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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
最終章 歯車男と約束の君

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唯一無二

「む? 今度はまた暗い……いや、黒い、か?」


 渦を抜けた先にあったのは、再び真っ暗な空間だった。ただ光源がないのに自分やローズの姿ははっきりと見えるので、やはりここもダンジョン内なんだろう。


「見えなくて困ることがないのは幸いじゃが……これは何処を目指せばよいのじゃ?」


「さあな。うーん、とりあえずまっすぐ――」


『<魂の揺り籠(ソウルクレイドル)>内部に、侵入者を検知。対象を排除するため、最高濃度(・・・・)で「くらやみのしずく」を投下します』


「む? この声は……」


「うわ、スゲー嫌な予感が……うぉぉぉぉ!?!?!?」


 <原初の星闇(コスモギア)>以外で黒い魔物に襲われた時、いつもこの声が聞こえていた。なので俺達が身構えると、途端に周囲の闇全てが蠢き、黒かった世界に白い光が生まれる。


「「「グォォォォォォォォ!!!」」」


「え、嘘だろ!? 黒かったわけじゃなくて、周囲全部があの黒い雫だったってことか!?」


「とんでもない数なのじゃ!」


 雄叫びと共に現れたのは、ありとあらゆる魔物の群れ。天を仰ぐほどでかい奴からよく見なきゃ気づけねーほど小さいやつまで、見覚えがあるのもないのもとにかく全部だ。無限に広がる黒い世界に白い背景を生み出しながら、数え切れない程の魔物が雲霞の如く俺達目がけて押し寄せてくる。


「ははは、ここまでくると逆に壮観だな! だが……」


「ここで負けてやるわけにはいかぬのじゃ!」


 俺はローズと背中を合わせ、ニヤリと笑って剣を構える。ローズが周囲に展開したフレアトラップにより近づいてくる魔物のほとんどは燃え尽きるので、俺はそれを通り過ぎて来た残りを斬り伏せるだけの簡単なお仕事だ。


 五分、一〇分。昼寝でもしていればあっという間の時間が、猛烈に長い。だがそれだけ戦い続けてもなお魔物の群れは途切れず……そして俺達の力も終わらない。俺一人ならとっくに魔力切れで動けなくなっているところだが、時々背中を合わせることでローズから魔力を受け取っているのだ。


「ふぅ……のうクルトよ、これはいつまで続くのじゃ?」


「さあな。全部倒せばいいのか、それとも無視して移動するべきか。せめて目指す方向がわかれば違うんだが……」


 さっきからゴレミと歯車を繋げようとしているんだが、どうにも上手くいかない。それほど距離が離れてるのか、あるいは何かが妨げになってるのか……もうワンクッション、繋がるための何かが欲しい。


 何か、何かねーか? 俺とゴレミじゃなく、その間に挟まっているダンジョン要素をどうにかできる何かが…………


ブンッ


「うおっ!?」


 その時、突然俺の目の前に青い板きれが出現した。こいつは<天啓の窓>? 何でいきなり……って、まさか!?


「お前ひょっとして、ボドミか!?」


 俺がその名を呼ぶと、板きれの向こう側から「誰がボドミよっ!」という声が聞こえた気がした。が、そんな幻聴に惑わされず板を見つめると、その中央には「接続」と書かれた文字が燦然と輝いている。


「何だ、押せばいいのか? 押していいんだよな? 押すぞ!」


 一応そう叫んでから、俺は徐に指先で文字に触れる。するとザザッと画面にノイズが走り……その向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


『……あれ? デーラ姉ちゃんデス……?』


「ゴレミ!? おいゴレミ、聞こえるか!」


『マスター!? 何でマスターがここに……え、これどういうことデス!?』


「どうもこうもあるか! お前こそ勝手にいなくなって、どういうことだよ!」


『それは……ごめんなさいデス。でもゴレミとしても、まさかいきなり連れて行かれるとは思っていなかったのデス。もうちょっと段階を踏むというか、説明があったうえで移動になると思ってたデス』


「お、おぅ、そうなのか……いやでも、お前が自殺しにダンジョンの最奥に来たがってたなんて知らなかったんだぞ! どうして言わなかった!」


『え? 別に死ぬつもりはないデスよ? 確かに今のゴレミはいなくなるデスけど、次のゴレミがマスターと一緒にいるはずなのデス』


「……?」


『何か話が噛み合わないのデス。マスター、ベリル姉ちゃんからダンジョン踏破の報酬をもらわなかったデス?』


「あ、ああ。くれたけど……でも、お前の情報を聞いたり、お前を助けに行く権利に交換しちゃったっていうか……」


『えぇぇー!? あの報酬のなかには、ゴレミの全データをコピーしたコアと、新しいボディが入っていたはずデス! それを受け取れば、今までと同じように一緒にいられたはずなのデス!』


「はぁ!?」


 ゴレミの衝撃の告白に、俺は一瞬頭の中が真っ白になる。ならあの時黙って報酬を受け取っておけば、俺達はごく普通に地上に戻って、同じように生活を――


「……………………いや、違うだろ」


『マスター?』


「確かにそれなら、俺達はゴレミと一緒にいられたんだろうさ。でもそれはお前じゃないだろ?」


『えっと……ゴレミはゴーレムデスから、データをコピーしたら同じになると思うデスよ?』


「じゃあ、今のお前はなんだ。別のゴレミが俺達と幸せに過ごすなか、こうして話しているお前はどうなる?」


『それは…………』


「……俺は馬鹿だからさ、記憶をコピーしたら同じになるとか、そういうのはよくわかんねーんだ。


 ただこれだけは言える。俺が、俺達がずっと一緒に探索してきたのはゴレミ、お前(・・)だ。他の誰かじゃない。たとえ全てが同じだったとしても、お前はお前しかいない」


 ゴレミはかつて一度、ジャッカルに(ころ)されている。その後再会することはできたが、果たしてそれは同じゴレミであるのか? その答えは、今も俺にはわからない。


 だがあの日、俺の無力でゴレミがやられたことを、俺は一度だって忘れたことはない。同じ事は二度と繰り返させないと、何度だって心に誓った。


 そっくりそのまま同じものを用意したから、片方は失われてもいいなんて話はない。幸せな自分を見送って、一人泣いているゴレミなんてもんが存在することを、俺は絶対に認めない! だから……


「だから俺は、お前を迎えに来たんだ! なあゴレミ、帰ってこい! お前の我が儘を聞いてこんなところまで連れてきてやったんだから、今度は俺の我が儘を聞け!


 お前の終わりはこんなところじゃない! 俺が死ぬまで、俺の隣でアホなことを言い続けろ! お前が、お前だけが、お前こそが……俺の一番大事な相棒(ゴレミ)なんだよ!」


『マスター…………』


 俺の魂の叫びに、ゴレミが言葉を失う。そうしてしばしの無言の後、<天啓の窓>の向こう側からすすり泣くような声が聞こえる。


『マスター……ゴレミも、ゴレミもマスターやローズと一緒にいたいデス。自分の役目はわかってるデスけど、それでもここでこのまま消えてしまうのは、凄く凄く寂しいのデス。だから……


 お願いデス、ゴレミを助けて欲しいデス』


「任せろ!」


 世界の果てまで届くように、俺は大声でそう叫ぶ。すると<天啓の窓>を通じて、俺とゴレミが繋がる感覚が蘇る。なるほど、あっちか!


「ローズ! 方角がわかった! 一気に突っ走るぞ!」


「わかったのじゃ! ならば……クルトよ、久々に妾を廻すのじゃ!」


「お、やるか?」


 決して魔物を近寄らせぬため、ローズが一時的にフレアトラップの出力をあげる。おかげでこっちも大分暑いが、俺はそれを気にせず背後から覆い被さるようにローズを抱きしめる。これはこれで誤解を生みそうなポーズだが、スカートのなかに頭を突っ込むよりは万倍いいだろう。


 そして待つこと、わずかに五秒。大きく目を見開いたローズが、高らかに魔法の名を口にした。


「我等の道をこじ開けるのじゃ! <バーニング(フラム・)歯車(ギルデム・)スプラッシュ(ストラーダ)>!」


 歯車のように渦巻く炎の塊が、ゴレミのいるであろう方向に向かって猛然と転がっていく。すると当然その進路上にある魔物が燃え尽き、周囲の魔物もまた熱から逃げようと距離を取る。


「さあ、道はできたのじゃ! 行くのじゃ!」


「おう!」


 焦げるような熱い道を、焦がすような熱い想いを抱えて俺達は走り出した。

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