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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
最終章 歯車男と約束の君

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旅の結末

 かつて死闘を演じた敵を、「それほど強くねーな?」と感じるほどにまでなった俺達の探索は、その後もずっとずっと続いていった。


 まず二〇層を超えたことで、ダンジョンの床に特殊な罠……というか、仕掛け? が出現するようになった。具体的には踏むと色が変わって、全部の床の色を揃えると先に続く道が出現するとか、そういうのだ。


 他にも乗るとその方向に合わせてツーッと床が動く……床に乗った俺達じゃなく、床そのものが滑る……とか、踏むと強制転移させられる床なんかもあったな。幸いにしてこのダンジョンには壁がなく、転移先も仲間が見える場所だったので声を掛け合いながら進むことで何とかなったが……うん、あれは大変だった。


 これらの床罠の凶悪なところは、絶対に回避できないことだ。何せ罠の範囲が床全体だからな。助走つけて三メートルの幅跳びを成功させれば超えられる可能性はあるが、そんな事して次の床にも罠があったら目も当てられない。


 なので俺達は丁寧に時間をかけて全ての罠を踏破していったわけだが……それが許されたのは、腕輪の力で食料という名の制限時間が存在しないからだ。もしそうでなかったら、危険ではないが手間のかかるこれらの仕掛けは俺達の「余裕」を削り取り、その後の様々な活動に支障がでたことだろう。


 まあ逆に言うと俺達には半ば無制限みたいな余裕があったから、ローズなんかは「これは面白いのじゃ! またやりたいのじゃ!」とかはしゃいでたけどな。


 ああ、勿論増えたのは罠だけじゃない。魔物も……そして何より、三〇層を超えた辺りから、宝箱の出現率が明らかに増えた。これはゴレミ曰く「この辺まで辿り着いたのは多分ゴレミ達が初めてなのデス。だからこの先は全部の宝箱が残っているのデス! 一九八〇クレドポッキリで開け放題なのデス!」とのことだった。


 何故金を取るのかは知らねーが……というか実際に取られたわけじゃなく、いつものやつだったが……宝箱が大量に見つかるというのはテンションがあがるし、実利も大きい。これも普通なら限られた鍵をどれに使うか考えたり、あるいは罠の解除に神経をすり減らしたりするんだろうが、俺達には鍵の剣と<歯車>のスキルがあるからな。迷わず全開け、実に素晴らしい。


 順調だった。ダンジョン内の全てが噛み合い、俺達はどんどん先に進めた。進みすぎて敵が強かったら、一旦戻って鍛え直す余裕すらあった。


 恵まれていた。恵まれすぎていた。だがその歩みが、遂に止まる時がくる。<原初の星闇(コスモギア)>、第九九層。そこに広がっていたのは……白い虚無であった。





「おぉぅ!? 何だこりゃ……?」


 階段を降りて一歩足を踏み出した瞬間、周囲の景色が突然切り替わった。一面にはいつもの床が地平の果てまでミッチリと敷き詰められており、これまで星空のようだった周囲の景色も真っ白に変わっている。


「この変わりよう……まさかここがダンジョンの最奥なのじゃ?」


「そうデス。ここが――」


「ようこそ挑戦者(チャレンジャー)よ」


「っ!?」


 突如聞こえた声に、俺は慌てて振り返る。するとそこには見覚えのある顔をした女性が、床の上三〇センチほどにフワフワと浮いていた。


「ベリルさん!? 何でこんなところに……あーいや、むしろいる方が自然、なのか?」


 驚きはしたものの、ベリルさんはゴレミの姉……つまりダンジョン関係者(むこうがわ)だ。ならここにいても何の不思議もない。そしてそんな俺の内心など気にした様子もなく、ベリルさんは淡々と言葉を続けていく。


「貴方達は見事にこの<原初の星闇(コスモギア)>を踏破しました。その活躍を認め、これを与えます。受け取りなさい」


 そう言ってベリルさんがパチンと指を鳴らすと、床から虹色に輝く宝箱が二つ現れる。見た目からしてスゲー中身が入ってそうだが……


「…………」


「? どうしました?」


「あ、いえ、もっとこう、最後は凄い魔物が待ってるとかだと思ってたんで、ちょっと拍子抜けしたというか……」


「なら戦いますか? 強敵との戦闘を望むなら、そういう報酬にすることもできますが」


「いやいやいやいや、これでいいです! むしろこれがいいです! 宝箱最高!」


 物騒な提案をしてくるベリルさんに、俺は慌ててそう告げた。危ない危ない、俺は強敵との戦いに喜びを見いだすような戦闘民族じゃねーから、そんなのに報酬を変えられたら泣いて崩れ落ちるところだ。


「まったく何をやっておるのじゃクルトは……にしても二つか。ゴレミの分はないのじゃな」


「一応関係者枠だろうしなぁ。どうするか考えるにしても、まずは中身を確認してみようぜ。なあゴレミ……ゴレミ?」


 宝箱に歩み寄りながら声を掛けるも、ゴレミから返事がない。振り返ってみてみれば、何故かゴレミは俯いた状態で立ち止まっている。


「ゴレミよ、どうしたのじゃ?」


「マスター、ローズ……ゴレミは…………」


「ご苦労様でした、イリス。これで貴方の役目は終了です」


「えっ、まっ――」


 瞬間、ゴレミの姿が消える。訳がわからず数秒呆け……俺は改めてベリルさんに視線を向ける。


「ベリルさん。ゴレミをどうしたんですか?」


「貴方達には関係のないことです」


「関係なくはありませんよ。ゴレミは俺の……俺達の大事な仲間です。以前に何か勘違いしたっぽいんで、今度はちゃんと話を聞かせてください。ゴレミを……どうしたんですか?」


「貴方にはそれを知る権限がありません。ほら、報酬を持ってさっさと帰りなさい」


「権限とか、そんなことじゃねーんだよ!」


 ダンッと足を踏みならし、俺は大声で怒鳴る。


「頼むよ。頼みます……ゴレミのことを、教えてください。あいつはどうしたんですか? あいつは……戻ってくるんですか?」


「そうじゃ、報酬! 報酬を宝箱から強敵との戦いに変えられるなら、ゴレミの情報にも変えられるはずなのじゃ!」


「ローズ! お前最高だな! ベリルさん、それでお願いします!」


「…………その箱の中身は外に持ち出すこともできますし、おそらく貴方達にとって最高に価値のあるものです。それでもですか?」


「勿論! あいつより価値のあるもんなんてねーよ!」


「そうなのじゃ! ゴレミが一番大事なのじゃ!」


「…………そうですか。ではその要求を受け入れます」


 何故か呆れたような顔をしたベリルさんがそう言うと、虹色に輝く宝箱(ガラクタ)が一つ消える。最悪一戦交える覚悟もしてたんだが、どうやら交渉は通じたようだ。


「イリス……ゴレミの現状ですが、あの子のコアは我等の目的のために情報を吸い出されることになっています。それが終わればコアを初期化し、新たなゴーレムとしてこの<原初の星闇(コスモギア)>に配置されることでしょう」


「情報を吸われて……初期化…………!? それはもしや、記憶を奪われて別人に生まれ変わるということなのじゃ!?」


「そうですね、人間風に言うなら、その表現が近いかと思います」


「何で!?」


 冷静に、冷淡にそんなことを告げてくるベリルさんに、俺は憤りをそのままぶつける。


「詳しくは聞けなかったけど、ゴレミはあんたのこと『ベリル姉ちゃん』って呼んでたんだぞ!? それにあんただって、ゴレミのこと気に掛けてくれてたんだろ!? なのに何で……何でそんなヒデーことができるんだよ!?」


「確かに私にも感情はありますが、目的の達成は他の全てに優先されます。せっかくできあがった料理を、見た目が綺麗だからと食べずに腐らせるのは違うでしょう?


 それにこの結末は、あの子も当然知っていたことです。だからあの子は貴方達とここに辿り着くことに拘ったのでは?」


「それは、どういう……?」


彼女(・・)に捧げる最後の記憶を、きっと貴方達のものにしたかったのでしょうね。大好きな人に愛される、楽しくて幸せな日々……そんな想いを」


「……………………」


「待って欲しいのじゃ! ではゴレミは……ゴレミはもう戻ってこないのじゃ……?」


「はい、戻りません。これが貴方達とあの子の、旅の結末です」


「そんな…………」


 あまりにも無情なその言葉に、ローズがガックリとその場で崩れ落ちた。

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