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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
最終章 歯車男と約束の君

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それぞれの思惑

「「「排除」」」


「こいっ!」


 ゴレミの顔をした敵が、ゴレミの声でそう呟き、その手に持った武器で襲いかかってくる。だが俺はそれを容赦なく<筋力偏重(パワーシフト)>の剣で薙ぎ払い、ゴレミもどきのゴーレムが宙を舞う。


「ぐっ!?」

「ぎゃっ!?」

「ぐあっ!?」


「おぉぉ、クルトが容赦ないのじゃ!? 正直妾は、ちょっと攻撃するのに抵抗があるのじゃが……」


「おいおい、何言ってんだローズ。お前にはあれがゴレミに見えるのか?」


 軽く顔をしかめているローズに、俺は笑ってそう告げる。


「見えるかって、そりゃ見えるのじゃ。どうみたってゴレミそのものなのじゃ!」


「本当か? なら聞くが……ゴレミはあんな顔(・・・・)だったか?」


「えっ!?」


 驚いた様子で、ローズが改めてゴーレム軍団の顔を見る。ああ確かに、あれはゴレミの顔だろう。だが俺達の見ていたゴレミの顔はあれじゃない。


 泣いたり笑ったり怒ったり喜んだり……ゴレミはコロコロと表情の変わる奴だった。そこには確かな感情があり、だからこそ俺達はゴレミをゴレミだと……俺達と変わらない心を持つ存在だと自然に認識していたんだ。


 だが、目の前のこいつらは違う。彫り込まれた石の顔はピクリとも動かず、言葉を発しているというのに口元すら動きゃしない。確か表情を変えられるのは俺が「奉仕型」を選んだからだったはずだから、戦闘用であろうこいつらにはその機能がないんだろう。


 心のままに笑うゴレミと、命令通りに戦うだけのゴーレム。それが同じ? 断じて違う! 一〇〇万体のゴーレムのなかからだって、俺はゴレミを見つけられる! 何せゴレミなら、俺が変顔でもしてやれば我慢できずに吹き出すはずだからな!


「……確かに、妾の目が曇っていたのじゃ。これがゴレミだというのなら、人の形をしているからという理由でクルトとお猿を同じにするようなものなのじゃ」


「え、何でそのたとえ? まあでも、そういうことだ。だから遠慮すんな!」


「無論なのじゃ! 妾の本気、見せてやるのじゃ!」


 やる気になったローズの体から、赤い燐光が巻き上がる。おっとこれは……ローズもなかなかに頭にきているようだ。他にもいくつか候補はあったのに、まさかこれを選ぶとはな。


「果敢に燃えるは火禍(かか)(はな)火塵(かじん)に還るは過日(かじつ)の果実! 実りて弾けて燃やして絶やせ! <咲き(フロル・)狂う(クラル・)災禍の(ザイード・)薔薇(ローゼスタ)>!」


「うひょぉぉぉ!」


 俺が最速でローズの隣にピッタリと寄り添った瞬間、俺達を中心として一輪の巨大な薔薇が咲いた。はらりと落ちた花弁が実となり、その実が即座に花となり、その花びらがまた実となって……それが一定数を超えた瞬間、実が弾けて世界を光と熱が埋め尽くす。


 これぞ今のローズが使える最強の魔法。近距離(・・・)広範囲の全てを焼き尽くす無差別大量破壊魔法である。なお仲間を識別するような便利能力はないので、ローズから離れた瞬間俺も燃え尽きると思う。試したことはねーが、試そうとは微塵も思わない。


「ふぅ、ふぅ、やってやったのじゃ……」


「お疲れさん、ローズ。後は任せろ」


 光が収まった後、俺達の周囲一〇〇メートルには何もない。石すら蒸発(・・)させる超高温は、しかし魔法の産物であるせいか効果が終わればすぐに霧散し、今はもう熱くない。


 なので俺はほとんどの魔力を使い果たしたであろうローズに声をかけてから、残る敵を排除すべく剣を構える。


「へへへ、包囲殲滅は戦術の基本だが、それが仇になったな。そっちの手札は大分削れたけど、どうする?」


『問題ありません。アドミニストレーター権限でコマンドを発動。ガーディアンゴーレムを追加展開』


 ニヤリと笑う俺達の側に、今倒したばかりのゴーレムが再び出現する。数は……さっきまでと同じくらい、か?


「えぇ? そんなのありかよ……流石はダンジョン、理不尽だな!」


 ならローズの頑張りは無駄だったか? そんなわけがない。これは単に、次は俺が気合いを入れる番ってだけのことだ。


「<歯車連結(ギアコネクト)>、<全能力強化(フルブースト)>!」


 出し惜しみはなしで、全力投入。一度休んだら三日は体が動かなくなりそうだが、先のことなど気にしない。再び攻めかかってくるゴーレム達を、俺は今度も迎え撃つ。


「ていっ!」

「やぁっ!」


「ははは、何だよ。動きが随分画一的だな? 読みやすくて助かるぜ!」


「「「ギャア!」」」


「ほら、次はそこだ! 置いとくだけで斬れちまうぜ!」


 訓練された軍人のように一糸乱れぬ統一された動き。だがそれは今の俺にとって、次に自分達がどう動くかを教えてくれているのに等しい。


 加えて、ゴーレムの体はそれほど丈夫じゃない。いや、勿論石ってのは相応に硬いんだが、ドラゴンの鱗みたいに「硬いけど柔らかい」という訳のわからん特性があるわけじゃねーから、一定以上の切れ味を出せるならむしろ斬りやすい部類に入るのだ。所詮は石だしな。


「どうしたどうした? さっきも今も、数で押すだけじゃねーか! そんなんじゃいつまで経っても俺達は倒せねーぞ?」


 倒しても倒しても追加投入され、敵の数は減った感じがない。だがこの世に無限のものなんて存在しないはずだ。倒せば倒すだけこっちに天秤が傾くはずだし……何より俺達だって、黙ってすり潰されていくつもりはない。


(……ローズ、どうだ?)


(あと一分あればいけるのじゃ)


 小声で話しかけた俺に、ローズがこそっと答えてくれる。


 ダンジョンで見つけた魔導具のなかに、装着者の魔力を常時回復してくれるというネックレスがあった。ゴレミ曰く「これは固定値じゃなく、割合回復なのデス! 普通の魔法士だとショボい効果デスけど、ローズが使うなら破格なのデス!」とのことで、それを身につけているローズの魔力は、今も回復し続けている。


 故に、これは計略。派手な魔法を使ってローズの魔力が枯渇したと見せかけ、裏でこっそり回復し続ける魔力をつぎ込み、一気にゴレミのところに続く道を作り上げる作戦。二年も一緒に戦い続けたローズだからこそ、言わずとも通じる打開の一手。


 向こうも向こうで俺達を足止めしているつもりなのかも知れねーが、こっちだって黙って時間を稼がれているわけじゃねーってわけだ。


(ゴレミを助ける手段も問題だが、そもそも近づけなきゃ話にならねー。次の一発で一気にあそこまで駈けよって、それから――)


『……対象の脅威度を修正。「くらやみのしずく」の保管庫を抜けてきたのは伊達ではないということですか。ならばこちらも相応の相手を用意しましょう。


 アドミニストレーター権限でコマンドを発動。対外脅威対策用自立可動型ゴーレム・ベリルを強制転移』


「なっ!? ベリルさんを!?」


 その言葉に、俺は驚いて身構える。さっき俺達がベリルさんに勝てたのは、俺の隠し札が通ったからだ。<強制挿入(イリーガルムーブ)>の存在を知られている以上、まともにやって勝つのは不可能……とまでは言わねーにしても、相当に難しい。


(やれるか? いや、やるしかねぇ!)


 大量のゴレミもどきゴーレムが消え去り、代わりに淡い光を放つ魔法陣が一つ、俺達の前に現れる。


 狙うのは一瞬。ベリルさんがここに出現した瞬間に……決める!


「……………………えっ!?」


「ここだ…………っ!?」


 人影が結実し、それを狙って剣を振るい……しかしその剣がピタッと止まる。


「きゃ、キャーッ!」


 そこにいたのは黄色い悲鳴をあげ、動かない体で必死に身を隠そうとする全裸のベリルさんであった。

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