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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
最終章 歯車男と約束の君

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似ている理由

「エラー、エラー……おかしい、あり得ない。何も悪いところがないのに、どうして体が動かないのですか……?」


「いや、それは俺に言われてもわかんねーけど……あれじゃねーの? 魂的な何かが動くのを拒否してるとか?」


「それこそあり得ません。私はゴーレム……ヒトの作った人工物でしかありません」


「つってもなぁ……」


 まず大前提として、俺は『約束の蒼穹(アーバロン)』を借りているだけなので、その機能とか効果とかをゴレミほど正確に把握しているわけではない。心とか魂とか、そういうのがある相手に射れば大体勝てるらしいという、大雑把な知識だけだ。


 加えて、アルフィアさんの体がどうなってるのかも全くわからん。少なくとも変身が解除されたらしいということは雰囲気で伝わってくるが、精々そのくらいだ。


 なので何がどう影響してそうなったのかは、むしろこの場で俺が一番わからないまである。いわゆる「わからないことがわかった!」というやつだ。


「はぁ、まあいいや」


 ということで俺は軽く息を吐くと、気合いを入れ直してからアルフィアさんに近寄り、その体を抱え上げる。


「何を!? 離しなさい!」


「む? クルトよ、アルフィア殿をどうするつもりなのじゃ?」


「ここに放置するのも気になるし、どうせならゴレミを助けるところを見届けてもらおうかなって」


「ふむ、そういうことなら妾も手伝う……と言いたいのじゃが、正直もう歩くだけで精一杯なのじゃ」


「ははは、無理すんなって。それじゃ行こうぜ」


「わかったのじゃ! ゴレミを助けにいくのじゃ!」


「待ちなさい! 私の話を聞くのです! 今すぐに離しなさい!」


「はいはい」


 騒ぐアルフィアさんをそのままに、俺達はゴレミの眠る魔導具の方へと近づいていく。腕の中が喧しいが、気にしない。


「ああ、またお尻を触られました。太ももを撫でる手つきも怪しいです。しかしここでは『きゃあ』と叫んでも社会的に抹殺することができません。このような屈辱を味わわされるとは……」


「……クルト?」


「…………」


 気にしない。気にしないのだ。あと絶対口にはできねーが、アルフィアさんの体が結構重くてキツい。


「ああ、プルプルと振動しています。これはまさか性的に興奮しているのでしょうか? あるいは私に刺激を与えようと……!?」


「…………クルト?」


「腕が痺れてんだよ……そう言えば、他の姉妹は全員性格違ったのに、アルフィアさんとベリルさんは妙に似てるよな?」


 重いと言えない代わりに、俺は別の話題を提供する。すると意外にもアルフィアさんが答えてくれた。


「妹達にはそれぞれオリジナルの人格データが構築されていますが、ベリルだけは私のデータの多くを流用したものだからでしょうね。当時は情報も資材も足りなかったため、一から人格を作り上げる余裕がなかったのです」


「ふむん? よくわからぬが、アルフィア殿とベリル殿だけは双子のような感じという意味なのじゃ?」


「正しくはありませんが、知識の無い人間が理解するならその程度でも問題ないと判断します。もっとも相応の時間が経過しているので、今の私とベリルでは大分違うと思いますが」


「ま、そりゃそうだよな」


 人の性格ってのは、何処に行って誰と会って何をしてきたかで変わるもんだ。たとえ双子だろうと環境が違えば別人みてーになるだろうし、ずっと一緒にいたとしても全く同じになるなんてことの方があり得ない。


 実際ベリルさんは俺達を認めて助けてくれたが、アルフィアさんは未だに「目的」とやらに拘ってるみてーだし。


「なあアルフィアさん。あんた達が言う『目的』って何なんだ?」


「私にはそれを説明する権限がありません」


 問う俺に、アルフィアさんがスッと表情を消して言う。素直に教えてくれると思ってたわけじゃねーが……ありゃ?


「権限がない? アルフィアさんって、ここで一番偉い人じゃねーの?」


「違います。確かに私は全てのダンジョンの管理権限を持っていますが、最上位の決定権は創造主様にあります。特にこの<魂の揺り籠(ソウルクレイドル)>内部の機構やそれに関連する情報などは、私の独断では半分も扱えません」


「創造主様……アルフィア殿やゴレミを作った者じゃな。というか、その言い方だとダンジョンも作ったのじゃ?」


「そうです。全ては創造主様のお作りになられたものです」


「マジか……」


 ダンジョンとかゴレミ達を作ったって、それもうどう考えても神様的なやつじゃん。ということは、ゴレミを助けてその目的とやらを邪魔しようとする俺は、神様の敵になったのか? うわぁ、考えたくねー。


「…………よし、それは一旦忘れよう。考えてもどうにもならねーだろうし」


「そうじゃな。浮かぶ姿が大きすぎて、笑い声すら出ないのじゃ」


 今の話が本当なら……まあ本当なんだろうが、そうすると創造主とやらは小さな異世界とでも言えるダンジョンを作り出し、そこに生息する魔物を支配し、人と変わらないようなゴーレムを生み出すこともできる存在となる。


 そんなもん個人でどうにかできるレベルではない。無事にゴレミを連れてダンジョンから脱出できたらフラム様に報告くらいはしたいと思っているが……まあ、あれだ。あとは偉い人に頑張ってもらえばいいだろう。俺は知らん。底辺探索者にこれ以上を求められても困る。


「ふぅ、ふぅ…………漸くついたか」


 と、そんな事を考えつつ歩き続けることしばし。どうにかゴレミの前までやってきた俺は、プルプル震える腕に最後の力を込めてアルフィアさんを下ろす。するとアルフィアさんは即座に立ち上がり……しかしすぐにその場にへたり込んでしまった。


「うぅ、まだ立てないとは……あのねっとりとした手つきに秘密が……?」


「秘密とか何もねーから! それはもういいんで、ゴレミを……あー、これどうすりゃいいんだ?」


 アルフィアさんから顔を逸らしてゴレミの入っている容器を見たが、どうやって開ければいいのか正直検討もつかない。


「そういえば、ローズが似たようなのに入ってた時は、ゴレミにぶっ壊してもらったんだよな……ならこれも壊したらいけるか?」


「駄目です! やめなさい! それは貴重な魔導具なのです!」


「妾も壊すのは辞めた方がいいと思うのじゃ。いくら中のゴレミが頑丈とはいえ、どんな影響が出るかわからぬのじゃ」


「む、そうか……」


 必死に叫ぶアルフィアさんのみならず、ローズにまでそう言われると壊すのは躊躇われる。


「でもじゃあ、どうすんだ? どっかに鍵穴とかありゃいいんだが……それともあれか? この辺にあるボタンを適当に押したらいけるか?


 なあアルフィアさん、あんたはこれの開け方知ってるよな?」


「勿論知っていますが、教えませんよ? こちらに多大な不利益を生じさせる侵入者に装置の使い方を教えるわけがありませんし……仮にそうでなかったとしても、許可を得ていない部外者に使い方を説明する権限が、私にはありません」


「ぬぅぅ……」


 ふいっと顔を背けるアルフィアさんに、俺はまたも唸り声をあげる。いやまあ、言ってることはその通りだから、反論の余地はねーんだが……ぐぬぬ。


「あーもう、仕方ねーな。それなら……あ、じゃあ繋がってる管を全部ぶった切って、とりあえず容器を取り外すってのはどうだ?」


「ふむん? 確かにゴレミの容器だけを隔離できるなら、壊すにしろこじ開けるにしろ影響は最小限に抑えられそうじゃな」


「駄目です! 駄目に決まっているでしょう! そんなことしたらただではおきませんよ!」


「ふにゃっふにゃで座り込んでる人に言われてもなぁ……よし、それじゃその方向でいくとして、さて俺の剣で斬れるか――」


「申し訳ないんだが、その提案は却下させてもらえないかい?」


「っ!?」


 不意に聞こえた、俺達ではない声。驚きながらも素早く剣を抜き、最大限の危機感を以て振り返ると……


「やぁ」


 そこに立っていたのはヨレヨレの白衣を身に纏い、無精ひげを生やすくたびれた中年男性であった。

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