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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
最終章 歯車男と約束の君

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約束の君

今回はオルガ視点です。

「……………………あれ?」


 泥のように粘つく深い眠りから目覚めて、わたしは思わず首を傾げる。目の前に広がっている真っ白な天井に、まったく見覚えがなかったからだ。


(あれ? ここどこ? 昨日は普通に家で寝たはずなのに……?)


「おお、目が覚めたみたいデス!」


「えっ!?」


 と、急に近くから知らない人の声が聞こえて、わたしは驚いて体を起こす。そしてその時初めて、わたしは自分が裸であることに気づいた。


「え、裸!? きゃあ!?」


「ゴレミフィンガー!」


「ぐあっ!? 目が!? 今更俺の目が!?」


「はい、どーぞ! 今は間に合わせだけどー、あとでオルっちに似合うかわいー服、一緒に選ぼーね?」


「ど、どうも……?」


 石像の女の子に男の人が目を突かれて悶えるなか、緑色の髪をしたフリフリ衣装のお姉さんが、わたしに服を渡してくれる。飾り気のない白い服はまるで病院の服みたいでちょっとイヤだったけど、裸よりはずっといい。わたしは素早く服を着ると、改めて周囲を見回した。


 綺麗な、あるいは可愛い女の子が沢山、わたしを囲んでジッと見ている。他には目元を抑えて騒いでいるお兄さんと、あとは……


「お父さん!」


 唯一見知ったお父さんの姿を見つけて、わたしはそのままベッドから飛び起き、お父さんに縋り付いた。でもその瞬間、わたしのなかに強烈な違和感が生まれる。


「や、やあオルガ。おはよう」


「お父さん……何か違う?」


「え? そ、そうかな?」


「うん。でも…………あれ?」


 理由はわからないけれど、わたしの目から涙が零れた。どれだけ手でゴシゴシやっても、涙は後から後から出てきちゃう。


「お、おかしいな? わたし、何で泣いてるの?」


「は、ははは……何で、だろうね? わた……僕にはちょっと、わからないや……」


「お父さん? 何でお父さんも泣いてるの?」


「えっ!?」


 顔をあげると、そこではお父さんも涙を流していた。二人揃って泣いていると、誰かがそっとわたしの涙を拭ってくれる。


「ありがとう……お姉ちゃん、誰?」


「私は貴方の姉です」


「お姉ちゃん!? え、どういうこと? お父さん、わたしにお姉ちゃんがいたの!?」


「いや、その辺は話すと長くなるっていうか……」


「まさか、うわき!? 妹ならまだわかるけど、お母さんと結婚する前に、他の人と子供を作ってたの!?」


「まさか! っていうかオルガ、君は随分難しいことを理解してるんだね?」


「そのくらいわかるよ! わたしだってもうすぐ中等部のお姉さんなんだから! って、そうだ、学校! こんなことしてたら、遅刻しちゃう…………っ」


 不意に、頭がズキリと痛んだ。それと同時に頭の中にとっても怖い景色が浮かんできて、わたしは思わずその場にうずくまってしまう。


「うぅ……なにこれ、わたし、潰れて……痛い、怖い……っ!」


「オルガ!? どういうことだ、何故書き込んですらいない記憶が蘇る!?」


「わかりません。可能性としてあり得るのは、我々が認識できている領域の外にも情報が存在しており、それが蘇ったのではないでしょうか?」


「完全コピーだから、それをそうとわからず書き込んじゃったってこと!? 私とした事が、一生の不覚だわ……どうするの父さん?」


「どうするって、もう消すこともできないし…………」


 訳のわからない怖さにわたしがガタガタ震えていると、お父さんがそっと抱きしめてくれる。でもそんなお父さんの手も、何故だかブルブルと震えている。


「大丈夫、大丈夫だよオルガ。もう怖いことは起こらないから」


「本当……? でも、お父さんも震えてるよ……?」


「ははは、そりゃ父さんだって怖いものくらいあるさ。でも二人なら……いや」


 お父さんが顔をあげたので、わたしも釣られて顔をあげた。するとお父さんは側にいる沢山のお姉ちゃん達を見て言う。


「家族と一緒なら、何だって大丈夫さ」


「家族……え、待って。まさかこの人達、全員!?」


「全員じゃないけどね。正確にはあそこのお兄さんと、その隣のお姉さんは父さんのお友達だよ」


「あ、そうなんだ。でもいち、にい、さん……六人!? 嘘でしょ、お父さん、六人も隠し子がいたの!?」


「隠し子!?」


「あー、そらそういう反応になるわなぁ」


「っていうか、何で六人なの?」


「イリっちが入ってないんじゃない? ほら、今のイリっちは見た目普通にゴーレムだし」


「ぬあー! 仲間はずれは悲しいのデス! ゴレミも、ゴレミも家族なのデス!」


「勿論です。イリスは私の大切な妹です」


「うわーん、ベリル姉ちゃーん!」


「まったく、イリスは相変わらずねぇ。ほら、私の胸でも泣いていいわよ?」


「デーラ姉ちゃんの胸は痛そうなので遠慮するデス」


「何ですってー!?」


「……………………」


 わいわいがやがや。そんな言葉が浮かんでくるくらい、お姉さん達は賑やかだった。みんな凄く幸せそうで、楽しそう。


「どうだいオルガ? みんな僕の自慢の娘なんだ」


「どうって言われても……」


 そんなこと聞かれても、困るとしか言いようがない。確かにお姉ちゃんか妹が欲しいと思ったこともあるけれど、かといっていきなりこの人数は……


「…………あれ?」


 そうしてわたしが戸惑っていると、わたしの頭の中にまた不思議な景色が浮かんできた。でも今度は嫌な、怖い景色じゃない。目の前にいるお姉さん達が、知らない人と楽しそうにしてる姿……


『よう、フィア!』

「フィア……さん」


 元気のいい男の子が、銀髪のお姉さんをそう呼んでいた。


『のぅ、ベリル』

「ベリルさん」


 格好いいお爺ちゃんが、立派な防具を身につけたお姉さんをそう呼んでいた。


『やぁ、ガルマさん』

「ガルマさん」


 凄く怪しい顔をしたお兄さんが、緑色の髪をしたアイドルお姉さんをそう呼んでいた。


『あら、デーラじゃない』

「デーラさん」


 もの凄く大人っぽいお姉さんが、似たような格好をした栗色の髪のお姉さんをそう呼んでいた。


『エプシル殿ー!』

「エプシル殿? ちゃん」


 ちょっと太ったお兄さんが、ピンク色のお団子髪をした女の子をそう呼んでいた。


『おーい、ジッタちゃーん!』

「ジッタちゃん」


 私と同い年くらいの女の子が、金色のショートヘアに赤いキュロットスカートを履いた女の子をそう呼んでいた。


『おう、ゴレミ!』

「ゴレミちゃん」


 黒髪の、ちょっとしょんぼりした顔のお兄さんが、空色の髪のメイド服を着た女の子をそう呼んでいた…………あれ? このお兄さんはそこにいるよね? それにこの子だけ見た目が違うけど……でも、なんでだろう? あの石像の女の子がこの子だってわかる。


 そう、わかる。話しているのを聞いていたからじゃなく、まるでずっと昔から知っていたように、この人達の顔が、名前がわかる。そしてそれを口にすると、お姉さん達が一斉にわたしを見てきた。


「私はアルフィアです。ですがまあ、貴方ならフィアと呼んでも構わないでしょう」


「確かに私はベリルですが、何故私の名を?」


「待てや! 何でウチだけ殿ちゃんやねん! ウチはエプシルや!」


「ゴレミの本名はイリスなのデス! でも今はゴレミなのデス!」


「わ、わ!? ちょっと、そんな一辺に話しかけないで!」


 途端に、賑やかさの中心がわたしになる。慌ててオロオロしていると、お父さんが優しく間に入ってくれる。


「みんな、気持ちはわかるけど落ち着いて。大丈夫、時間はたっぷりあるんだ」


「失礼しました、創造主様。皆、待機(スリープ)モードに入りなさい」


「入らないよ!? 何でアルフィア姉さんは、ここぞってところでそうボケるかな!?」


「それがアルフィア姉ちゃんの持ち味なのデス」


「あーでも、ここでウチら全員がいきなり棒立ちになったら、それはそれでウケるんちゃうかな?」


「そのウケ方は絶対駄目な方だから、やめておきなさい」


「あはははは…………」


 また賑やかに話し始めるお姉さん達に、わたしは何だか幸せな気分になる。さっきまであった不安な気持ちは、もう何処にもない。


「オルガ……」


 そんなわたしに、お父さんが声をかけてくる。その顔は今にも泣きそうで……だから今度は、わたしがお父さんにギュッと抱きついた。


「大丈夫だよ、お父さん。何だかわからないことばっかりだけど……でもきっと、わたし今、凄く幸せだから」


「そうか……そうか…………っ」


「ねえ、お父さん?」


「何だいオルガ?」


「……おはよう!」


「っ……ああ、おはよう」


 まるで生まれて初めて挨拶をした気分。こうしてわたしの人生(あさ)は、今この瞬間から再び動き出したのでした。

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