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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
最終章 歯車男と約束の君

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作戦開始!

 そうしておおよその方針が固まった後、俺達は結局ダンジョン内に留まることとなった。<原初の星闇(コスモギア)>で得た能力は腕輪やその他諸々と一緒に消えてしまったので外に出ても失うものはもうないのだが、そうなるとここに戻ってくる手段がない。というのも最奥からの直通出口は一方通行だからだ。


 加えてここは正確には<原初の星闇(コスモギア)>ではなく、その奥にある通常なら入れない空間だ。ゴレミだけならともかく、俺やローズを何度も出入りさせる「例外」を重ねてしまうと、色々と面倒なことになるらしい。


 水や食料も普通にあったし、後に合流したボドミ……ではなくデーラさんが「例外を例外で潰して……あ、でもそうするとこの例外にはこっちに例外を作って対処しないと……あああ、コードが絡まる! 変数を追加するなら、せめて注釈くらいつけなさいよ!」と叫んでいるのを見てしまったこともあり、これは黙ってここにいた方がいいなと決めたのは、我ながら英断だったと思っている。


 それに、別にずっと何もせずにいたというわけじゃない。「本番」に向けて練習することはあったし、エフメルさん達にもまだまだ聞きたいことがあった。


 例えばローズが「ゴーレムに宿る魂が必要だというのなら、そもそもゴーレムを大量に作って配置しまくればいいのではないのじゃ?」なんて問うたりもしたのだが、それに対するエフメルさんの答えは「やったけど上手くいかなかった」というものだった。


 エフメルさん曰く、ベリルさんの時にそれをやったら、手軽に使い捨てられる兵器兼兵士として利用されてしまい、大きな戦争が起こりそうになったのだという。


 他にも様々な失敗を重ねた結果、今のゴレミのように常に一体しか存在しないようにした方が管理しやすく、また希少性から大事にされやすいので魂も生まれやすいという結論を得たということだった。


 まあ、そうだよな。俺やローズが思いつく程度のことを、エフメルさん達が検討していないはずがない。自分だけが思いついた画期的なアイディアは、先人が駄目だったと切り捨てたものだったってのはよくある話だ。


 他にもゴレミ達七人姉妹と交流を深めたり、俺の<歯車>のスキルを磨くべく努力したりを繰り返し、その間にエフメルさん達の準備も進んで……気づけばあっという間の一ヶ月。遂に決行日を迎えた俺達は、それまで立入禁止とされていた部屋に入ったのだが…………


「うぉぉ!? うわ、何だこれ!?」


「滅茶苦茶広いのじゃ!?」


 扉をくぐった先にあったのは、やたらと広くてほとんど何もない部屋だった。いや、部屋というか空間だ。霞むほど高い天井に、遙か遠くに存在する壁。これまで俺達が滞在していた一般的な宿屋くらいのスケール感からは大きく逸脱している。


「そう何回も来たことがあるわけじゃないけど、やっぱりここだけ異常に広いわよね」


「まあ、元は巨大な魔導具を運び込む予定やったからな。デーラ姉さんかて知ってるやろ」


「だねー。そこでボク達の魂をキューキュー絞って、あの子にあげるはずだったんだし……今考えると、もの凄い大雑把な計画だよね」


「そこは許しておくれよジッタ」


 デーラさん、エプシル、ジッタの順で部屋に入って話をしていると、次いで入ってきたエフメルさんが苦笑しながらそう声をかける。


するとそれを見たベリルさんが、ジッタに厳しい顔を向ける。


「そうですよジッタ。魔導具で魂に干渉できるというだけでも、とんでもない発明なのです」


「うひゃっ!? わかってるベリル姉さん! 父さんの凄さはよーくわかってるって!」


「ならばいいのです……ですよねお父様?」


「ははは、最初から気にしてないから平気だよ。それに今は、僕の発明なんかよりずっと凄い力を持った人がいるからね」


 そう言ってエフメルさんが視線を向けてくるのは、俺だ。


「僕に上がってきた報告のかぎりでは、精神干渉できる能力の類いだと思っていたんだ。それがまさか、こちらの想定を大きく上回って魂にまで直接干渉できるとはね。


 結果論ではあるけど、アルフィアとクルト君が戦ってくれてよかったよ。あれでその力が判明しなかったら、結局僕は娘達を犠牲にする未来しか選べなかっただろう。


 本当にありがとう、クルト君」


「いやいやいや! 俺は別に、そんな……それに俺だって、みんなが助かった方がいいですからね」


「そうなのじゃ! みんな揃って笑顔なのが一番なのじゃ!」


「ふふふ、流石はマスターなのデス! マスターはゴレミが育てたのデス!」


「イリスはむしろ育てられた側なのではありませんか?」


「フィー姉ってば、相変わらず真面目ー! こういうのはノリでいいんだって!」


「ノリですか? データベース照合……リズム感的なものでしょうか?」


「なわけないやろ!」


「「「ははははは」」」


 全員の笑い声が、部屋の中に響く。そのなかにいるだけで、俺の力が役に立つことが嬉しくてたまらない。


 だってそうだろ? 一時的に敵対はしたけど、アルフィアさんもベリルさんもガルマさんもデーラさんもエプシルもジッタも、そして勿論エフメルさんだって、みんなみんないい人なのだ。


 そりゃ譲れない目的が食い違ってるなら対立するしかないかも知れねーけど、協力してどちらの望みも叶うようにできるなら、むしろ俺から手伝わせてくれって頭を下げたいくらいだ。


「さて、話はこのくらいにしよう。それじゃクルト君とローズ君は、初対面だったね。紹介するよ。これが僕達の目的である『完全な人』……エフメルの娘、オルガだよ」


「この子が……」


 エフメルさんに促され、俺は広い部屋の中央にぽつんと一つだけあった魔導具に近づき、その中を見る。棺のような形のそれは蓋の部分が透明になっており、なかには一二歳くらいの女の子が眠っている。


 なお当然のように全裸だが、流石にこの状況でそれをどういう言う人はいない。


「何と言うか、間違いなく人間の体なのに、まるで人形のような雰囲気なのじゃ。なるほどこれが『魂がない』ということなのじゃ」


「だな。なら俺達の手で、この子にちゃんと魂を入れてやろうぜ」


「うむ!」


「最後にもう一度手順を確認しよう。クルト君とローズ君には、この場で『約束の蒼穹(アーバロン)』を使ってもらう。そのうえでゴレミから順番にクルト君と魂をリンクさせ、それぞれの魂をクルト君に託す。


 で、全員分が終わったら、完成した魂を矢に乗せてオルガに打ち込むことで、そのなかに魂を入れる。これが第一段階だ。ここまではいいね?」


 エフメルさんの確認に、全員が無言で頷く。


「で、魂の移譲が確認できたら、エフメルの魂を利用して本物のオルガの魂を水底から引き上げ、即座にデーラの『先詠みの板書(プレスティア)』で全データをコピーする。そこまでが第二段階。


 そして最後、第三段階ではコピーしたデータをオルガの魂に書き込み、体、魂、記憶の全てが揃ったオルガを目覚めさせる。これにて我等がエフメルから託された『目的』は終了だ。


 ということで…………始めようか」


「はい! いくぞローズ、ゴレミ!」


「任せるのじゃ!」


「バッチコイなのデス! さあ、マスター!」


「おう! <心核解放(アン・ロック)>!」


 やる気に満ちた俺がスキルを使うと、まずはゴレミが空のように青い髪と海のように蒼い瞳を宿す、青いミニスカメイド服の少女へと変身を遂げた。

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