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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
最終章 歯車男と約束の君

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魂の譲渡:ガルマ

「やっピー! 次はガルマちゃんの番だよ! ヨロシクねー!」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 緑色の長い髪をふぁさっと揺らし、妙にヒラヒラした服……ゴレミが言うには、アイドルのコスプレ衣装? とかいうものらしい……を身に纏うガルマさんに挨拶すると、ガルマさんが俺の肩をバシバシ叩きながら笑顔で話しかけてくる。


「かたーい! なーに、クルっち、緊張してる? まあガルマちゃんの可愛さを目の当たりにしたら、誰だってピーンてしちゃうのはわかるけどね!」


「あはははは……」


 独自のノリで勢いよく話しかけてくるガルマさんに、俺は微妙に引きつった笑みを返す。悪い人ではないのはわかっているんだが、何と言うかこう……この流れに馴染みきれないのだ。


「ブー! ビミョーにノリがわるーい! 仕方ないなぁ……じゃ、さっさとヤッちゃおっか! えーい、<心核解放(アン・ロックぅ)>!」


「じゃあいきます、<歯車連結(ギアコネクト)>!」


 とはいえやるべき事は変わらない。俺はガルマさんが変身したのを確認すると、『約束の蒼穹(アーバロン)』を通じて歯車を噛み合わせる。そうして入り込んだ精神世界は……これまた不思議な場所であった。


「「「ウォォォォォォォォ!!!」」」


「っ!? え、嘘だろ、誰かいるのか!?」


 まず聞こえてきたのは、沢山の人の声。驚きに目を見開くと、確かに周囲に人影らしきものがある。が、よく見ればそれは人ではなく、かなり大雑把な人の形に見える黒いもやのようなものであった。


「こっわ!? 何これこっわ!? どういうことだよ……」


 頭があって体があって、手があって足がある。精々そのくらいのぼんやりした黒いもやが左右に揺れると、その度に口の辺りから「オォォォォ」という音が響く。


 何だろう? 仕組み的には洞窟を風が吹き抜けると音がなるようなやつなのか? わからん。何もわからんが、とりあえず見た目はかなり怖い。


 マジか。ガルマさんのあの感じから、極彩色の花畑くらいは覚悟してたけど、こういうのなのか……


 いやでも、そうか。ガルマさんって三番目だもんな。半分より上になったら、そりゃ抱える闇も増える……のか?


「……とにかくここに長居はしねー方がよさそうだな。さっさと見つけて戻ろう」


 幸いにして黒いもやには触れても何かが起きるということはなく、俺の体がそのまますり抜ける。なので俺は努めてもやの存在を無視し、正面に見えるでかい舞台のような場所を目指した。


 そこは光るガラス玉? のようなものが大量に取り付けられた、目が痛くなるくらいキラキラの場所。その輝きからまさかこれ全部が対象か? と思ったが、近づいて触れたり、あるいは舞台の上に乗っても反応はない。


「ここじゃねーのか? いや、それは流石にねーだろ……うん?」


 舞台の中央に立った瞬間、足下からカチッという音が響いた。それと同時に正面の床にぽっかりと穴が空き、そこから何かがせり上がってくる。


「何だ? 棒……台座?」


 出てきたのは、俺の首くらいまでの高さがある金属製と思わしき細長い棒。その上にはやはり金属製のちょっと太い棒が乗っており、そいつが突如として途轍もない光を放つ。


「っ…………」


「「「ウォォォォォォォォ!!!」」」


 その光に照らされ、周囲の黒もやから声が上がる。世界全てを照らし出すような輝きは、あまりにも眩しい。


「これ……は…………」


 光る棒に手を伸ばそうとし、しかし俺は途中でやめる。いや、違う。これはあまりにも輝き過ぎている。これを切り離しちまったら、ガルマさんがガルマさんでいられる想像がつかない。


 でも他に……お?


「あ、こっちか?」


 視線を落とすと、上がりきった床の上に輝く靴が一足置かれていた。台座に乗った棒とは比較するのも烏滸がましいが、それでも十分にピカピカだ。多分こっちが本命だろうと手を伸ばすと、予想通りに俺の意識が飛ばされていく。





「ちょっとギルっち! また何か悪いこと考えてるのー?」


「またとは人聞きが悪いですね。私はいつだって正当な利益の追求しかしていませんよ?」


 さっきまでいた場所とは打って変わって、ごく普通の……おそらくは宿の一室だろうか。ガルマさんに声をかけられ、緑の法衣のようなものを纏う糸目の青年が心外そうに肩をすくめる。


「だーかーらー、その『正当な利益』がチョーエグいって言ってるの! 何度も言ってるけど、世の中にはもっとラブが必要なんだよ?」


「ですがその愛も、金で買えるでしょう? 物も心も命でさえも、この世にあるものの九割は金で買える。だからこそ我等は金を集め、金を信じ、金を動かし、金を増やすのですから」


「世知辛いなぁ、ギルっちは。もっとこう、みんなでふんわーり、ラブラブな世界になったらいいのになぁ」


「それが貴方の望みなら、そうできるだけの金を得ればいいだけのことです。そうすれば――


ザッ、ザザザッ――





「……うむん?」


 不意に世界にノイズが走り、気づけば精神世界へと強制的に戻されていた。しかも手元にある靴が、何故か片方だけになっている。


「……………………戻るか」


 色々気になることはあったが、ここで考えても答えは出ない。なので俺は片方だけの靴を手に、自分の体に更に意識を戻す。


「……ふぅ」


「あ、クルっち帰ってきたー! どうだった?」


「えっと…………あー、大丈夫みたいですね」


 問われて矢の先に視線を動かすと、そこにはちゃんと五つ目の光球が浮かんでいた。少なくとも魂の切り離しは上手くいったようだ。


「そっか、よかった。ほら、ガルマちゃんってばいつでもチョー輝いてるけど? でもアタシくらいまでなると、正直あんまり綺麗な記憶(ところ)ってないんだよねー」


「それは…………」


「ふふ、いーのいーの! 一応全部ギュギューッて絞るならもうちょっと渡せるところもあると思うけど……」


「いやいや、それじゃ俺が協力する意味がないじゃないですか! 大丈夫、これできっと上手くいきますよ!」


「そう? クルっちがそう言ってくれるなら、ガルマちゃんあんしーん! それじゃ次に……」


「あの、ガルマさん!」


「ん? なにー?」


 立ち去ろうとするガルマさんに、俺は思わず声をかける。振り向いたガルマさんはいつもの笑顔を浮かべていたが、そこに影のようなものを感じるのは、俺がさっきまであの世界を見ていたからだろうか?


「ガルマさんの心の中…………凄く、綺麗でしたよ。何かもう、めっちゃめちゃに輝いてました」


「えっ!?」


 俺の言葉に、ガルマさんが目を見開いてキョトンとした顔をする。だがすぐにその表情が、嬉しそうにニヘラッと崩れた。


「へー、そうなんだ。輝いてたかぁ……」


「ええ、そりゃもう眩しいくらいにギラギラしてました」


「そこはキラキラじゃないのー? もー、クルっちは乙女心がわかってないなー」


「ぐっ……す、すみません…………」


「いいよ別に。ねえクルっち」


「な、何ですか?」


「ありがとね」


 輝く笑みを浮かべて、ガルマさんが俺の隣を離れていく。その笑みにしばし見惚れていると、すぐ側から余韻を台無しにする声があがった。


「あわわわわ、デーラ姉ちゃんだけでなく、マスターがガルマ姉ちゃんまで口説いてるデス! これは本当にゆゆしき事態なのデス!」


「あれは完全に恋する乙女の顔だったよね。でもクルト君って、ガルマ姉さんの好みとは大分ずれてるような……」


「いやいや、わからへんで。案外こういうしょぼくれたのを下僕にするのが好きなのかも知れないやんか」


「それはデーラ姉さんの趣味じゃないの?」


「ちょっ、いい加減なこと言わないでよ! ノーウェの好みはそうだったかも知れないけど、私はそんなの好きじゃないわよ!?」


「あははー、大丈夫だよ! ガルマちゃんはみんなのアイドルだから、一人の好きピになったりしないの! まあガルマちゃんを好きピにしちゃう人はいーっぱいいるから、クルっちがガルマちゃんの虜になっちゃうのは否定しないけどねー」


「安心できる要素が一つもないのデス!? こうなったらやっぱり、既成事実しか……」


「いい加減にしなさい! さっきから好きだの何だのと、今がどれほど重要な作戦中かわかっているのですか!」


 はしゃぐゴレミ達を、ベリルさんが一喝する。それを受けてゴレミ達が静かになると、小さくため息を吐いてからベリルさんが俺の隣にやってきた。


「はぁ……さ、次は私です。さっさとやってください。<心核解放(アン・ロック)>」


「あ、はい。じゃあまあ、いきます」


 作業的に変身し、何の感情も見せずに手を重ねられ、俺はその勢いに押されながらベリルさんの魂へと潜っていった。

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