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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第一章 歯車男と石娘

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もう一歩を踏み出す準備

 その後の事を、軽く話そう。まずはダンジョンを出てすぐ、ゴレミを連れてリエラさんのところに顔を出した時だ。ゴレミの復活にリエラさんは驚き戸惑い、だが大喜びして抱き合いながら二人は再会を喜んで…………何故か俺をその場に残し、二人だけで奥の部屋へと行ってしまった。


 その後小一時間ほどして戻ってきた二人が、これ以上ないほどにニッコニコの笑顔で俺を見つめてきたが、俺はそれに一切触れずにその場を乗り切る。触ったら火傷どころか爆発しそうな見えてる罠に手を伸ばすほど、俺は愚か者ではないのだ。


 それと、もらってすぐに武器を壊してしまった気まずさからずっと顔を出していなかったヨーギさんのところにも、ゴレミに諭されて改めて出向いた。秒で土下座する俺に対し、「雑に扱ってぶっ壊したならともかく、戦闘中に壊れちまったならこっちの落ち度さね」と逆にヨーギさんに謝られてしまったり、俺が歯車の剣を使ったときのことを説明したら「新しい着想(アイディア)が沸いてきたよぉ!」と叫んで仕事場に行ってしまったので、後日また様子を見に来ることにして、その場は苦笑しながら店を後にしている。


 あー、それと、ダンジョンに入る前の広間的なところで、数日ぶりに復帰した……周囲には体調不良で休んでいると伝えていた……ゴレミを見て、声をかけてきてくれる人が割といた。


 俺は遠巻きに見られるばっかりでそんなことなかったのに、何故に……とダンジョン内で漏らしたら、ゴレミに「それはマスターが辛気くさいオーラをプンプン漂わせていたからデス!」と呆れられてしまった。


 曰く、当時の俺は「床に落として割っちゃった花瓶の破片をそのまま積み上げてみたら奇跡的に元の形になったけど、これ触るどころか息がかかるだけで崩れるよね?」という感じで、とても声などかけられなかったらしい。何だそのたとえ……と思わなくもなかったが、そう言われたならそうだったんだろう。ま、過ぎたことだから別にもういいしな。


 ということで、あれから一〇日ほど。俺達はすっかり元の日常を取り戻し、今日も元気に<底なし穴(アンダーアビス)>の第四層でムカデとゴブリンを狩っていた。


「いけ、歯車バイト!」


キュォォ……ブチブチブチブチッ!


 俺の放った必殺技で、ジャイアントセンチピードの足が気持ちいいくらいの勢いで千切れ飛んでいく。そうしてのたくるだけになった虫の頭部を切り落とせば、今回も危なげなく戦闘は終了となった。


「ふーっ、やっぱり一対一なら普通に勝てるな」


「お疲れ様デス、マスター」


「おう、ありがとな」


 今回もゴブリンを押さえて……というかサクッと瞬殺してくれたゴレミが、一仕事終えた俺にねぎらいの言葉をかけてくれる。


「このペースなら、借金も何とかなりそうだな」


「飲む打つ買うは男の甲斐性デスが、ゴレミがいない間に借金まみれになっちゃうのはやりすぎデス! でもゴレミは駄目男なマスターも好きデスよ?」


「誰が駄目男だよ! ったく……」


 その物言いは甚だ不本意だが、俺が借金まみれになっているのは事実。言い返せる言葉もなく、俺は不貞腐れた感じで捨て台詞を吐く。


 もっとも、それはくだらないことに意識を裂けるくらい状況が改善しているということでもある。数日前より格段に危険な場所を雑談混じりで歩いているというのに、俺の中にあるのは適度な緊張と十分な余裕、そして何より「楽しい」と思える気持ちすらある。一ヶ月前なら当たり前だが、一〇日前なら考えられなかった心境だ。


 はっきり言って、今の俺はかなり調子がいい。なのでここいらでもう一つ階段を降りて(・・・)みたいところだが……


「うーん……」


「? どうしたデスか、マスター?」


「いや、このところ調子がいいから、そろそろ第五層に降りることを視野に入れたい感じなんだが……ちょっと決め手に欠けるというかな」


「なるほどー。ちなみに第五層には、どんな魔物がいるんデスか?」


「ん? 五層に降りるとゴブリンはグッと出なくなる代わりに、ジャイアントセンチピードが複数……最大で三匹まで同時に出る感じだな。てか、お前そういうのわかるんじゃねーの? この前ダンジョンコアに全部記録されてるとか言ってなかったか?」


「ダンジョンコアには書き込まれてるデスけど、だからってゴレミが知ってるわけじゃないデス。ゴレミが知ってるのは、精々マスターの……あ、これはリエラとの秘密でした!」


「おい待て、何だよリエラさんとの秘密って。てかお前とリエラさんの秘密なのに、何で俺の名前が出てくるわけ?」


「それは勿論、秘密デス!」


「……あー、そっすか」


 如何にも聞いて欲しそうな顔をするゴレミに、俺はあえて素っ気なく言ってそっぽを向く。ものすげー気になるけど、聞いたら聞いたで絶対にイラつくことになるやつだからな。


「ぶー、マスターはノリが悪いデス……まあそれはそれとして、デカムカデ三匹は流石にキツくないデスか? ゴレミが全部倒しちゃうならどうにでもなるデスけど、今のマスターだと二匹同時の時点で無理なのでは?」


「まあな。歯車バイトが上手く決まりゃいけるとは思うけど、そんな上振れを期待して連戦し続けるのは違うし。だから俺としても、もう一つ実力をあげたいわけなんだが……」


 言って、俺は自分の右手をジッと見つめる。ジャッカルと戦った時に使えた力は、未だに俺の中で形にならない。勿論スキルの成長なんてそうポンポン起こるものでもねーから焦ったりしているわけじゃねーが、それでも辿り着く場所がわかっているだけに、何ともいえないモヤモヤがずっと俺の中に残り続けている。


「例の体の中の歯車を回すってやつデス?」


「そうだ。でもどうも感覚が掴めねーっていうか、今ひとつこうピンとこないっていうか……」


「フムフム。これはゴレミの個人的な考えなのデスが、その能力はマスターとは相性が悪いんじゃないデスか?」


「相性? いやでも、俺のスキルだぞ? 相性なんてあるのか?」


 持っているスキルとは違うことをやろうとして上達しないなら、相性が悪いってこともあるだろう。だが自分の持っているスキルを成長させるのに、相性が悪いって何だ? そう首を傾げる俺に、ゴレミがチッチッと口の前で指を振ってみせる。


「甘いデス! マスターは以前、リエラに昔の<歯車>スキルを持ってる人の話を聞いて、違うって叫んでたのを覚えてるデスか?」


「んー? ああ、そう言えばそんなこともあったな」


 俺は歯車を投げて使っていたが、あの資料のなかでは歯車は力を伝達する手段として使われていた。だから……んん?


「気づいたデスか? 同じ<歯車>のスキルでも、マスターは歯車を物質化し、それを活用する方向にばっかり成長させてるデス。でも今マスターが使おうとしているのは、歯車を概念的なものとして捉える方デス。それは今までマスターが積み重ねてきた<歯車>スキルの成長方向とは全然別の能力なのデス!」


「おぉぉ……確かに。でもじゃあ、何であの時は使えたんだ?」


「他にどうしようもないくらい追い詰められていて、死ぬほど必死だったからじゃないデスか? 多分同じくらい……それこそゴレミの魅惑のボディから目をそらすくらいの意志力がないと、発動できないと思うデス」


「それなら余裕のはずなんだがなぁ……」


「ちらっ」


「……余裕のはずなんだがなぁ」


 これ見よがしにミニスカを翻すゴレミから鋼の意思で目をそらし……今更だけど、メイド服なのにスカート短いって何なんだよ……俺は再び自分の手を見つめる。するとスカートをヒラヒラし飽きたゴレミが、徐に俺に話しかけてきた。


「マスターがお望みなら、ゴレミはいつだって見せてあげるデスのに……そういうことなら、ゴレミで練習してみるデスか?」


「しねーよ! てか石像と何しろってんだよ!」


「そうじゃなくて、スキルの練習デス。ほら、ゴレミの体の中には物理的に歯車が詰まってるデスから、こっちの方がやりやすいんじゃないデス?」


「ぐっ!? そっちか……いや、確かにそれはそうかも?」


 言われてみれば、そうかも知れない。改めて俺が顔を向けると、ゴレミがここぞとばかりにスカートを閃かせたので、とりあえず俺はその頭をひっぱたいておいた。

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