一節 進級
僕はいよいよ三年生になった。
コースは進学文系のままなので、クラスには知っている人も多い。友貴は隣のクラスだったが、小林君と伊藤さんとはまた同じクラスだった。
僕たちの担任である渥美先生は新しく赴任してきた人で、担当科目は数学だ。今までの江口先生、中川先生に比べるとかなり印象は違うが、悪い人ではないように見えた。
今年も江口先生が担当の授業はなかったが、古典は去年に引き続き中川先生だった。
三年生ではすぐに面談があった。
結局僕は、今の成績でぎりぎり何とかなるくらいの国公立を志望校に決めた。
「国公立はどう考えてるんだ? 行ければどこでもいいのか、漠然とでも希望があるのかどっちだ?」
「いえ、そういうのは特に。正直どこでもいいです」
「志望校的にそんな感じだな。それなら国公立はこれからの学力の伸び次第だから具体的な対策はまだいい。今は基礎の再確認と模試で一点でも伸ばせるように勉強しろ」
「はい」
先生は僕の目を見て話す。
「で、どうなんだ勉強は。地味に伸びてきてる科目もあるが、計画はあるのか?」
「いやまあ、それなりに……」
僕は使っている参考書や問題集を先生に見せた。
「まあ、特にいうことはないな。実際のところ玉木、国公立は絶対行きたいのか?」
「えーっとまあ、目標として掲げてはいますけどそこまで行きたいってわけでは。理由としては学費が安いからってくらいですかね」
「安いって言ってもそれなりの苦労があるわけだからな」
「そうですね」
僕は少し困ったふうに笑みを浮かべた。先生は僕の作った表情を意に介さずに続けた。
「親はどう言ってる?」
「いえ特には、何でもいいみたいな感じですね」
「そうか。なら一応国公立は意識していく方針でいいんだな?」
「はい」
「わかった。出来る限りこっちもサポートするから、他の先生とかも頼って分からないところは積極的につぶしていけ」
「わかりました」
「じゃあまあ、こんなところだな」
先生は僕の模試の成績を片付け始めた。
「たいへんそうですね」
「ん?」
「いや、忙しそうだなと思って」
「それは忙しいさ。何で来てすぐ三年をもたなきゃいけないのかって今でも思ってる」
先生は笑い飛ばすような態度で泣き言をもらした。
「ですね」
僕もつられて少し笑う。
「まあでも、そんなのお前らに言っても仕方ないからな。今はおとなしく勉強だけやってくれ」
「はい、がんばります」
先生はいつもこの調子で話す。
何も包み隠さず、自分の弱さも不満もぶちまけながら、それでもやることはきっちりとやっていた。来てすぐ三年の担任は大変だろう。
だけどこの裏表のなさは、信用に値すると思った。
――――登場人物――――
玉木悠太 僕
中学時代はバレーボール部。
父親と兄との三人暮らし。
永野司 かさ
小学校からの付き合い。
僕をまこと呼ぶ。
京都に住むために勉強をしているらしい。
前川倖成 倖成くん
中学時代は、僕と同じくバレーボール部。
二年間クラスも同じでよく話をした。
僕をまこと呼ぶ。
高校でもバレーボール部に入った。
今井俊 今井くん
僕と似た空気を感じる。
親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。
曜子という人ともめたらしい。
一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。
それからは、距離が開いてしまった。
小林正樹 小林くん
昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。
勉強に打ち込んでおり、部活もしている。
高校一年生のときは室長もしていた。
修学旅行のときから、僕をたまちゃんと呼ぶようになった。
田原友貴 友貴
中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。
部活をやっている。坊主頭。
修学旅行のとき、急に僕のことをたまちゃんと呼んできた。
森島さん
今井君のことを教えてくれた人。
冷静な人のようだが、意図はよくわからない。
曜子という人の友人。
伊藤恵 伊藤さん
吹奏楽部。フルートが上手らしい。
わかりやすい感情表現をする。
気さくな人でクラスの中心的存在。
随分と、僕を気遣ってくれていた。
何事も一生懸命に取り組むことができる。
江口先生
高校一年生のときの担任。担当科目は国語。
役者めいた話し方をする人。
表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。
中川先生
高校二年生のときの担任。担当科目は国語。
やさしい笑顔が特徴。
いろいろと見抜かれている気がする。
あのやさしい笑顔は、葛藤の末に得たもののように見える。
人にやさしくあれる強さをもっている。
渥美先生
高校三年生のときの担任。担当科目は数学。
弱さを隠さない人。
だからこそ、信用できる。




