十節 冬休み
修学旅行が終わり、周りのみんなは受験に向けての意識が強くなっていた。心なしか先生たちも、授業に気合いを入れているように思える。
修学旅行が終わってからも、僕をたまちゃんと呼び続ける人は多かった。
そして、たまちゃんという気の抜ける呼び方のせいか、僕は話しかけられることが少し増えた。
クラスの人が僕に抱いていたイメージが、変化している気がする。それほどに、あだ名の効果は大きいのだと知った。
そんな平凡な毎日を過ごしながらも時間は進み、今年最後の模試と定期テストが終わった。そこまでの変化はないが、悪くはない点数が取れた。
そして冬休みになり、僕にとっての毎年の楽しみがやってきた。
いつも通りスーパーに集合した僕たちは、くだらないやり取りをしながら買い物を済ませて、倖成君の家に行った。
年々ひどくなるケーキを囲みながら、僕たちは楽しく笑い合う。
ケーキを食べ進めていると、かさが急に立ち上がった。
「ねえ、僕が言うなって思うかもしないけどさ、年頃の男が三人もいるのに何で誰も浮ついた話とかないわけ?」
「いやだって、僕はそもそも好きな人いないし。倖成くんはいる?」
かさの言葉に僕は答えた。
「いや、僕も……まあいないね」
倖成君はどこか引っかかるような答え方をした。
昔はいた、とかだろうか。
「でも周りには付き合ってる人とふつうにいるでしょ?」
かさは立ったまま、なおも話を続けた。僕はかさを見上げながら答える。
「そりゃあ周りにはいるけどさ。というか僕は、付き合う意味もあまりわからないんだよね。恋人がいたら偉いみたいな風潮あるけど、そんな自分の飾り付けのために人と付き合うのは、どうかなって思うし」
「まあそれはそうだけどさ。でも僕は、高校生活ってもっと劇的だと思ってたんだよ。彼女とかもできて、毎日が楽しくて、ばかなこともたくさんして、もっといろんなことがあって、みたいな。なのにさ、中学のころとほとんど大差ないんだもん。全然思い描いていた高校生活と違って、正直悲しいわ」
「まだ一年くらいあるし、それ終わったら夢のキャンパスライフが待ってるよ」
倖成君が、やっと座ったかさに向かって言った。
「あー、そうだった。よし、僕もう大学生になったら遊び倒すわ。今度こそ遊びまくってやるぞ!」
「うん。受験を乗り越えて、薔薇色のキャンパスライフを手に入れよう」
倖成君は満面の笑みでガッツポーズをとっていた。いちいち大げさな二人を見ながら、僕はふと思った。
来年の今頃は、受験で誕生日会どころではなくなっているのだろうか。
だけど、受験さえ終われば、僕たちはまた時間ができる。
だから来年だけ、少し我慢しよう。
これからの人生をよりよくするために。
そう思ったところで、いつも言いそびれそうになっている言葉を思い出した。
そうだ、すっかり忘れていた。
「倖成くん、誕生日おめでとう」
「そうだった、おめでとう。倖成くん」
僕につられてかさも言葉をおくった。
「おう、ありがとうありがとう」
倖成君は笑いながら、やけに偉そうな態度で言った。
照れかくしのための振舞いは、さすがにもう僕たちにはお見通しだ。
――――登場人物――――
玉木悠太 僕
中学時代はバレーボール部。
父親と兄との三人暮らし。
永野司 かさ
小学校からの付き合い。
僕をまこと呼ぶ。
京都に住むために勉強をしているらしい。
前川倖成 倖成くん
中学時代は、僕と同じくバレーボール部。
二年間クラスも同じでよく話をした。
僕をまこと呼ぶ。
高校でもバレーボール部に入った。
今井俊 今井くん
僕と似た空気を感じる。
親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。
曜子という人ともめたらしい。
一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。
それからは、距離が開いてしまった。
小林正樹 小林くん
昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。
勉強に打ち込んでおり、部活もしている。
高校一年生のときは室長もしていた。
修学旅行のときから、僕をたまちゃんと呼ぶようになった。
田原友貴 友貴
中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。
部活をやっている。坊主頭。
修学旅行のとき、急に僕のことをたまちゃんと呼んできた。
森島さん
今井君のことを教えてくれた人。
冷静な人のようだが、意図はよくわからない。
曜子という人の友人。
伊藤恵 伊藤さん
吹奏楽部。フルートが上手らしい。
わかりやすい感情表現をする。
気さくな人でクラスの中心的存在。
随分と、僕を気遣ってくれていた。
江口先生
高校一年生のときの担任。担当科目は国語。
役者めいた話し方をする人。
表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。
中川先生
高校二年生のときの担任。担当科目は国語。
やさしい笑顔が特徴。
いろいろと見抜かれている気がする。




