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初恋の後悔  作者: お風呂かこ
二章 高校生編 二年生
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七節 修学旅行前

 文化祭が終わると、すぐに修学旅行の話が始まった。行き先は沖縄。男女に別れて、班決めをした。

 僕は、小林君と二年から知り合った二人の、四人班になった。


 それからも修学旅行の計画は進み、僕たちは班別の自由行動の日に、ダイビングをすることになった。

 小林君ともう一人の子がなかば強引に決めたようなものだったが、いざ決まると僕も少し楽しみになった。

 その後は水族館に行ってから、ホテルまで戻る計画だ。


 ただ、ダイビングは別途料金がかかるとのことで、僕は親に言うかどうか迷っていた。

 別にこのくらいの金額なら、もらわなくてもどうにかできるのだが、一応言ったほうがいいだろうか。

 すでにお小遣いをもらっている手前、自分の都合でこれ以上の負担をかけていいのか少し迷う。

 そんなことを考えながら、僕は計画票を先生に出しに行った。


「お、ダイビング。いいですねえ」


 先生は目を通すと、わかりやすく上機嫌に笑った。


「まあ、せっかくなので」

「はい、せっかくですもんね。思いっきり楽しんじゃってください」

「はい」


 僕もつられて少し笑った。


「代表は玉木くんですね。朝食後と夕食後に簡単な連絡事項をお伝えするので、班のみんなに伝達をお願いします」

「はい、わかりました」


 僕は、もしかしたら、去年のようになってしまうのではないかと危惧してた。伊藤さんが、僕のうわさを流してしまうのではないかと疑っていた。

 だけど、そんなことはまったくなかった。むしろ伊藤さんは、あんなことをした僕を避けることもしなかった。

 もちろん、積極的に話しかけてくることはなくなったけれど、露骨に避けることも嫌みな視線を向けてくることもなかった。


 勝手に決めつけて、勝手に警戒していた自分が嫌になる。

 それと同時に、伊藤さんにあれほど気を遣わせておいて、自分はのんきに修学旅行を楽しむのは気が引けた。

 本当に修学旅行を楽しむつもりなら、謝るくらいはしておくのが筋だと思った。

 伊藤さんのためにも、自分のためにも。



 その日僕は、父にダイビングのことを話した。


「というわけなんだけど」

「わかった。じゃあ用意しておく」

「ああ、その……」


 僕はいまさら、自分で出すと言おうとしていた。だがこのときはめずらしく、僕の言葉はさえぎられた。


「お金のことはいいから、楽しんでおいで」


 父は困ったように笑っていた。久しぶりに、ちゃんと顔を見た気がした。


「……ありがとう」

「行き先は沖縄だっけ?」

「そう」

「そっか。忘れ物ないようにね」

「うん」


 こんなふうに、自分の都合で何かをお願いするのは、ほんとうに久しぶりだった。

 その記憶は、昔過ぎてもう思い出せないけれど、今日は新しい記憶ができた。



 修学旅行前日の放課後、僕はついに伊藤さんに話しかけた。伊藤さんは前の席だから、話しかけること自体に苦労はない。しかしだからこそ、いつでもいいと先延ばしにしてぎりぎりになってしまった。


「ねえ、伊藤さん」

「ん、なに?」


 伊藤さんは鞄を持ったまま、きわめて平静に返事をした。


「その、この前はごめん。謝るのが遅くなったこともふくめて、ごめん」

「え、なんのこと?」


 伊藤さんはとぼけるように言った。しかしどう見ても、その笑顔は嘘だ。


「いや、だから文化祭のときの……」

「それよりさ、明日から楽しみだね。もう準備した?」


 伊藤さんは気まずそうな表情を浮かべると、強引に話を変えた。


「え、あ、うん。したけど」

「今日は部活もないし、はやく帰って明日に備えないとね。じゃあね玉木くん、また明日」


 そう言うと、伊藤さんは教室を出て行った。

 怒っているわけでも、からかっているわけでもないと思う。あれは、おそらく困惑。僕には、伊藤さんが困っているように見えた。

 一応は謝ったけれど、これでよかったのだろうか。それほど気にしているようではなさそうだったけれど。だけど、僕にこれ以上はできそうもない。

 これで伊藤さんは、思う存分修学旅行を楽しめるのだろうか。


――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。

 父親と兄との三人暮らし。


永野司ながのつかさ かさ

 小学校からの付き合い。

 僕をまこと呼ぶ。

 京都に住むために勉強をしているらしい。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。

 高校でもバレーボール部に入った。


今井俊いまいしゅん 今井くん

 僕と似た空気を感じる。

 親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。

 曜子という人ともめたらしい。

 一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。

 それからは、距離が開いてしまった。


小林正樹こばやしまさき 小林くん

 昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。

 勉強に打ち込んでおり、部活もしている。

 高校一年生のときは室長もしていた。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。

 部活をやっている。坊主頭。


森島もりしまさん

 今井君のことを教えてくれた人。

 冷静な人のようだが、意図はよくわからない。

 曜子という人の友人。


伊藤恵いとうめぐみ 伊藤さん

 吹奏楽部。フルートが上手らしい。

 わかりやすい感情表現をする。

 気さくな人でクラスの中心的存在。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

 表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。


中川なかがわ先生

 高校二年生のときの担任。担当科目は国語。

 やさしい笑顔が特徴。

 いろいろと見抜かれている気がする。


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