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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
最終章 歯車男と約束の君

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「かつて」の強敵

 このまま先に……奥に進む。そう決めた俺達が最初にやったことは、来た道を戻ることだった。さっきも話した通り、いくら探索者が自己責任とは言え、雇い主であるフラム様に何も言わずに長期間ダンジョンに潜り続けるのは問題があったからだ。


 が、その問題は意外な形で解決する。なんと四層に戻ったところで以前にダンジョン内ですれ違い、挨拶をしたことのある探索者パーティ「ドレッドファング」に出会ったのだ。


 なので俺達がローズの立場を明かし、地図用の紙に必要なことを手短に纏めた「手紙」を渡してくれないかと頼んだところ、彼らとしてもオーバードの皇太子に縁ができるのは大歓迎だということで快く引き受けてくれた。


 勿論彼らがダンジョン内で全滅してしまうとか、うっかり手紙をなくすとか、あるいは何らかの思惑によって手紙がフラム様に届かないという可能性もないわけじゃねーが……それを言い出すと切りがねーからな。後は無事に届くことを祈ろう。


 ということで、憂いのなくなった俺達は再びダンジョンを進み始めた。じっくり自力を育てるためにも一日一層という流れは変えず、そのまま六層七層と順調に探索していき……


「おぉぅ、こりゃまた……」


 辿り着いた第一〇層。階段を降りて少しした先にあったのは、これまでのものとは一線を画す広大な部屋……というか広場であった。


「滅茶苦茶広いのじゃ! 一体幾つ足場があるのじゃ?」


「これを数える気にはならねーな……でも、何でこれ地図に描いてねーんだ?」


 手元の地図に視線を落とすと、そこにはこの広場を避けて大回りに迂回するような道だけが記載されている。つまりこれを描いた人物はこの広間を避けたということだろうが……ふむ?


「ここはボス部屋なのデス! この広間に入るとボスが出るデス!」


「ボス? あー、それで避けたってことか。まあ間違いなく何かありそうだもんなぁ」


 こんなにあからさまに違う地形があったら、「何かある」と考えるのは当然だ。とりあえず行けるところまで行く、みたいな姿勢であるなら、危険は避けて通るのが常道だろう。


「なら俺達もここには入らねー方がいいのか?」


「いえ、それは違うデス。確かにボスは強いデスけど、倒すと確定で金箱が手に入るデス。一気にここまで降りて来たならよっぽどいい装備をしてない限りは避けるしかないデスけど、ゴレミ達は時間をかけて強くなりながら降りて来たデスから、むしろここでもボスを倒してしっかりいいアイテムを手に入れておきたいのデス」


「ほほぅ、そういうことなら挑むのに異論はないのじゃ」


「だな……ところでゴレミ、ちょっといいか?」


「何デスか?」


「いや、何かこの前から、急にダンジョンのこと色々教えてくれるようになったろ? それって大丈夫なのか?」


 この<原初の星闇(コスモギア)>に入ってから、ゴレミはあえて会話から離れていたり、何かを言いたそうにしつつも我慢するような様子をみせていた。だがこのまま奥に進むと決めてからは、こうして積極的に情報を提供してくれる。


 それは如何なる変化なのかと問う俺に、ゴレミが困ったような苦笑を浮かべる。


「実は大丈夫じゃないのデス。腕輪を手に入れたあの日の夜に、規約違反でダンジョンコアとの接続を一時的に切られてしまったのデス」


「何と!? そんな大変なこと、どうして言わなかったのじゃ!?」


「言ったら二人が気にすると思ったのデス。それに気にしてくれたとしても、特に解決法などはないのデス。


 あ、でも、悪いことばっかりじゃないのデス。接続が切られたせいでわからないことが沢山増えたデスけど、かといって今までわかっていたことを忘れるわけじゃないのデス。


 だから、今のゴレミは『色々知ってるけど何も言えないダンジョン側のゴーレム』ではなく、『ちょっと物知りなだけのマスター達の仲間のゴーレム』になったのデス! これからは一緒に悩んで考えてができるのは、正直ちょっと嬉しいのデス」


「そう、か……いやまあ、いいんじゃねーか? 変に気を遣って話をするより、そっちの方が気楽でいいと思うし」


「答えを教えてもらうより、一緒に謎解きができる方が妾も嬉しいのじゃ!」


「そう言ってもらえたら、ゴレミもとっても嬉しいのデス! これでゴレミも真の仲間なのデス! スローライフを営んだり、追放される度にスキルがもらえたりするのデス!」


「スローライフはまだわかるけど、何で追放されるとスキルがもらえるんだ……?」


「たとえスキルがもらえても、妾は追放などされたくないのじゃ! あと追放したくもないのじゃ! ゴレミは最初からずっと真の仲間なのじゃ!」


「さあ、それじゃ魔王……ではなくフロアボスを倒しに行くデス!」


 颯爽と先頭を歩き始めるゴレミについて、俺達は広場に入っていく。にしても、本当に広いな。一〇〇メートル四方くらいはあるんじゃねーか? 足場が一つ三メートルだから一〇〇メートルぴったりにはならねーだろってツッコミはどうでもいいとして……


「お出ましだな。さて、どんな魔物が……んん?」


 俺達が足を踏み入れたからか、目の前の床の継ぎ目からじわりと黒い雫が滲んでくる。今までよりずっと多いそれが巨大な魔物の姿になっていくのだが……あれ? これどっかで見たことある気が……?


「クァァァァァァァァ!!!」


「あっ!? こいつ夢幻坑道にいた亀じゃねーか!」


「おお、言われてみればそうなのじゃ!」


 ひときわ高い鳴き声をあげて実体化したのは、かつて夢幻坑道のなかで襲われた黒い亀であった。名前は確か、オブシダンタートル!


「確かこいつ、スゲー頑丈だったよな? どうやって倒したんだっけ?」


「えーっと……確か妾のフレアスクリーンの魔法を吸収させて甲羅を火属性にし、その後水の詰まった風船を投げて脆くしたのじゃ」


「でも今回は、カエル風船はないのデス。水筒の水程度じゃ全部投げても全然足りないのデス」


「マジか!? そうすっと……うおっ!?」


「クァァァァ!」


 俺達がまだ相談しているというのに、甲羅どころか頭や手足も真っ黒になってしまったオブシダンタートルが空気を読まずに噛みついてくる。慌ててよけたが、あれはヤバそう……というか、ヤバかったはずだ。クソッ、一年も前のことなんてそんなに覚えてねーってんだよ!


「チッ。ひとまず戦いながら考える! 俺が手足を切りつけて様子をみるから、ゴレミは頭を引きつけてくれ! ローズは使うかわかんねーけど、とりあえず魔法を準備だ!」


「了解デス!」


「わかったのじゃ!」


 指示を出し終え、俺は剣を抜いてオブシダンタートルの側に駈けていく。ゴワゴワした皮膚は確かスゲー丈夫だったはずだから、ここは全力だ!


「いくぜ、<歯車連結(ギアコネクト)>、<筋力偏重(パワーシフト)・ファースト>!」


 スキルで歯車を繋ぎ、自分の力を増幅させながら剣を変形させる。そうして肉厚の刀身を思い切りオブシダンタートルの足に叩きつけると……


「クァァァァァァァァ!?!?!?」


ブシャーッ!


「えっ!? うおっ!?」


 俺の剣が予想より遙かに深く食い込み、オブシダンタートルの足から血が噴き出す。流石に切り飛ばすとまではいかなかったが、明らかに骨まで届いた手応えは伊達ではなかったのか、ガクンと体勢を崩したオブシダンタートルがその場に崩れ落ちた。


「あっぶなっ!? え、何でこんなに?」


「ふぬぬぬぬ……マスター、今のうちに首も落としちゃうデス!」


 驚く俺の前で、オブシダンタートルの首を掴んで引っ張っているゴレミがそう声をかけてくる。以前は無理だったはずだが、今は何とか踏ん張れているようだ。


「わかった! ローズ、貼り付け……いや、()でいい!」


「わかったのじゃ! フレアスクリーン!」


 手間を惜しむ俺の前で、ローズが火の膜を展開した。俺は剣を一振りしてその膜を透過させると、その勢いのままに伸びたオブシダンタートルの首目掛けて全力で剣を振り下ろす。


「焼けて落ちろ! バーニングスラッシュ!」


「グァァァァ!!!」


 焼けた刀身が首に食い込み、オブシダンタートルが苦しげに声をあげる。すると暴れ狂う自分の力でオブシダンタートルの首が千切れ、程なくしてその巨体が黒い霧へと変わっていった。


 時間にして、およそ一、二分。かつて魔導具を駆使して全力で戦い、ようやく倒すことのできた強大な魔物……俺達はそれをあっさりと下すことに成功した。

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