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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第三章 歯車男と夢の穴

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それは一人か一体か

「さて、それじゃどうするかを話し合うわけだが……」


 他に客がいないとはいえ、店の真ん中で堂々と相談をするのも違うだろうと寄った片隅。「カエラちゃんの紹介なら、茶くらいは出してやろう」と言ってディルクさんが店の奥に行ってしまったため、この場にいるのは俺達だけだ。


 なので気兼ねなくそう会話の口火を切ると、まずはローズがその口を開く。


「妾としては、勧められた装備を迷わず購入するのがよいと思うのじゃ。ここで活動するには必須であるようじゃし、むしろ買わぬという選択肢がないのじゃ!」


「ゴレミもそう思うデス。特にマスターの鎧は汎用装備としても十分な性能があると思うデスし、お金があるときに装備を更新しておくのは正しい判断なのデス」


「そっか。ま、確かに俺もそうは思うけど……ただ、金額がなぁ」


 無限に資金があるのなら、こんなの悩むまでもない。だが金は常に有限であり、特に今俺達が消費しようとしているのは、次に同額貯めようと思えば何年もの時間を必要とするような大金だ。ここで即決できないのが貧乏人の辛いところだろう。


 そんな小市民極まりない俺の態度に、ローズが苦笑して言葉を続ける。


「ははは、妾とて<無限図書館(ノブレス・ノーレッジ)>の第一層で何とか生活しておったのじゃから、その気持ちはわかるのじゃ。じゃが手持ちの半分で装備が揃えられるなら十分ではないかの?」


「? 半分? いや、八割は持っていかれるだろ?」


 ローズの言葉に、俺は眉を潜めて首を傾げる。だがそんな俺の態度にこそ、ローズもまた首を傾げている。


「八割? クルトよ、お主どういう計算をしておるのじゃ?」


「どうって……さっきの説明からすると、一人頭八〇万くらいが予算の目安って感じだったろ? それが三人分で二四〇万で、こっちの手持ちは三〇〇万なんだから、ちょうど八割じゃねーか」


「あー……いや、確かにそうじゃが……」


「あの、マスター? ゴレミには耐熱装備は必要ないデスよ?」


「ん? ……あ、ああ!」


 そう言われて、俺は漸くそこに考えが至る。レインボーブックバタフライに食らわされた強烈な火魔法とかならともかく、確かにたかだか五〇度程度の気温など、石の体には何の影響もない。


「悪い、普通に勘違いしてたわ」


「何を言うか。それこそクルトがゴレミを大事にしておる証拠じゃろ? リーダーが仲間思いで困ることなどないのじゃ」


 フラム様にばれてしまっていたこともあり、ローズには既にゴレミのことを説明してある。その影響か何とも温かい視線を向けられ思わず顔を逸らしてしまった俺に、今度はゴレミが腕を組んでくる。


「そうデス! そういうちょっと抜けてるところも、ごく自然にゴレミを大事にしてくれることも、凄く凄く大好きなのデス! 夜はベッドで運動会なのデス!」


「あーもう、変なこと言ってねーで離れろ! じゃあ、あれだ。パーティ予算の半分で勧められた防具を揃えるってことでいいか?」


「異議なしなのじゃ!」


「ゴレミも賛成デス! フレアリザードにマスターの剣やローズの魔法が通じるかわからないデスから、もしもの為に武器を新調する予算も残しておかないとデスからね」


「あ、そっか。そっちの可能性もあるんだよな」


「確かに火山に住むトカゲには、妾の<火魔法>は通りが悪そうなのじゃ」


「ほれ、茶が入ったぞ」


 そうしてある程度話がまとまったところで、ディルクさんがカップを乗せたトレイを手に店の奥から出てくる。お礼を言って受け取り一口飲むと、薄い緑色をしたお茶はよく冷えており、口の中だけじゃなく頭までスッキリするような感じがした。


「美味いですね、このお茶」


「何だかスースーするのじゃ」


「ははは、だろ? 息子の嫁が趣味で作ってるやつなんだが、考え事をするときにゃコイツが一番なんだよ。


 で、どうだ? 決まったか? 迷ってるなら、別に急がなくてもいいぜ?」


「いえ、決めました。さっき紹介してもらった軽鎧と……」


「妾は腕輪がよさそうだったのじゃ!」


「……ということなんで、それを買おうかと思います。あ、でも、武器とかも見たいんで、他の商品をもう少し見ても?」


「勿論いいぜ! たださっきも言ったが、俺は鍛冶師だからな。兄ちゃんの剣はともかく、そっちの嬢ちゃんの武器は、うちより別の店の方がいいだろうな。


 とまあ、それはそれとして。じゃあ兄ちゃん、ちょっとこっちに来い! 体のサイズを測って軽く調整してやるから、そしたら実際に着て動いてみろ」


「あ、はい」


 言われて、俺はディルクさんに従いさっきの鎧売り場のところに戻る。そこで手にしたメジャーで俺の体のサイズを測ったディルクさんがカチャカチャと鎧に手を加え、渡されたものを身につけていく。


「おお、なかなか似合っておるのじゃ!」


「マスター、格好いいデス!」


「どうだ? まだ軽く合わせただけだから合わねぇところもあるだろうが、それでも違和感とか動きづれぇところがあるなら言ってみろ」


「そうですね……全体的に割と重い? あと動きが固いというか……」


「そりゃお前、あのペラッペラの革鎧と比べりゃ、まともな装備はどれだってそうなるぜ。俺に言わせりゃ前のは布の服に毛が生えたようなもんだったからな。


 だが、剣士をやるならこのくらいは装備できなきゃ話にならねぇぞ。よっぽど合わねぇとかじゃねぇなら、むしろこいつを着て動き回れるくらいには体力と筋力を鍛えろ」


「なるほど、そりゃ確かにそうですね」


 まともな防具が身につけられないほど虚弱なら、そもそも剣士なんてやるもんじゃない。実際このくらいなら二、三日あれば慣れるだろう。


「ふーむ、なら店の裏にちょっとした庭があるから、そこでしばらく体を動かしたりして馴染ませてみろ。そのうえで強く違和感を感じるとかなら、それに合わせた調整するからよ。


 それとついでだ。その剣も調子見てやるから、こっちによこせ」


「ありがとうございます……あ、でも、これ普通の剣じゃないんですけど」


「あん? どういうことだ?」


 首を傾げるディルクさんを前に、俺は一言断ってから剣の力を解放する。するとガシャンと開いた歯車の剣を見て、ディルクさんがあんぐりと口を開いた。


「こりゃあ……魔剣か!? だがこんな…………」


「ふふん、どうです? これぞ俺専用の――」


「こんな弱い魔剣が存在すんのか!?」


「おふっ」


 その一言に、俺の膝がカクッと折れる。実在を疑われるほど弱いって……いやまあ、わかってはいたけれども。


「えっと……これ、そんなに弱いですか?」


「ああ、弱い。魔力で切れ味を強化するにしたって、そもそも大本が弱すぎる。なんでこんなしょぼくれた鉄剣に、こんな複雑な機構を組み入れてんだ? しかも歯車って……」


「ああ、それは俺のスキルが<歯車>だからですね」


「……は? 兄ちゃん剣士なんだろ? ならスキルは<剣術>じゃねぇのか?」


「違います。俺のスキルは<歯車>です」


「はー、それでこの魔剣か。スキルを生かそうって構想なんだろうが……ほー。なあ兄ちゃん、これちょっとよく調べてもいいか?」


「ええ、いいですよ。あ、でも、分解とかは辞めてくださいね。直せないですし、あと俺、今それしか武器がないんで」


「誰に物言ってやがる! 新品よりピッカピカにして返してやるから、心配すんな!」


 そう言って、ディルクさんは俺の剣を持ったまま再び店の奥に入っていってしまった。なので俺はゴレミとローズを引き連れ、店の裏あるという庭に出ると、そこで体を動かしてみる。


「よっ! ほっ!」


「マスター、どんな感じデスか?」


「ああ、悪くねーな。ちょっと振り回される感じはあるけど、これはこれで慣れりゃいけそうだ。それに重い分安定感があるっていうか……」


「今までのが軽すぎたんじゃろうな。妾から見ても、あの鎧はへっぽこだったのじゃ」


「へっぽこって……まあ激安品だったけどさ」


 ちなみに、特価六九八〇クレドだった。まともな革鎧は最低でも三万クレドはするので破格の値段だったが……つまりはそういうことである。


(うーん、こうなると実践とまでは言わずとも、模擬戦くらいはしてーんだけど、流石に借り物でそれをやるのはな)


 ゴレミと組み手でもすればいい感じに馴染ませられそうだが、まだ買ったわけでもない商品を、ゴレミの石の拳で傷つけるわけにもいかない。勿論寸止めにしてもらうつもりではあるが、ちょっとかするだけだって傷はつくしな。


「おい、兄ちゃん!」


 と、そこでディルクさんがやってくると、俺の剣を手に真剣な表情で声をかけてくる。


「な、何ですか?」


「兄ちゃんのこの剣……まさかとは思うんだが、打ったのはヨーギってババアか?」


「えっ!?」


 予想外に告げられたその名に、俺は驚きの声をあげた。

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