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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第二章 歯車男と火炎姫

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見えない気遣い

 そうして探索者ギルドまで辿り着くと、フラム様は「じゃ、頑張ってね」と言い残し、こっちが拍子抜けするくらいあっさりと帰って行った。


 俺達が国外に転移するのを見届けなくていいのかとも思ったが、もし何らかの理由でここに残ったら普通に明日また来るだろうし、加えて残り続ける場合、俺達は何処かの偉い人に命を狙われるわけなので、ここに居残るメリットが何もない。


 それにたった数日で俺達のことを丸裸にしたくらいだから、今もきっと俺達が気づいていないだけで、何処かからフラム様の手の者が見張っていたりするんだろう。俺にはそんなものを見抜く目もなければ見抜く必要もないのだから、気にするだけ無駄だ。


 と言うことで、無意味な反骨心は早々にぽいっと捨て去り、俺達は出発前の挨拶をするべく、ノエラさんのいる受付に行く。するとノエラさんはいつものように俺達を出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「おぉぉ、普通の対応だ……って、俺が来たことに驚かないんですね?」


「嫌疑が晴れて出てきただけなのでは?」


「あー、そう言われりゃそうか」


 自分が悪事を働いていなかったとしても、知らぬ間に悪事に巻き込まれることはある。なのでとりあえず捕らえられ、三日ほど取り調べをされた結果、疑いが晴れたので釈放された……皇太子が出てきたなんて話に比べたら、至極まっとうで納得のいく展開だ。


 自分の常識が……というか俺の周りに起きている出来事が如何にずれているかを再確認させられると、そんな俺を見たノエラさんがメガネをクイッとしながら小さく笑う。


「ふふふ、冗談です。ある程度の事情は把握しております。何せ私は賢いですからね。


 故に謝罪もさせていただきます。ゴレミさん達から相談はされたのですが、流石にあのようなご身分の方々の指示となると、一介の受付嬢の私では、如何に賢くても限界がありまして……」


「いやいや、そんなの全然気にしてないですよ! むしろ俺の為に無理をしてもらったみたいで、こっちこそ申し訳ありませんでした」


 ペコリと頭を下げるノエラさんに、俺の方こそ大きく頭を下げた。更にそこから手の中に握っていたものをカウンターに置き、フラム様に教えられた魔法の言葉を口にする。


「あ、それとこれ……落ちてたのを(・・・・・・)拾いました(・・・・・)


「それは……っ」


 ゴレミの腰につけていたバッジを返却すると、ノエラさんが珍しく驚いた顔をする。


 このバッジは政府が管理しているものなので、身分を偽って登録したり、許可なく他者に譲渡、貸与したりすると犯罪になる。そしてゴレミは当然、その正体を隠すために正規の登録などできるはずがない。


 だがノエラさんに渡されたこのバッジは、何と「未登録」であったらしい。無論未登録品の横流しは犯罪だし、それを使って勝手に登録なんてしてたらそれこそ大問題だったが……


「……確認しました。確かに『未登録』のままですね。では拾得物として処理させていただきます」


 そう、拾ったバッジをただ腰につけていただけなら。返すのがちょっと遅れただけで、未登録のバッジが未登録のまま返却されたのであれば、そこに罪などない。精々落とした奴が厳重注意を食らう程度ですむ……というのが、あの時フラム様に耳元で説明された内容だった。


「でも、何故? クルトさん達には説明しなかったはずですが?」


 そう、この絵は最初からノエラさんが描いていたものだ。俺達が何も知らずとも自分への被害を最小限に抑えつつ、かつ俺達の手助けもできる……フラム様に聞いた瞬間から「ノエラさん、マジ頭がいいな」と感心しきりの手際だが、これには一つだけ大きな欠点がある。


「ついさっき別れたばかりのお偉い方に、ちょっとご教授いただいたんです。黙って返却するだけでも平気だったんでしょうけど、お世話になった人にどうお世話になったのかもわからないまま、お礼も言えないなんて嫌でしょ?」


「ノエラのおかげで、ゴレミはとっても助かったのデス! ありがとうデス、ノエラ!」


「クルトの件もそうじゃな。妾も感謝しておるのじゃ!」


「ローズさん……いえ、ですが私は結局何も……」


 否定するような言葉を口にするノエラさんに、ローズが微笑みながら首を横に振る。


「それは違うぞ? 末席の落ちこぼれで何の権威も持っていない妾や、世間的には人と認められないゴレミの願いを聞いて、何処にでもいる新人探索者でしかないクルトを助けようとしてくれた……その気持ちこそが嬉しいのじゃ。


 大言を口にするだけで動かぬ者より、力は小さくともすぐに動いてくれる者の、何とありがたいことか! その心意気に比べれば、結果など些細なことなのじゃ」


「そうだよな。すぐにこの国を出なきゃいけないみたいなんで、他の人には挨拶できなかったんですけど、せめてノエラさんにだけはちゃんと感謝の言葉を伝えたかったんです。


 ありがとうございました、ノエラさん」


「……………………っ」


 礼を言う俺達の前で、軽く俯いたノエラさんが激しくメガネをクイクイ動かす。そのまま数秒待つと、顔をあげたノエラさんはいつもの状態に戻っていた。


「過分な評価、ありがとうございます。私も微力ながら探索者の方々の力になれたことを、光栄に思います。


 ところで、すぐに国を出るというのは……?」


「ああ、転移門(リフトポータル)の使用許可証をもらったんで、エーレンティアに戻ろうかと思ってるんです」


「そうですか。転移門(リフトポータル)の位置はわかりますか?」


「大丈夫です。まだ来たばっかりですしね」


 リエラさんの確認に、俺は苦笑しながらそう答える。まさか生涯縁がないと思っていた転移門(リフトポータル)を使い、更にその二ヶ月後にもう一回使うなんて、想像すらしたことがなかった。一年前の俺にこの話をしたら「与太話も大概にしろ」と一笑に付されることは請け合いだ。


「それじゃノエラさん。短い間ですけど、本当にお世話になりました!」


「そのうちまた来るデス!」


「そうじゃな。少なくとも妾は間違いなくこの国に帰ってくるじゃろうし、その時は旅の話をたっぷりと聞かせてやるのじゃ!」


「ふふ、楽しみにしておきます。では『トライギア』の皆様の今後の活躍をお祈りしております。当ギルドをご利用いただき、ありがとうございました」


 そう言って深々とお辞儀をするノエラさんに手を振って別れ、俺達はギルドのホールを経由して奥にある転移門(リフトポータル)の場所へと移動していく。割と入り組んだ先にあるのだが、案内板もあるので迷うことはない。


「あー、ここだここだ! うわ、懐かしい……ってこともねーな」


「二ヶ月前に一回きただけデスからね。懐かしむには期間も回数も足りないデス」


「おお、これが転移門(リフトポータル)か……妾は初めて見るのじゃ!」


「え、そうなのか? 皇族なら見たことくらいはありそうなもんだけど」


「頼めば見せてくれたかも知れぬが、妾は自分の事で精一杯じゃったからの。そんな余裕はなかったのじゃ」


「なら今こそ堪能すればいいのデス! さあローズ、ゴレミと一緒に中央で踊り狂うのデス!」


「それは楽しそうじゃな!」


「楽しそうじゃねーよ! 普通に邪魔になるからやめろ! ったく……」


 はしゃぐゴレミ達を引き留めつつ、俺達は荷運びをしている人達の邪魔にならないように隅っこで待機する。そうしてしばらくすると喧噪も落ち着き、いよいよ転送開始ということで俺達も転移門(リフトポータル)のなかへ入ると、以前のように転移門(リフトポータル)の外にいる人が声をあげる。


「転送開始一〇秒前!」


「いよいよだな……」


 短期間での二度目とはいえ、これが最後になることだって十分にあり得る。俺が何となく厳かな気持ちに浸っていると、不意にゴレミが俺の手を引っ張ってくる。


「あの、マスター?」


「ん? 何だよゴレミ」


「そこの荷物に『カージッシュ支部』って書いてあるデス」


「カージッシュ?」


「メタラジカ王国の町じゃな。大ダンジョンの一つである<火吹き山(マウントマキア)>がある町の名じゃ」


「……え? じゃあこれって!?」


「三……二……一……」


 俺の額から、一瞬にして滝のような汗が流れ始める。だが無慈悲なカウントダウンが止まることはない。


「ちょっ、待っ!?」


「転移!」


「間違えたぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」


 周囲の人々がぎょっとする視線を向けてくるなか、俺の魂の絶叫は虚しくその場に響き渡るのだった。

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