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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第三章 歯車男と夢の穴

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泡沫の夢

「けほっ、けほっ…………二人共無事か!?」


「妾は何とか平気なのじゃ……」


「ゴレミも大丈夫デス……まったく、マスターは何をやってるデスか!?」


 とんでもない大爆発が頭上を過ぎ去って、しばし。恐る恐る身を起こしながら問う俺に、すぐ側からゴレミとローズの声が聞こえてくる。そのまま俺が体を起こすと、二人もまた起き上がってこちらに近づいてきた。


「いやー、悪い悪い。ってか、これ俺が悪いのか?」


「むぐっ!? わ、妾だって、まさかこれほど大爆発するとは思ってなかったのじゃ! 知っておったらこんなことしたりしないのじゃ!」


「当たり前デス! 流石にこれに巻き込まれたら、ゴレミでも耐えられないデス!」


「だよなぁ……」


 言いながら、俺は改めて広間の中央に目を向ける。するとそこには見るに堪えない状態になったオブシダンタートルの巨体があり……しかしそれもすぐに霧となって消えていく。


「勝った、か……」


「そうじゃな。強敵じゃったが、それでも妾達の勝ちなのじゃ」


「フフーン! ゴレミ達に掛かれば、超デカ亀なんて敵じゃないのデス!」


「ははは、そうだな。さて、それじゃ……どうすりゃいいんだ?」


 勝利の余韻に浸りつつも、俺は周囲を見回す。だが相変わらず広間は閉鎖空間のままで、何処かに繋がる通路が出現する様子はない。どうやらゴレミの言う通り、倒したら出られるというわけではないようだ。


「確かゴレミが魔石を使ってどうにかすると言っておったはずなのじゃ」


「そうデス! じゃあゴレミはそっちの作業にかかるデスから、マスター達は鉱石の入った籠を持って、えーっと……あの辺に行ってて欲しいデス!」


「ん、了解」


 その言葉に頷くと、俺は壁際に転がっていた籠の方に歩いて行く。爆発の衝撃で散らばってしまった鉱石をもう一度集めて籠に入れると、ゴレミが指差した壁の側へと運んでいく。


「ふぅ、ふぅ……おっも…………」


「頑張れ頑張れ! あと少しなのじゃー!」


「ふぅ、ふぅ、ふぅぅ…………こ、この辺でいい、か…………?」


「お疲れ様デス、マスター」


 やっとの事で運び終えると、そこには既にゴレミが待っていた。なら手伝ってくれよと言いたかったが、ゴレミはゴレミにしかできないことを任せているし、こんな糞重い物をローズに運ばせるのは物理的に不可能だ。


 そして俺がそれだけ苦労して運んできた鉱石満載の籠を、ゴレミは軽々と壁際に寄せてしまう。そのパワー格差に一瞬目眩のようなものを覚えた俺に、ゴレミが不思議そうに首を傾げる。


「マスター、どうしたデス?」


「あー、いや、何でもない」


「クルトよ、ゴーレムと腕力を競うなど、馬と足の速さを競うようなものじゃぞ?」


「そりゃわかってるけどさ……で、ゴレミ。どうだ? 何とかなりそうか?」


「モチのロンデス!」


 そう言って笑顔を見せるゴレミの手の中には、オブシダンタートルの魔石と思われる青く透き通った石が握られている。あれだけの巨体だったにも関わらず、魔石は指先でつまめるほどの大きさしかない。


「あんなにでかくて強かったのに、魔石はその程度の大きさなんだな。俺としてはもっとこう、抱えるくらいのサイズがあってもいいと思うんだが……」


「そんなでかい魔石なぞ、ドラゴンでも倒さねば手に入らぬのじゃ! というか、もしオブシダンタートルの魔石がそのサイズじゃったら、妾達など鼻息一つで吹き飛ばされて終わりだったのじゃ」


 俺の言葉に、ローズが呆れた顔で言う。魔石の大きさは、その魔物が扱える力の総量に比例すると言われている。であれば幾ら巨体であったとて、まだまだ駆け出しの俺達が倒せる程度の魔物の魔石がそんなに大きいはずがないし、それほど大きな魔石を生じるような魔物が倒せるはずがないというのは道理だ。


「そうデスね。それにそんな大きな魔石だったら、ゴレミではどうしようもなかったデス。さ、これで……」


 と、そんな話をしている間にも、ゴレミは何かをやっていたらしい。その手の中でチカチカと明滅している魔石を土壁に押し当てると、そのすぐ隣の何もなかったところに小さな穴が開き、その奥に通路が見えた。


「やったデス! 大成功デス!」


「おお、スゲーな! 流石はゴレミ!」


「凄いのじゃ! 大したものなのじゃ!」


「ゴレミにかかれば、ざっとこんなものなのデス!」


 賞賛する俺とローズに、ゴレミが得意げに胸を反らす。だが次の瞬間、広間に再び嫌なアラームが鳴り響く。


ビーッ! ビーッ!


『侵入者の排除に失敗しました。「くらやみのしずく」の追加投入を実行します』


 その不穏な台詞に釣られ、俺は広間の天井を見る。するとそこから見覚えのある黒い雫がぼたりと垂れ落ち、さっき倒したばかりのでかい亀と感動の再会を強制させられる。


「クァァァァァァァァ!」


「チッ、またかよ……って、おい!?」


 しかも、黒い雫はそれだけで止まらない。二滴三滴と零れ続け、その度に広間にオブシダンタートルが増えていく。


「「「クァァァァァァァァ!!!」」」


「馬鹿じゃねーの!? 何で閉鎖空間にこんなでかい魔物をどんどん追加してくんだよ!?」


 戦略としては実に正しい。だがだからこそ俺達にとっては最悪だ。おまけに数が増えるせいでオブシダンタートル同士が押し合い、こっちに近づいてきているのがマズい。このままだと程なくして、この壁際も奴らの戦闘感知範囲に入ってしまうことだろう。


「ヤバいのじゃクルト! 押されたオブシダンタートルが、どんどんこっちに近づいてきてるのじゃ!」


「急げゴレミ! 早く早く!」


「そんなこと言われても、これ以上は無理なのデス!」


 壁の穴は、少しずつ大きく広がっている。それがある程度になったところで、俺はまずローズを抱え上げて穴の中に放り込んだ。


「ふぎゃっ!? クルトよ、何をするのじゃ!?」


「全員通れる大きさまでなんて待ってられねーだろ! 順番だ順番! じゃあ次は……ゴレミか?」


「いえ、マスターが先に行って欲しいデス。魔石から手を離すと、すぐに穴が閉じちゃうのデス」


「そうか、わかった。じゃあ…………よし、行くぞ!」


 もう少し穴が広がったところで、今度は俺が頭から穴に突っ込んでいく。フギギと唸りながら体を捻り、伸ばした手をローズに引っ張られることで、漸く俺の体が穴の向こうに抜け落ちた。


「ぐへっ! ぬ、抜けた……ゴレミ、来い!」


「はいデス!」


 すぐにその場で立ち上がると、俺はゴレミに呼びかける。するとすぐにゴレミが壁から手を離し、穴に飛び込んできたのだが……


「ウギャー!? ゴレミの巨乳が引っかかったデス!?」


「引っかかる要素一個もねーよ! どう考えても籠じゃねーか!」


 ゴレミの体は俺より小さい。だがゴレミの背負っている籠はでかい。考えるまでもなく、引っかかってるのは鉱石の詰まった籠だ。


「どうするのじゃクルト!? 一端ゴレミを向こうに押し戻して――」


「いや、その必要はねーよ」


 穴の向こうから聞こえてくるドスドスという音に、俺は腰から剣を抜いて構え、一閃。するとゴレミの体がスポンとこちらに抜け落ちて、獲物を食い損ねたオブシダンタートルの巨大な目が、不満げにこちらを睨んでいるのが見えた。


 どうやら割とギリギリだったようだが……だが勝負は決した。「クァァ」という間抜けな鳴き声を残し、穴は閉じて土壁となる。


「ふーっ、何とかなったな」


「マスター……」


 斬ったのは、ゴレミが背負っていた籠の肩紐。目がくらむほどの大金になるはずだったそれは、もう手の届かない場所にある。それを理解しているゴレミが悲しそうな顔で俺を見てきたが、俺は小さく笑ってその頭を撫でる。


「気にすんな。所詮は夢に幻……お前が無事なら、そんなもんなくなったって痛くも痒くもねーよ」


「マスター……っ! やっぱりゴレミは、全次元一の幸せゴーレムなのデス!」


「一気にランク上がったなぁ……んじゃ、帰るか」


「はいデス!」


「ふふふ、実に楽しい夢だったのじゃ!」


 夢幻の財は泡沫に消え、残ったのは仲間の笑顔だけ。だがそれより大事なお宝なんて、俺には何も思いつかない。こうして俺達の初めての「夢幻坑道」は終わりを告げ、俺達は無事に<火吹き山(マウントマキア)>を後にするのだった。

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