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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
最終章 歯車男と約束の君

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ドグーパーティ

「お? こいつは……」


 第三層を探索中、不意に通路の先に大量の床が連なっていく。どうやらこの先は小部屋になっているようだ。三メートル四方のブロックが三×三個の組み合わせとなり、九メートル四方となった広い部屋の奥側には、鈍く銀色に輝く宝箱が置かれている。


「宝箱があるのじゃ! しかも銀箱なのじゃ!」


「第一層の隠し部屋以外じゃ初めてだな。こりゃ期待できるか?」


 宝箱の置かれた小部屋事態は今までも幾度か見つけてきたが、置かれていたのはいつも木箱で、中身もちょっとした消耗品や武器なんかだった。しつこい油汚れたサッと落ちる石けんとか、ほんのわずかに切れ味強化が付与された短剣なんかだな。


 ちなみに短剣は護身用にローズに渡したが……まあ使うことはないだろう。手が届く距離ならあんな剣で刺すより魔法で燃やした方が圧倒的に強いしな。


 という感じで、隠し部屋以外の宝箱は正直まだまだ中身に期待できるレベルじゃなかったんだが……銀色なら話は別、なのか? わからんが、開けてみる価値は十分あるだろう。


「んじゃ、行くってことでいいか?」


「勿論なのじゃ!」


「覚悟はバッチリなのデス!」


 二人の返事を受けて、俺は小部屋に足を踏み入れる。するとすぐに部屋の中に黒い雫が染み出てきて、五体の人型が形成された。宝の小部屋は、入ると高確率で魔物に……しかも通常よりも強めの魔物に襲われるのだ。


「五体!? 数で押す感じか? 気をつけろ!」


「ドグーファイターにドグーガードナー、ドグーシューターにドグーメイジ、ドグーヒーラーまでいるデス!」


「フルパーティなのじゃ!?」


「チッ、面倒な!」


 現れたのはどいつもこいつも似たような格好をした、真っ黒なゴーレムの群れ。数で負けているなら先制で減らすべきと見慣れた無手のゴーレムに襲いかかったが、そこに大盾を持ったゴーレムが割り込んでくる。


カチンッ!


「防がれた!? 硬ってぇ!」


 流石は陶器というべきか、ドグーガードナーの持っている盾はかなり頑丈だった。跳ね返ってきた衝撃に手首が痛み、すぐに剣を引き戻す。するとその隙を突くように、ドグーファイターが殴りかかってきた。


「うおっと危ねぇ! てか今更だけど、何でこいつ無手なんだ? この流れなら剣を持ってるんじゃねーの?」


「剣を持ってるのはドグーブレイバーなのデス。一緒にいるドグー仲間の能力を三割も引き上げる厄介な魔物デスから、もっと深くまで潜らないと出てこないのデス」


「おぉぅ、そうなのか。そいつは勘弁……っと!」


「フォォォォォ…………」


 軽く腰を落としつつ、俺は<筋力偏重(パワーシフト)>を使ってドグーファイターの足首を横薙ぎに切りつける。すると妙に細い足首に軽くヒビが入り、ふらりと倒れたドグーファイターの体がそのままパリンと砕け散った。


 うーむ、相変わらず儚い命だな。倒すべき魔物とはいえ、ちょっとだけ同情を禁じ得ない……っ!?


「フォォォォォ……」

「フォォォォォ……」


「マジか!?」


 背後にいたドグーが変な球を掲げると、そこから放たれた光を浴びた破片が元の形にくっつき、ドグーファイターが復活した。嘘だろ、あの状態から復活すんのかよ!?


「ヒーラーから倒さねーと駄目か!」


「そっちはゴレミに任せるデス!」


 仲間の誰かが倒しても一応ちょっとだけ強くはなるが、自分で魔物を倒した方がずっと強くなる。そんな理由から基本控えに回ってたゴレミが、そういって戦線に加わる。すかさずシールダーがゴレミの方に向かったが……


「ゴレミ、パーンチ!」


パキーン!


 俺達の中でぶっちぎり最強の打撃力を持つゴレミの拳を受け、分厚い陶器の大盾が一撃で割れる。ヒーラーの光がそれすらも修復しようとしたが、ゴレミの方が速い。


「続けて、ゴレミチョーップ!」


「フォォォォォ……」


 その一撃で、ヒーラーの持っていた球が割れた。これでもう復活はできねーはず――


「クルト! 狙われておるのじゃ!」


「っ!?」


 でかい弓を持ったドグーが、俺に向かって矢を放ってくる。陶器の矢は明らかに重そうな見た目とは裏腹にまっすぐ俺の顔面目掛けて飛んできて……


「フッ!」


 俺はそれを、すんでのところで切り払った。パキッと音を立てて砕け散る鏃に、俺は背筋が震えるのを感じる。うぉぉ、危ねー! 今のはマジでヤバかった!


「フォォォォォ……」


「なっ!?」


 一息つく暇もなく、追い打ちをかけるように巨大な火球が飛んでくる。どうやら最後に残ったドグーメイジが詠唱を終え、攻撃魔法を撃ってきたようだ。


 流石にこれはかわせない……だが焦りはない。相性が悪いとずっと何もできなかった俺達の三人目の仲間は、しかし決して無能なんかじゃねーからな。


「甘いのじゃ! そんな魔法、妾が通すわけないのじゃ!」


 俺の目の前に広がった火の膜が、迫ってきていた火球をあっさりと受け止め、消し飛ばす。ははは、俺達相手に魔法を通したけりゃ、一〇〇〇体くらいで攻めてくるんだな! いや、本当に来られたら困るけれども。


「ナイスだローズ! 割れろ!」


 必殺の魔法を防がれ唖然と……してるかはわからねーが、とにかく動きの止まったドグーメイジの足を切りつけ、その体を倒れさせる。その重さを利用してドグーシューターの弓を掴んで引っ張ってやれば、二体の体がぶつかり合ってパリンと派手な音を立てた。


 さあ、これで残りはあと一体! となると……


「なあローズ、せっかくだしお前も倒してみるか?」


「む? それは確かにやってみたいのじゃが、妾では無理ではないのじゃ?」


 俺の問いかけに、ローズがそう言って首を傾げる。確かに普通に戦うと、力が強くて魔法が通じないゴーレム……ドグーなんちゃらはローズが倒すのは難しい。


 が、そこはやりようだ。俺はニヤリと笑ってその言葉を否定する。


「無理ってことはねーさ。ほら、二層の宝箱から出てきた短剣あったろ?」


「そりゃ持っておるが、あんなものでは陶器の体は貫けないのじゃ」


「貫く必要なんかねーって。そいつには丁度よく隙間(・・)があるからな」


 言って俺が視線を向けると、釣られてローズもそちらを見る。そこにいるのはヒーラーの力によって復活したドグーファイター……だが復活の代償かあるいは限界か、その体には割れてくっついたところにわずかなヒビが残っている。


「マスター、こっちは終わったデスよー!」


「おぅ、ナイスタイミングだ! ゴレミ、そいつ押さえてくれ」


「わかったデス!」


「フォォォォォ……」


 俺の頼みに、ゴレミが背後からドグーファイターを羽交い締めにする。身長の関係上持ち上げて無力化とかは無理だが、それでもドグーファイターは手足をジタバタさせることしかできなくなった。


「んじゃローズ、あのヒビのところに短剣を突っ込んで……そしたら柄を思いっきり蹴っ飛ばしてやれ!」


「何と!? そんなはしたないことが許されるのじゃ!?」


「許される許される! なあゴレミ、大丈夫だよな?」


「勿論なのデス! 最近のお姫様は安易に最強属性が付与されまくっているのデス! ギロチンされても過去に戻るデスし、甘いお菓子で拷問されるデスし、あと力士だったり聖女だったり何でもありなのデス!」


「おぉぉ、何だか妾の知らぬところで凄いことになっておるのじゃが……そういうことならわかったのじゃ!」


 大分適当なゴレミの説得が通じて、ローズが手にした短剣をドグーファイターの体に入ったヒビにあてがい、グリグリやって差し込む。陶器の体に痛覚があるとは思えねーが、行動としては割とエグいな。


「よし、いい具合に刺さったのじゃ! あとは…………とりゃーっ!」


 それが終わると、一旦下がったローズが助走をつけて刺さった短剣の柄を思い切り蹴り飛ばす。するとパリーンといういい音を立てて、ドグーファイターの体が再び砕け散った。


「やったのじゃ! 初勝利なのじゃ!」


「おう、おめでとさん」


「おめでとうなのデス!」


「フォォォォォ……」


 悲しげな声をあげて破片が黒い霧に変わっていくなか、俺達は喜ぶローズに祝福の拍手を送った。

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