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導入
「ねえ、見てて」
前の席の女の子は長い髪を揺らしながら振り返り、僕の机を軽くたたいた。僕が目をやると、その人は唾液で風船を膨らませ始めた。
「ほあー」
きれいとはいいがたいその行為を、僕は少しの不快感を抱きながら見ていた。そして、唇を覆うくらい大きく膨らませたところではじけた。
「ね、おおきかったでしょ?」
「まあおおきかったけど」
「でしょー」
そう言うとその女の子は、満足げに立ち上がって教室を出て行った。
なんだあの人……。
これは、僕の人生のほんの一端。
好きとは何かを知る、長い旅の始まり。