吹奏楽部。フルートが上手らしい。

 わかりやすい感情表現をする。

 気さくな人でクラスの中心的存在。

 随分と、僕を気遣ってくれていた。

 僕の字を褒めてくれた。

 何事も一生懸命に取り組むことができる。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

 表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。


中川なかがわ先生

 高校二年生のときの担任。担当科目は国語。

 やさしい笑顔が特徴。

 いろいろと見抜かれている気がする。

 あのやさしい笑顔は、葛藤の末に得たもののように見える。

 人にやさしくあれる強さをもっている。


渥美あつみ先生

 高校三年生のときの担任。担当科目は数学。

 弱さを隠さない人。

 だからこそ、信用できる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ