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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
最終章 歯車男と約束の君

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慣れの問題

 歩く、歩く、ひたすら歩く。道なき道に道を生みだし、道に沿って歩き続ける。第二層程度だと罠も何もねーので、俺達にできることは本当に歩くことだけだ。


 しかも、この<原初の星闇(コスモギア)>では壁や天井などがなく、床すら自分の近くしかわからない。何処をどれだけ歩いたのか、今自分が何処にいるのかが把握しづらく、精神的な疲労が少しずつ蓄積されていく。


 が、逆に言えばその程度だ。今更そんなことでどうなるわけでもなく、俺達は順調に探索を重ねていくわけだが……


「……そろそろ時間切れか」


 気の向くままにダンジョンを彷徨い続けること、ほぼ一日。腹の減り具合からそろそろ夜だと判断し、俺はそう口にする。


「むぅ、結局隠し部屋や隠し通路は見つからなかったのじゃ」


「ははは、そりゃ仕方ねーだろ。そもそも絶対あるってもんでもねーしな」


 俺は不満げなローズの頭をポフポフと叩きながら笑う。ローズもそろそろ成人だし、いい加減こんな扱いをするのは問題だとわかっているんだが、出会った当時からずっと続く関係性を今更改めるのはなかなかに難しい。


 勿論嫌がられればすぐ辞めるが、ローズもまた慣れているせいか、そういう感じもねーしな。


「それじゃマスター、そろそろ階段に向かうデス?」


「だな。えーっと、こっちから来たから……あっちの方に行ってみよう。で、半分進んでも階段の通路に繋がらなそうだったら、面倒だけどわかってる道まで戻る感じでどうだ?」


「妾に異論はないのじゃ。ギリギリまで未知の通路で隠し部屋を探すのじゃ!」


「ゴレミも問題ないのデス」


「なら決まりだ。移動するぞ」


 地図を見るため止めていた足を再び動かし、俺達はダンジョンを進んでいく。すると前方の床の継ぎ目から、もう何度目かもわからない黒い雫が湧き出してきた。


「またか。でも残念」


「グギャ……ギャッ?」


「――悪いが、すぐにお別れだ」


 湧き出てきた人型がゴブリンの形を成した瞬間、俺の剣がその胴体を切り裂く。他のダンジョンと違って目の前で出現するのだから、その瞬間を狙わないわけがない。


 まあ早すぎると剣がすり抜けてダメージを与えられないばかりか、無防備な姿を晒して痛い目をみることもあるので、タイミングの見極めは重要だ……何故そんなことを知っているのかは永遠の謎である。失敗なんてしていないのだ。


「グギャー!?」


「ふふふ、燃えておるのじゃ! やはり黒いと燃えやすいのじゃろうか?」


 そんな俺の隣では、出てきた瞬間燃やされたゴブリンが悲鳴をあげている。出現位置にフレアトラップを設置され、形を成したと同時に足から燃えたらしい。


「ローズって、敵には割と容赦ねーよな?」


「何じゃ突然? そりゃ敵に遠慮なぞせぬのじゃ。というか、そもそも妾の魔法では加減などできぬのじゃ。一瞬で燃え尽きるかほどほどの時間で燃え尽きるかの違いだけなのじゃ」


「おぉぅ……」


「マスター、油断したら駄目なのデス! まだ魔物が残ってるのデス!」


「おっと、そうだったな」


 ゴレミに指摘され、俺は頭上を見上げる。するとそこには黒いコウモリが……まあコウモリは大抵黒いが……バタバタと忙しない感じで飛んでいる。


「キーッ!」


「待たせて悪かったな。食らえ、歯車――」


「キキーッ!」


「…………スプラッシュ!」


 甲高い鳴き声と共に、俺の体の中を何かが通り抜ける。しかし俺は軽く顔をしかめるだけでそれをやり過ごすと、そのまま手の中に出現させた歯車を投げつけた。


 それを食らったジャイアントバットがあっさりと床に落ちてきたので、剣で一突き。これにて本当に戦闘は終了だ。


「クルトよ、大丈夫なのじゃ?」


「ああ、平気だ。流石にもう慣れたからな」


 第二層での戦闘にジャイアントバットが混じらなかったことは、数える程しかない。なので最初のうちは毎回警戒し、黒い雫が体になるタイミングを見極めてからは出現と同時に歯車を投げつけて迎撃したりもしていたのだが、あるときジャイアントバットが二匹同時に出ることがあった。


 そうなると流石に鳴き声をあげさせないのは難しい。まんまと攻撃を食らったわけだが、その時俺を襲った目眩は最初の一撃と比べると随分と弱かった。


 つまり、来るとわかって覚悟していれば十分に耐えられる。所詮はただのコウモリであり、ネタが割れてしまえばこの程度ということだ。


「あの、マスター? それは慣れたのとは違うと思うデスよ?」


「ん? 何でだ? 攻撃を食らっても耐えられるようになってきたのは、食らい慣れたからだろ?」


 そう俺が問うと、何故かゴレミが微妙な表情を浮かべる。


「慣れるというのは、大丈夫になるのとはちょっと違うデス。たとえば剣で斬られるのに慣れたら痛みには耐えられるかも知れないデスけど、傷口から血が出るのを止めることはできないのデス。


 なので魔物からの魔力攻撃に慣れた場合、ふらついてもすぐに立て直せるようにはなっても、ふらつかなくなることはないのデス」


「……? じゃあなんで俺は平気なんだ?」


「マスターが魔物を倒して強くなったからなのデス。成長して魔力量が増えたから、ジャイアントバットの攻撃で魔力が揺らされづらくなって、フラフラしなくなったのデス」


「は!? え、俺強くなってたのか!?」


 ゴレミの言葉に、俺は驚いて自分の手をみた。だが俺自身の感覚ではダンジョンに入った瞬間との違いなどわからない。


「わ、わからん……フラム様から聞いた話だと、強くなる方もそれなりに違和感があるって話じゃなかったか?」


「それは短期間に急激に強くなるからなのデス。細かい計算式は秘密デスけど、基本的には強い魔物を倒せば倒すほど強くなりやすいのデス。だから一気に深い層まで潜ってガンガン魔物を倒すと急激に強くなってしまって、その分体の違和感も強くなるデス。


 でも今のマスターみたいに、明らかに弱い魔物を時間を掛けて倒し続ける場合、成長速度もそれに準じてゆっくりになるデスから、違和感も実感もなかったのだと思うデス」


「そ、そうか……いやうん、本当にわかんねーもんなぁ」


 ゴレミがそう言うからには、俺は間違いなく強くなっているんだろう。しかし指摘されてなお、俺には自分が強くなったという実感がまるでない。


「ということは、妾も知らぬ間に強くなっておるのじゃ?」


「なってると思うデス。今ダンジョンから外に出たら、多分昨日よりも力の戻り具合が弱いと感じると思うデス」


「なるほど…………これ言っていいのかわかんねーけど、想像より大分地味だな」


 思わずそう口にする俺に、ゴレミが苦笑する。


「言ってもまだ二層デスから、こんなものなのデス。他の探索者パーティがやってるみたいに一気に一〇層まで潜るとかすると、相当な違和感が出ると思うデス」


「ふむ? ということは元々が凄く強くて強烈に弱体化した探索者でも、時間をかけて進めば違和感なくいけるということなのじゃ? ならば何故先達の者達はそうせぬのじゃろうか?」


「地図が埋まってねーのと同じ理由だろ。せっかく誰も入ったことのないダンジョンに優先して入れるのに、入り口からじっくり時間をかけて……なんてのは気持ち的に受け入れられねーんだろ。


 それにそもそも、今はまだこのダンジョンの『正しい潜り方』をみんなで調べてる最中だからな。他の人達みたいに一気に進むのが正解か、それとも俺達みたいにゆっくり体を慣らすのが正解か……それがわかるのはまだずっと先の話さ」


 言って俺がゴレミの方を見るも、ゴレミは無言で微笑んでいるのみ。だがそれでいい。それがいい。ダンジョンの潜り方を探るのもまた、俺達探索者の仕事であり、醍醐味なのだから。


「っと、いかん。また話し込んじまったな。これ以上遅くなると本当に隠し通路を探す余裕がなくなるし、そろそろ行くか」


「うむ、行くのじゃ! 階段までの道のりに、お宝があると嬉しいのじゃ!」


「それはゴレミのみぞ知るなのデス。つまり知っているけど教えないのデス! 三角形の秘密も教えてあげないのデス!」


「三角形? それが次の隠し部屋のヒントなのじゃ?」


「違うデス。美味しさの秘密なのデス!」


「何で味なんだよ!? ダンジョン要素ゼロじゃねーか!」


 いつもの空気に浸りながら、俺達は本日最後の探索行を続けていく。なお三層への階段に辿り着くまでの間に、それらしき三角形の何かが見つかることはなかったことは付け加えておこう……ぬぅ、ちょっとだけ気になるぜ……

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「おしえてあげないヨ、ジャン!」ですよね。懐かし~
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