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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
最終章 歯車男と約束の君

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譲れない願い

「チッ、邪魔くせぇ! 歯車バイト!」


「ギャァァァァ!?」


 ローズの炎の歯車は強力だが、それでも無敵ってわけじゃない。たまに炎を無効化する魔物や、素早さ重視で燃える前にこっちに突っ込んでくる魔物なんかもいるんだが、そういう奴には俺の特製噛みつき歯車をプレゼントだ。足の小指を挟まれて悶絶するがいい、フハハハハ!


「どうだローズ、まだ平気か?」


「うむ。魔力はまだ半分くらい残っているのじゃ」


「そうか。あんまり無理すんなよ。辿り着けば終わりってわけじゃねーだろうからな」


「わかっておるのじゃ。妾だって皆と一緒にここまで戦い抜いてきたのじゃぞ?」


「そりゃそうだ」


 魔法に集中してもらうため背負ったローズに話しかけつつ、俺はひたすら黒い世界を駆け抜ける。この炎の歯車の魔法は威力は絶大なれど、ローズであっても結構な消耗をするらしいからな。


 勿論俺だって楽じゃねーが、そこは能力強化してるからな。明日のことを考えないならまだまだいけるし、たとえ駄目そうでもここは踏ん張り所。走って走って走り抜いて……遂に視界の先の色が変わる。


「お、あの先なんか白くねーか?」


「そうじゃな。ならば……フンッ!」


 ローズが気合いを込めると、前方で回っていた炎の歯車が一気に加速し、黒い世界を切り裂いていく。だが無数の魔物をなぎ倒していたそれが、突然フッと消失した。


「消えた!? ローズ、どういうことだ!?」


「わからんのじゃ! 魔法がかき消された感じなのじゃ」


「なら多分、そこが境目(・・)だよな……よし、こっちもラストスパートだ!」


 こじ開けられた道がふさがる前に、俺も全力で走り出す。するとすぐに線を引いたかのようにはっきりとした白と黒の境界線が見えてきて……


「頼むぜ……ていっ!」


 壁があっても突き破る。そのくらいの覚悟と気合いを込めて飛び込むと、幸いにも俺達の体はスルリと白い世界に入り込むことが許された。だが背後ではバチッとかジュワッという感じの音がして……どうやら黒い魔物はこっちに来られないらしい。


「ふぅ、切り抜けたか。てか、奴らはこっちに来られねーみてーだな」


「そうじゃな。まあこれほど明確に分かれているのじゃから、そういう仕様なんじゃろ」


「だな。正直助かったぜ」


 背負っていたローズを降ろし、まずは一息。だがここはあくまで中継地点であり、目的地じゃない。油断することなく周囲を見回し……俺の視線が一点に吸い付けられる。


「クルトよ、ゴレミはあそこにおるのじゃ?」


「多分な」


 白い世界に聳え立つ、灰色の巨大な木。俺の中にある繋がりが、ゴレミがあそこにいると訴えかけてくる。


 というか、あんな目立つ場所にいなかったらそっちの方がビックリだ。特に目印などもない白い地平の何処かにぽつんと寝転がってるとかだったら、割と本気でお手上げである。


「よし、行くか。まだ敵地だから、気を抜くなよ?」


「当然なのじゃ。ゴレミが『家に帰るまでが探索なのデス』と言っておったのじゃ! じゃからゴレミも一緒に家に帰るのじゃ!」


「…………そうだな」


 家は決して、生まれた場所ってだけの意味じゃない。俺もローズもゴレミも産まれた場所は違うが、今の俺達の家は……きっと適当な宿の一室だ。


 全員で帰る場所こそが家。そう考えて気合いを入れ直すと、俺達は謎の大木に向かって移動を開始する。すると少しずつ大木が近くなっていき、その詳細……あるいは正体が見えてくる。


「色が変だとは思ってたけど、木じゃねーのか?」


「巨大な魔導具なのじゃ」


 灰色の大木は、曲がりくねり大小太細入り交じった管の集合体であった。金属の管のなかをドクドクと光る何かが通り過ぎていき、まるで生きているかのように見える。


「これは……『創生の器』に近い感じなのじゃ?」


「ああ、そうか! どっかで見たことあるような気がしてたんだが、なるほど」


 ローズに言われて、俺は既視感の正体に思い当たる。規模は桁違いだが、雰囲気は確かにオーバードの地下で見た「創生の器」のようだ。


「ってことは、どっかにゴレミが入ってる容器が…………あれか!」


 まだまだ遠くにある大木……ならぬ巨大な魔導具。その複雑怪奇に入り組んだ表面に必死に目をこらすと、幹の部分に埋め込まれた容器のなかに、ゴレミの姿を見つけることができた。


「ゴレミ! おいゴレミ! ……チッ、流石にこの距離じゃ無理か」


「早く近づくのじゃ!」


 遂にゴレミを見つけたことで、俺達は再び走り出す。だが半分ほど近づいたところで、俺達の頭上から声が響いてきた。


『止まりなさい、侵入者(イントルーダー)


「っ!? 何処から!?」


「クルトよ! あれを見るのじゃ!」


「うん? 何が…………おぉぉ!?」


 ローズの指差す方向を見上げると、無数の管が蠢いているところが人の顔っぽく見えてくる。そしてそれが錯覚ではないと後付けするように、管が動いてはっきりわかるほどに人の顔へと変貌していく。


『許可なき者がこの先に立ち入ることはできません。今すぐに引き返しなさい』


「押しかけたのは悪いと思うんだが、こっちにも事情があるんだよ。ゴレミを……俺の仲間を返してくれ」


『ゴレミ? ゴレミ……データベース照会。該当する人名が存在しません。ダンジョン内部で死亡、あるいは別離した人間の挑戦者だと推定。


 残念ですが、死者を復活させることはできません。今すぐに引き返しなさい』


「いやいや、そうじゃねーよ! ゴレミ……そこに入ってるゴーレムだよ!」


『データベース再照合……当該人物を外部情報収集用自立可動型ゴーレム・イリスの契約者と断定。


 イリスの所有権は我等にあり、挑戦者との契約は贈与ではなく貸与となります。なので貴方にイリスを返却する理由はありません。もしも改めてイリスの貸与を求めるのであれば、フォーマット終了後に再配置されるイリスを正規の手段で発見してください』


「だーかーらー! そうじゃねーんだよ! 契約なんて知らねーし、次のゴレミなんてもんはねーんだよ!


 俺は今! そこにいる! 俺達がずっと一緒に旅をしてきた仲間を迎えにきたんだ! 次はねぇ! 他も、別もありゃしねーんだ! とにかく絶対返してもらう!」


『……当該人物の認識を侵入者(イントルーダー)から強盗(ロベリー)へと変更。警告を中止し、実力行使にて排除を実行します』


「チッ、やっぱりこうなんのかよ!」


「クルトは交渉が下手くそなのじゃ! 交渉術がしょぼくれなのじゃ!」


「ヒデー言われようだな!?」


 無慈悲な批判を一身に浴びつつ、俺は剣を抜いて身構える。すると目の前の大木っぽい魔導具が激しく蠢き、管やら何やらの配置が両腕を広げ指を垂らしたような見た目になる。


『アドミニストレーター権限でコマンドを発動。ガーディアンゴーレム、展開開始』


 瞬間、俺達とゴレミが眠る大木の間に数え切れないほどの小さな魔法陣が出現する。そこから姿を現したのは……ゴレミ!?


「ぬぉぉ、ゴレミが一杯出てきたのじゃ!?」


「おいおい、これは流石に趣味が悪すぎねーか? 割と本気で吐き気がするやり口なんだが?」


『強盗の心情に対し、配慮する必要性を感じません。またこれらは規格化された量産可能なボディであり、それ以上の意味をもちません』


「あーそうかよ! ならこっちも遠慮無くやらせてもらうぜ! あー……一応聞くんだが、あんた名前とかあるのか?」


『私は統括管理用自立可動型ゴーレム・アルフィアです』


「たじ……えっと……アルフィアだな! とにかくあんたをぶっ飛ばして、ゴレミは連れ帰らせてもらう!」


「ゴレミは返してもらうのじゃ! アルフィア殿、覚悟!」


『排除開始』


 ゴレミそっくりのゴーレム軍団と俺達の戦いの火蓋が、今切って落とされた。

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