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初恋の後悔  作者: お風呂かこ
二章 高校生編 二年生
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六節 文化祭

 昨日の伊藤さんの表情を見て僕は、楽しい雰囲気に水を差してしまったことに気付いた。

 もっと言葉を選ぶべきだっただろうか。それに、今ではなくてもよかった。

 せめて、文化祭が終わってからにするべきだった。もう少しだけ、我慢したらよかった。


 いや、そもそもあんな言葉は伝えるべきではなかったのだろう。もっと、言葉以外のところから伝えることもできたはずなのに。頑張って、わざとらしく振舞えばよかった。

 今までのように雑に流して、向き合わなければよかった。



 文化祭一日目、僕は学校に休みの連絡を入れた。今日は舞台発表だから、べつに行かなくても問題はない。それに、よく知らない人だけの舞台を見て、素直に楽しめる気分でもない。

 映画でも見に行こう。そう思って電車に乗ると、倖成君がいた。


「あれ、まこなんで私服なの?」

「今日はさぼるから」

「行かないの?」

「うん。どうせ知ってる人いないし」

「そうなんだ。え、じゃあどこ行くの?」


「さあ、まあてきとうにふらふらするよ。一応映画でも行こうかなと思ってるけど」

「……そっか」

「倖成くんもくる?」

「うーん、どうしよう。今日部活ないし、僕もたいして知ってる人いないしで、実はあまり行きたくなかったんだよね」


 倖成君はめずらしく悩んでいた。部活の先輩とは、あまり関係が深いわけではないのだろうか。


「どうする?」

「……じゃあ僕も映画行こうかな」


 僕たちは、映画館のある大型商業施設の中に入った。倖成君は服を買って制服から着替えた。

 本来、必要ではなかったはずの出費をさせてしまった。僕は自分に付き合わせたことを、少し申し訳なく思った。


「ごめん、高かった?」

「ぜんぜん。まあ服も買いたかったから」

「そっか、じゃあ行こうか」


 僕たちは映画館に向かってエスカレーターをのぼる。


「そういやさ、補導とかされるのかな」


 倖成君が思い出したかのように言った。


「さあ? 僕さぼるの初めてだから知らない。でも制服着てないし、堂々としてたら大丈夫じゃない?」

「それもそうか」

「あ、学校にはちゃんと連絡入れた? 欠席のこと言っておかないと、面倒なことになるよ」

「さっき服買ったときに言ったから大丈夫。ついでに親にもさぼるって言っといた」


 意外と抜け目ない。こういうところはしっかりしている倖成君だった。

 僕たちは上映予定の映画に目を通す。


「何がいい?」


 特にめぼしいものがなかった僕は、倖成君に希望を聞いた。


「なんでもいいよ」

「うーん……じゃあ、これでもいい?」


 めぼしいものではないけれど、名前を知っている映画がひとつだけあった。


「『絶命するほどの恋』……って、まここれ見たいの?」


 倖成君は驚き交じりに尋ねてくる。


「いやなんか、それだけ名前知ってるから」

「前すごい流行ってたからね。というかまだやってるんだ」

「見たことあった? 別のにする?」

「見たことはないよ。僕はなんでもいいって言ったし、まこ見たいならこれにしようか」

「あー、うん」


 そこまで見たいというわけでもないけれど、伊藤さんのことが、少し頭をよぎった。伊藤さんは、この映画をおもしろかったと言っていた。

 これを見ることが罪滅ぼしになるなんてことは思わないけれど、僕は少しでも伊藤さんのことを理解しようと思った。

 昨日のあの言い方は、よくなかった気もする。


 僕たちは券を買い、施設の奥に進んだ。映画を見るのなんていつぶりだろうか。たしか、かさと一緒に行ったのが最後だから小学六年生以来だ。


 席に座りしばらくすると周りが暗くなり、映画が始まった。音がとても大きい。

 このやたらと大きい音は、記憶の中の思い出と同じだった。


 映画は純粋な恋愛もので、今のところコメディ色もほとんどないようにみえる。主人公の女の人が、昔好きだった男の人と偶然再会して、心惹かれていくといった内容のようだ。

 こういう話なら、倖成君と来るべきではなかっただろうか。そう思い隣に目をやると、スクリーンの光に照らされる倖成君の寝顔があった。

 もう寝たのか……と少し思った。

 だけどきっと、倖成君は毎日の部活で疲れが溜まっているのだろう。だから、今日のこの時間くらいは、休ませてあげたいと思った。

 ちゃんと頑張っていて、ほんとうにすごい。


 僕は椅子に深く座りなおし、おとなしく映画を見た。


 序盤から積極的な姿勢をとっていた主人公だったが、あくまで友だちとしての認識しかしていない男の人とで、ずっとすれ違っていた。恋の駆け引きというよりは、主人公の一方的な空回りのように見える。

 それでもめげずに、主人公は試行錯誤を繰り返した。


 主人公は、どうしてここまで積極的なのだろう。好きになった明確な理由がなくても、ここまで行動できるものなのだろうか。本当に昔好きだったという理由だけなのだろうか。

 そもそもどうして昔好きだったのか、見ている僕にはまだ明かされていない。

 男の人は、途中から主人公の好意に気付いたようで、すごく気まずそうにしていた。なぜなら、この男の人にはもう付き合っている人がいるからだ。


 結局、主人公がどうして昔なじみの男の人を好きだったかの明確な理由は、最後まで明かされることはなかった。最後の告白の台詞で、だんだん惹かれていったと伝えたくらいだろうか。その告白も、あえなく終わってしまったが。

 だけど振られた主人公は、思い切り泣いてはいたけれど、心から笑っていたように見えた。やりきったとでも言いたげな表情を浮かべていた。


 こんなふうに積極的になることが好きだというなら、やっぱり僕は、誰かを好きになったことがないのかもしれない。一個人に対して、独占欲なんて抱いたことはないわけだし。

 結局好きになるというのは、どういうことなのだろう。好きになることに、理由などないのだろうか。

 知らないうちに、好きになっているものなのだろうか。

 そんなことを考えていると、周りが明るくなった。


「あれ、終わったの?」

「うん、よく寝てたね」

「最初に出てきた女の人しか見てないんだけど。おもしろかった?」

「けっこうおもしろかったよ。よくわからないところもあったけど、主人公がすごいがんばってた」

「ふーん、まこがそういうなら僕ももうちょっとだけ見たらよかったな」


 倖成君は、寝起きのさえない顔のままゆっくり笑った。


 僕たちは商業施設内にあった、ファストフード店に行きご飯を食べた。

 疲れをいやして元気になった倖成君が、ゲームセンターに行こうと言ったので、食後はいろいろゲームをして遊んだ。


 こんなふうに倖成君とゆっくり遊ぶのは久しぶりだった。

 今日はすごく楽しかった。



 文化祭二日目、校内発表。

 さすがに今日はさぼるわけにはいかないので、しぶしぶ学校に行った。小林君と友貴には、昨日休んだことを言及されたが、雑にごまかした。

 そうして伊藤さんとは気まずい空気になりながらも、なんとか自分の役割はこなした。


 当然ながら伊藤さんから話しかけられることはなく、僕も話しかけにはいかなかった。

――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。

 父親と兄との三人暮らし。


永野司ながのつかさ かさ

 小学校からの付き合い。

 僕をまこと呼ぶ。

 京都に住むために勉強をしているらしい。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。

 高校でもバレーボール部に入った。


今井俊いまいしゅん 今井くん

 僕と似た空気を感じる。

 親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。

 曜子という人ともめたらしい。

 一年生の文化祭のときに、曜子という人ともめた話を聞いた。

 それからは、距離が開いてしまった。


小林正樹こばやしまさき 小林くん

 昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。

 勉強に打ち込んでおり、部活もしている。

 高校一年生のときは室長もしていた。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。

 部活をやっている。坊主頭。


森島もりしまさん

 今井君のことを教えてくれた人。

 冷静な人のようだが、意図はよくわからない。

 曜子という人の友人。


伊藤恵いとうめぐみ 伊藤さん

 吹奏楽部。フルートが上手らしい。

 わかりやすい感情表現をする。

 気さくな人でクラスの中心的存在。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

 表面を繕って核を守る振舞いが、僕に少し似ている。


中川なかがわ先生

 高校二年生のときの担任。担当科目は国語。

 やさしい笑顔が特徴。

 いろいろと見抜かれている気がする。


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