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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第二章 歯車男と火炎姫

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レア魔物の秘密

 そうしてガーベラ様達と行動を共にするようになって、一ヶ月。俺達は未だに第四層をさまよい歩いていた。


「はーっ、やっぱり出会わねーもんだなぁ……いやまあ、普通に考えたら出会うわけねーんだけど」


 代わり映えのしない日々に、俺は何の気なしにそんな呟きを漏らす。


 当たり前の話だが、レア魔物とは希少(レア)だからそう呼ばれるのだ。この辺はまだまだ浅いが、それでも同じ層に一ヶ月程度滞在するなどごく普通。それで出会えるくらいならそもそもレア魔物などと呼ばれてはいないのだから、出会えないことに不満があるわけではない。


 だが次の層へと向かうために金を稼ぎ経験を積み重ねる通常の狩りと違い、レア魔物に出会うためだけにここを彷徨っているのとでは、何と言うかこう、心構えのようなものが違ってくる。


 確かに金はかなりの勢いで貯まっているし、稀に戦闘もさせてもらえているので少なくとも体が鈍るようなことはないのだが、目的に対する進展が何一つ感じられないというのは、どうしてもやる気が失われるというか、その場で足踏みをしているだけという感じが否めないのだ。ましてやそれが俺自身の願いではないとなれば尚更である。


 故に生じた、わずかな緩み。そんな俺の愚痴に、俺の隣を歩いていたローズが苦笑しながら答える。


「ははは、仕方ないのじゃクルト。なかなか出会えぬからこそ探しておるわけじゃしの」


「そうデスよマスター。美少女は一日にして成らずデス」


「ゴレミの戯言はともかく、まあそうだよな」


「あうっ!」


 ゴレミの額をペチッと叩きつつ、ローズの言葉には同意しておく。そんな俺達のやりとりに、珍しくガーベラ様が反応してきた。


「こら、気を抜きすぎては駄目よローズ。私の予想が正しければ、もうそろそろ出てくるはずだから」


「え、そうなのですか姉様?」


「そうよ! と言うか、出会うことそのものはそこまで難しくないはずだもの」


「……? 姉様、それはどういう……?」


 当たり前のように言うガーベラ様に、ローズが怪訝そうな顔で問う。すると何故かガーベラ様もまた一瞬だけ不思議そうな顔をして、しかしすぐにその口を開いた。


「そう言えば説明していなかったかしら? ローズ、貴方レア魔物は……いえ、そもそもダンジョンの魔物はどうやって生まれているのか知ってる?」


「へ!? いや、妾は何も知らないのじゃ……クルトにゴレミは知っておるか?」


「俺!? 俺も知らねーな……てか知ってたらあんな愚痴言ってねーし」


「ゴレミも知らないデス! 知らないということになっているデス!」


「なんじゃそれは……して姉様、一体どのようにして魔物が生まれるのじゃ?」


 相変わらずのゴレミの発言に顔をしかめるも、ローズがガーベラ様に再度問う。するとガーベラ様は嬉しそうに表情を輝かせ、得意げに説明を始めた。


「ふふん、いいわよ、教えてあげるわ! そもそもダンジョンの魔物は外の魔物と違って、食事も睡眠もとらないし老化したりもしない。何より子供がいなくて、成体だけがどこからともなく沸いてくるでしょう?


 これはダンジョンの中に満ちている魔素……ちゃんと説明すると長いから、とりあえず魔力と似たようなものだと覚えておけばいいわ。とにかくその魔素によって、ダンジョンに記録された『一番いい状態の魔物』の姿が再現されているからだと言われているわ。


 だからこそ、ダンジョンの魔物は死ぬと魔素に戻ってしまうから、血も肉も……それこそ身につけていた武器や服すら消えてしまうの。


 ああ、ちなみに人間が中で死んだ場合も消えてしまう理由は、今のところはわかっていないわね。後はダンジョンの魔物を外に出したらどうなるか、なんて研究もあるのだけれど、これも今は関係ないから割愛するわよ」


「わかったのじゃ!」


 一端言葉を切ったガーベラ様に、ローズがそう言って頷く。俺としてはその辺の謎も興味があったが、確かに今聞くことじゃないだろう……後でノエラさんにでも聞いてみるか? でもそうすると、何かスゲー専門的な説明を延々と聞かされそうな気もするんだよなぁ……っと、それはそれとして、今は話の続きだ。


「で、ダンジョン内に満ちる魔素が一定以上に濃くなると、魔素濃度を一定に保つために、次に生み出す魔物に余剰の魔素を注ぎ込むの。それによって生まれた通常とは違う魔物がレア魔物なのよ」


「ほほぅ、そうじゃったのか! ガーベラ姉様は博識じゃのぅ」


「ふ、フンッ! この程度は常識よ常識!」


 ローズに褒められ、ガーベラ様の機嫌があからさまに良くなる。自然と持ち上がる口角を必死に誤魔化すようにぷるぷるさせながら、ガーベラ様の説明は更に続いていく。


「つまり、意図的に魔素を大量に生み出せれば、レア魔物の発生を促すことができるのよ。そして魔素を発生させるには、魔物を倒すか強力な魔法を使えばいいのだけど……魔物なんて普通に毎日数え切れない程討伐されているし、そこにいる魔物を倒すのに適正な魔法を使っている分には、余計な魔素は発生しないわ。


 でも、ここには私がいて、この階層に見合わぬ強力な魔法で、通常の何倍もの速度で出会った瞬間に魔物を倒しているわ。そうなると……」


「その『魔素』とやらが溜まって、レア魔物が出現しやすくなる……のじゃ?」


「そういうことよ! どう? この私が何も考えずにこんな浅層で活動しているわけじゃないということを、ちゃんと理解出来たかしら?」


「うむ、よくわかったのじゃ! やはり姉様は凄いのじゃー!」


「ほ、ホホホホホ……栄えある帝国の皇女であれば、このくらい当然よ! ローズも戦闘ばかりではなく、ちゃんと知識や気品も身につけなければ駄目よ?」


「わかったのじゃ! 姉様を見習って、妾も精進するのじゃ!」


「オーッホッホッホッホ! 精々頑張りなさい!」


 テンションも最高潮とばかりに、ガーベラ様が高笑いをする。一方俺はその隣に視線を向けると、今回もまたヒダリードさんがスゲー目でこっちを見ている。


 あー、うん。きっと今のもあんまり話しちゃ駄目なやつだったんだろうなぁ。でも妹に期待されたり褒められたりして、気持ちよくなって話しちゃったと……はいはい、わかってますよ。絶対誰にもいいませんので、睨むのは勘弁してください。


「ゴレミ……」


「チャックウーマンデス!」


「ならよし」


 俺とゴレミの短いやりとりで、ヒダリードさんの顔が正面に戻っていく。うむ、今回も実は割とヤバ目の人生の危機を穏便に乗り切れたようだが……ん?


「おっと、殿下。前方に魔物がおりますぞ」


「フンッ、無粋な客ね。皇族同士の会話に割り込もうなんて、不敬もいいところだわ」


 ミギールさんの指摘通り、通路の奥から三匹のブックバタフライが飛んでくるのが見えた。その言葉を受け、ガーベラ様が面白くなさそうな声をあげる。


「姫様、どうしますか?」


「勿論倒すわよ。でも……そうね」


 ヒダリードさんの問いかけに、ガーベラ様がわずかに考えこむ。だがすぐにその口元を、ローズと話していた時とは違う感じにニヤリと変化させた。


「せっかくの姉妹の語らいを邪魔したのだから、相応の罰を受けてもらおうかしら。その方が私の都合にもいいものね」


 そう言ってガーベラ様が右腕を振り上げると、その上に真っ赤に燃え盛る三本の矢が生まれる。五メートル近く離れているはずなのに、そこから発せられる熱気で肌がチリチリと焼けるようだ。


「姫様!? それは流石にやり過ぎでは!?」


「ぬぅ、これはたまらんな」


「私の護衛騎士なのだから、少しくらい我慢なさい! フレア……ボルトっ!」


 解き放たれた三本の火矢は、飛翔する三匹のブックバタフライに狙い違わず命中する。己の耐久を遙かに超える火力にブックバタフライは瞬時に燃え尽き、その体が霧となって――


「え、何だ?」


 いつもならそのまま消失する霧が、何故かそのまま宙を漂い一カ所に集まっていく。そうして三つの霧が集まった瞬間、閃光と共にそれ(・・)は姿を現した。


バサバサバサッ!


「……何か、思ったより地味な登場だな?」


「普通の魔物なら雄叫びの一つもあげるんじゃろうが……まあ、本じゃしな」


 割と静かな感じで、遂にお目当てのレア魔物「レインボーブックバタフライ」が出現した。

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