ひとまずの成功
「誰……だ……?」
明らかな不審者が、不意を突いての登場。普通なら強く警戒するところなんだが、目の前の人物からは敵意というか脅威というか、「戦う者」の気配が一切感じられない。
故に油断はせずとも怪訝な目を向ける俺達に、白衣の男は軽く笑みを浮かべながらヒラヒラと両手を振ってみせる。
「ああ、警戒しないでおくれ。大丈夫、戦うつもりはない――」
「創造主様!? 何故このようなところに! 危険です、お下がりください!」
「創造主? こいつ……いや、この人が?」
状況的にそうかも知れないとは思っていたが、俺の予想をアルフィアさんが肯定してくれる。すると男は浮かべた笑顔をそのままに言葉を続ける。
「ああ、そうだよ。まあ創造主なんて表現をされるほど大層なものじゃないけど、その子やダンジョンの仕組みを作ったのは僕だね。
まあそれはそれとして……はい、ちょっと下がってー」
「お、おい! ゴレミに何を――」
「いやほら、君今これを壊す感じのこと言ってたでしょ? 壊されるのは流石に困っちゃうし……あとこれ、もうデータの抽出シーケンスに入ってるから、無理矢理外すとデータが破損しちゃうんだよ。
バックアップはしてあるからそこから復元はできるけど、君はそれじゃ満足しないんでしょ? ならちょっと待ってて。悪いようにはしないから」
「クルトよ、よいのじゃ?」
「……ああ。ひとまず様子をみよう」
ローズに問われ、俺は苦い表情をしつつもそう決める。実際俺が無理矢理こじ開けるよりは、わかってる人が開けてくれた方がいいのは間違いない。
勿論、それは目の前の男が本当にゴレミを助けてくれるなら、ではあるが……
「なああんた。あんたがゴレミをこうした張本人なんだろ? なのに何で急に助けてくれることになったんだ?」
「うん? 助けるっていうのは違うかな? 僕は今でも、目的を忘れていない。君がイリスを……いや、君に合わせてゴレミと呼ぼう。ゴレミを助けるためにどんなことでもしようと考えているように、僕もまた目的のためならゴレミを消費することを躊躇わない。
でもね、別に僕はゴレミが嫌いなわけじゃないんだ。当たり前だろう? 自分が作った可愛い娘だ。愛していないはずがない。勿論ゴレミだけじゃなく、アルフィアやベリルや、その他の子達だって同じだ」
「だったら何で!? 何でこんなことを! あんたのその目的とやらのために、ゴレミが……ゴレミだけじゃなく、アルフィアさんだって苦しんだんじゃねーのか!?」
「今言っただろう? 一番大事なもののために、他の全てを犠牲にする覚悟がある、と」
「っ…………」
振り返りすらしない男の背中が、ほんの一瞬途轍もなく巨大に感じられた。計り知れないほど大きく重い言葉が、俺の意志を圧倒する。
「あんたは、一体……!?」
「……さ、これでいい」
男がそう呟くのとほぼ同時に、ゴレミの入っていた容器の一部がパカッと開く。それを見て男が数歩後ろに下がったので、俺は慌ててその空いたスペースに駆け込んだ。
「ゴレミ! 起きろ、ゴレミ!」
「……ううーん…………マスター?」
「そうだ! 俺だ! ローズもいるぞ!」
「そうなのじゃ! ここにいるのじゃ!」
「ローズ……マスター……え、じゃあゴレミは…………っ!」
大きく目を見開いたゴレミが、その腕を伸ばして俺に抱きついてくる。
「もう二度と……会えないと思ってたデス……っ! 次のゴレミが一緒だとわかっていても…………凄く凄く会いたかったのデス……っ!」
「馬鹿野郎! 次も代わりもあるもんか! お前はお前で……お前のいる場所はここだ! 勝手に飛び出すんじゃねーよ!」
「ゴレミは野郎じゃないのデス…………あとゴレミが飛び出したわけじゃないのデス……うっ、うぅぅ…………」
「知らねーよバカ! 本当にこの……馬鹿野郎が…………っ!」
「うわぁぁぁぁぁぁん! マスター! ローズ! また会えて嬉しいデス!」
「うぉぉ、ゴレビィィィィ! 妾も嬉しいのじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺とゴレミが正面から抱きしめ合い、そんなゴレミの背後にローズも抱きついて泣く。ようやく叶った本当の再会にひとしきり泣いて心を交わし合うと、落ち着いた俺達は改めて白衣の男達の方に向き直った。
「ふぅ、涙は出ないデスけど、一杯泣いちゃったデス……って、うわっ、アルフィア姉ちゃんがマスターボディでクネクネしてるデス!? それにまさかの父ちゃんまでいるデス!」
「私は別に好きでクネクネしているわけではありません。その男の嫌らしい手管で体を動けなくされてしまっただけです」
「マスター!? 何でゴレミには何もしないのに、アルフィア姉ちゃんには手を出してるデス!? ゴレミも骨抜きの腰砕けにされたいのデス! 黄色い朝日を眺めながら、コーヒーを飲みたいのデス!」
「手なんか出してねーよ!? てか何でアルフィアさんまで……くそっ、お前ら本当に姉妹だな」
「そこはかとなく蔑みを感じる表現なので、謝罪と訂正を要求します」
「そうデス! アルフィア姉ちゃんは割とポンコツなところがあるデスけど、ゴレミはいつだってしっかり者の妹なのデス!」
「事実と異なる発言がありました。イリス、訂正しなさい。謝った認知はエラーの元です」
「いやデスー! 姉ちゃんこそマスターや父ちゃんの前でそんな格好して、恥ずかしくないデス? 清楚なフリしてエロカワアピールとか、あざといにも程があるのデス! 魔改造フィギュアみたいになってるのデス!」
「何ですかその不穏な響きは!? データベース検索……くっ、該当するデータがありません。一体どこから知識を得ているのですか?」
「さあ? 自分が認知していない概念からすら無差別に情報を得られるのがゴレミの強みなのデス。出所なんてわからないのデス。
あ、でもここ一、二年は同じ場所から受信してる気がするデス。ファルシのルシがパージでコクーンなのデス!」
「訳がわかりません……」
「おぉぅ、ゴレミが絶好調なのじゃ」
「ははは、元気そうで何よりだな」
完全にいつも通りなゴレミの様子に、俺とローズは顔を見合わせ笑う。そしてこの仲良し姉妹の光景を好ましく眺めていたのは、俺達だけではない。
「ぷっ、あっはっは! 相変わらず君達は仲がいいねぇ」
白衣の男もまた、ゴレミとアルフィアさんのやりとりを見て笑い出した。だがそんな男の顔を見ると、ゴレミがこれ以上ないほどしょんぼりした顔で話しかける。
「あの、父ちゃん……ゴレミは……」
「いいよいいよ。こうなったのもまた、一つの運命だったってことだろう。それにゴレミを解放したのは、他の解決策が見つかりそうだからだしね」
「え、そうなんデス?」
「そうだよ。まあそれが上手くいかなかったらまた素材になってもらうかも知れないけど。ゴレミだって、彼女を今のままにしておきたくはないだろう?」
「それは勿論、そうなのデス! ゴレミだってあの子を助けたいという気持ちはあるのデス!」
「うんうん、それが聞ければ十分さ。それじゃ……」
力強く頷くゴレミの頭を撫でると、白衣の男が俺達の方に顔を向ける。
「改めて名乗ろう。僕の名前はエフメル・エーテリアス。たった一つの目的のためにこの子達を作り、ダンジョンを構築し、他にも色々やってきた……ただの人間だったモノさ」
そう言うと、エフメルは皮肉っぽい笑みを浮かべて肩をすくめた。





