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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第三章 歯車男と夢の穴

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爆発の理由

「えっ、ば、爆発したの……!?」


 探索者ギルドの受付。いつもは余裕たっぷりの艶っぽい笑みを崩さないカエラさんが、俺の報告を聞いて珍しく動揺した声を上げる。


「はい。酷い目に遭いました……てか、その感じだと、普通は爆発しないんですか?」


「爆発は……しないわね…………」


「あー、そうっすか。多分そうだとは思いましたけど」


 甲羅を刺激したら爆発するなんて致命的な情報が、「基本情報」に含まれていないのはあり得ない。カエラさんに「こいつらは死んでもいい」と思われるほど嫌われていたなら話は別だが、いくら何でもそれはないだろうしな。


 でも、そうか。やっぱり爆発はしないのか……


「えっと、じゃあ何で爆発したんですかね?」


「……ごめんなさい。お姉さん、大人の関係についてはとーっても詳しいんだけど、流石にそれはわからないわね」


「大人の関係……イテェ!?」


 悩むカエラさんの深い胸元に無意識に視線を向けてしまった瞬間、俺の臑にダブルで激痛が走る。すぐに犯人達の方を振り向いたが、道に捨てられた紙くずを見るような目をしていたので、俺は理不尽を噛みしめながら無言で視線を戻す。するとカエラさんが楽しげに笑ってから話を続けた。


「フフッ……不測の事態だから教えてしまうけれど、本来のブラックタートルの倒し方は、その甲羅に魔法を当てることなの。そうすると甲羅が魔法を吸収して、それに合わせた属性を持つのよ」


「甲羅が魔法を吸収して、属性を? それって強くなるんじゃないですか?」


 ガーベラ様の魔法を吸収して使ってきたレインボーブックバタフライの事を思い出し、俺は思わず眉をひそめる。だがそんな俺の言葉をローズが否定する。


「いやいや、そうとも限らぬぞ? 属性がつくということは、明確な対抗手段が生まれるということじゃからな」


「ローズちゃんの言うとおりね。例えば火属性になると、フレアリザードみたいに水をかけると一気に甲羅の強度が下がるわ。水属性なら乾燥させれば、風属性だと同じく風属性を与え続けることで風化して脆くなるし……土属性だけは例外でより硬くなってしまうのだけれど、その分割れやすくなるから、強力な物理攻撃があるならこれが一番倒しやすいわね。


 そんな感じで、まず甲羅に属性を付与し、それに対応した手段で甲羅を割るっていうのが、ブラックタートルの倒し方なの。だから今回の場合も、クルト君の魔法の属性を吸収したんだと思うけれど……」


「俺の属性……え、<歯車>のスキルって、爆発属性があるんですか?」


「それはちょっと、お姉さんにもわからないわねぇ」


 驚いて問う俺に、しかしカエラさんが困った表情になる。まあそうだよな。歯車は投げるものであって、爆発するものじゃないしなぁ。最初にリエルさんが教えてくれなかったってことは、以前にいた<歯車>スキルの持ち主も、誰も爆発なんてさせなかったんだろうし。


「の、のぅクルト。ちょっとよいか?」


 と、俺がそんなことを考えていると、ローズが俺の服の袖を引っ張ってくる。


「ん? 何だよ?」


「その……妾もクルトの歯車を受け入れたわけじゃが、ひょっとして妾も爆発したりせんじゃろうか? それは怖いのじゃ。想像するだけで泣いてしまいそうなのじゃ!」


「大丈夫デスよローズ。その時はゴレミも一緒に爆発するのデス。リア充は爆発する運命にあるのデス!」


「何も大丈夫ではないのじゃ!? 嫌じゃ! 妾は爆発したくないのじゃ!」


「いやいや落ち着けって! 流石にそんなことは…………」


 ない、と断言は出来ない。微妙に顔を引きつらせる俺にローズが不安げな目を向けてきて、そんな俺達を見たカエラさんがアドバイスをしてくれる。


「えーっと、そうねぇ……不安なら、詳しい人に話を聞いてみるのはどうかしら?」


「詳しい人、ですか? と言っても、俺魔法に詳しい人なんて全然知らないんですけど」


「クルト君の歯車は、魔法というよりは魔導具に近いんじゃないかしら? だから――」





「……なるほど。それで僕のところに話を聞きに来た、と」


「まあ、はい。そういう感じです。すみません、忙しいところに……」


 その日の午後。俺達は揃ってハーマンさんの家に話を聞きに来ていた。相変わらずごちゃつく家の中に苦労しながら入ると、ハーマンさんが出してくれた妙にどす黒いお茶を飲みながら話を続ける。


 ちなみに、見た目は泥水みたいなお茶だったが、飲んでみたら割と美味かった。これ一体どんなお茶なんだろうな?


「ははは、別にいいですよ。僕もクルトさんに話したいことがありましたし。でもまずはクルトさんの疑問の方から考えましょうか」


 恐縮する俺に、ハーマンさんはそう言って小さく笑ってから、もじゃもじゃの頭に手を突っ込んで揺らす。


「この一〇日余り、僕の方でも<歯車の剣>を調べて<歯車>というスキルのことを研究していました。そこでわかったことからの推論になりますが……ブラックタートルの甲羅が爆発したのは、おそらく回らなかったからだと思います」


「ま、回らなかったから……ですか?」


 全く予想していなかった答えに、俺は思わず怪訝な表情を浮かべてしまう。しかしハーマンさんはいたって真面目な表情のまま更に話を続けてくる。


「そうです。ブラックタートルの甲羅は、食らった魔法に応じて属性を変えるでしょう? それってつまり、その属性を維持し続けるための魔力が、ずっと送られ続けているということなんです。


 で、それをブラックタートル自身は止めることができない。じゃなかったら不利になった時点で魔力を止めて、甲羅を元の状態に戻すはずですからね」


「なるほど、それは確かに」


「で、今回の問題ですけど、ブラックタートルがクルトさんの<歯車>のスキルを模倣したとして……クルトさんが自分の生みだした歯車に魔力を送ると、どうなりますか?」


「どうって、そりゃ回る……あっ!?」


「そうです! 魔力を送られると、歯車は回るんです。でもブラックタートルの甲羅は回らなかった……というか、回せなかった。縦だか横だかはわかりませんけど、とにかくあんな巨体を回すほどの力はなかったんでしょう。


 なので、消費されることなく甲羅に魔力が溜まり続け、しかし巨体を回すほどの力を溜めきることはできず、その途中で限界を迎えて……ボンッ!」


 パッと手のひらを開いて、ハーマンさんが爆発のジェスチャーをする。そこで漸く俺の中で合点がいき、隣ではゴレミやローズも納得の表情を見せている。


「そういうことじゃったのか! ということは、回せない状態の歯車が体の中に止まっていない限りは、爆発する心配はないということじゃな?」


「ええ、そうですね。魔力の流れがせき止められて詰まるような状況でなければ、爆発はしないと思いますよ」


「わかったのじゃ! やったのじゃ! これなら妾は自爆せずにすみそうなのじゃ!


「ゴレミも安心安全デス! 生きてるだけで丸儲けデス!」


「そうだな。俺もいきなり手が爆発したりする心配はなさそうで、安心したよ。ありがとうございます、ハーマンさん。悩みが一つ解決しました」


「いえいえ、お役に立てたなら何よりです」


 はしゃぐ二人と礼を言う俺に、ハーマンさんが軽く笑顔を笑顔を浮かべてそう言ってくれる。そんなハーマンさんに、今度は俺が声をかけた。


「じゃ、これで俺の方はいいとして……さっき言ってましたけど、ハーマンさんも俺に何か話があったんですか?」


「あ、はい。話したいことというか、ちょっとお願いがありまして……これを使ってみて欲しいんです」


 そう言うと、ハーマンさんは一端席を立ち、背後の木箱から何だかよくわからない金属製の箱みたいなものを取り出し、テーブルに置く。


「これは?」


「フフフ、これはですね……何と『夢幻坑道発見機』です!」


 再び問う俺に、ハーマンさんがドヤ顔でそう宣言した。

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