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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
最終章 歯車男と約束の君

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評価の基準

「へぇ? まさか初日で魔導具を持って帰ってくるとはね」


 初日のダンジョン探索がやや早めに終わったということで、俺達はフラム様に報告するべく教えられていた建物を訪ねていた。特に毎回報告しろって言われてるわけじゃねーんだが、一応雇い主というか、そもそも一〇〇〇万クレドももらってるからな。時間があるなら報告くらいするべきだろう。


 ということで通された応接室。長椅子に並んで座る俺達の前で、フラム様が優雅にお茶を傾けながら言う。まだまだ物のない町だというのに、流石にここはそこそこ設備が整っているようだ。


「しかも第一層? 武具や魔導具をダンジョンから持ち出せたという報告は、一番浅くても一〇層以降の物だったのだけれど……一体どんな手品を使ったのかな?」


 そう言って、フラム様がチラリとゴレミの方を見た。だがゴレミは素知らぬ顔でお茶を手に持ち「この渋みが大人の味なのデス」などと呟いている……今は変身していないので、当然飲むことはできない……ため、代わりに俺が口を開く。


「いやぁ、偶々、偶然、幸運が重なった感じですよ。第一層に魔導具があったのは、隠し通路の先にあった宝箱だからでしょうね。ひょっとしたら二層以降にも同じような通路があって、その先には階層に見合わない、ちょっといい物が入っている可能性は十分にあるかと」


「見えない通路、か……厄介だね。確かに地図を全て埋めようとすればある程度の違和感は気づけるだろうけど、確実にあるわけでもないだろうし。


 それに同じ手間を掛けるなら、それこそその分潜った方が結果としてはいい宝が手に入る可能性が高いだろうからね」


「ですね。で、持ち帰れた理由は俺にもわかりませんけど……強いて何か特別なことをしたかと言えば、ローズがくしゃみをしましたね」


「……くしゃみ?」


「はい。こう……はくしょーんと、でっかいのを」


「ぬあっ!? クルトよ、何故そんなことを兄様に報告するのじゃ!? 恥ずかしいのじゃ!」


 俺の思わぬ言葉に、隣に座ったローズがポカポカと俺の肩を叩いてくる。その様子に目を細めてから、フラム様が改めて苦笑を浮かべる。


「それは……楽しい報告ではあるけれど、あまり意味があるとは思えないね」


「ははは、ですよね。まあその時にローズがとんでもない魔力を込めたせいで、このチョークがボバーンと暴発して真っ白になったりしましたけど」


「ぬぁぁっ!? 何故そこまで言うのじゃ!? 恥の上塗りなのじゃ!?」


 更なる追加情報に、ローズが俺を叩く力が強くなる。しかしそれとは別に、まっすぐ目を見て言った俺の言葉にフラム様が軽く思案顔になる。


「魔力を込めた? 魔導具が暴発する程の量を…………ふふ、そうか。なるほど、参考になったよ」


「何かのお役に立てれば幸いです」


 含みのある笑みを浮かべるフラム様に、俺もまたニッコリ笑って答える。


 あのダンジョンの宝を独占しようとか、周囲より優位に立とうと考えるなら、これは秘匿すべき情報だ。


 が、俺にそんなつもりはねーし、そもそも俺達程度でそんなことができるとも思っていない。誰彼構わず教えて回るほど馬鹿でもお人好しでもねーが、雇い主に伝えるくらいは十分な許容範囲だろう。その後の情報の取り扱いは、フラム様(えらいひと)に丸投げで済むしな。


「にしても、これほど早く成果を出してくれるとは……やはり君達に依頼したのは正解だったようだ。どうだい? ローザリアとの結婚は考えてくれたかい?」


「ブハッ!? ちょっ、それまだ言うんですか!?」


「兄様!?」


「マスターは渡さないのデス!」


 思わずお茶を吹き出す俺と、身を乗り出して抗議するローズと、俺の腕にしがみついてくるゴレミ。そんな俺達の態度にフラム様が楽しげに笑いながらお茶を傾ける。


「ふふ、そりゃ言うとも。どうやらクルト君は、自分の優秀さがわかっていないようだからね」


「ゆ、優秀ですか!? そう評価していただけるのは嬉しいですけど、流石にそれは言い過ぎというか……」


「そんなことないさ。これは冗談ではなく本気だよ? 君の持つスキルや情報の有用性というのもあるけれど、何より君自身の人間性を私は高く評価している」


「人間性?」


 あまり言われることのない褒め言葉に俺が戸惑っていると、横からゴレミとローズが声をかげる。


「流石フラムはわかっているデス! 目の付け所がシャープなのデス!」


「確かに兄様は鋭いのじゃ! クルトは決してしょぼくれているだけではないのじゃ!」


「あれ? 今俺褒められているようで微妙に貶されたか?」


「ははは、ありがとう。でもそうなんだよ。クルト君は確か一七歳だろう? その歳でありながら成果に驕って調子に乗ることもなければ、農村出身で特に金持ちだったというわけでもないのに大金に溺れることもない。


 それでいて物事の機微を見抜く目があり、適度な強かさもある。君と同じ年頃の子が君と同じ状況に置かれたならば、酒場で好き放題に武勇伝を語り、大金で女性を侍らせていると思わないかい?」


「それは……どうなんですかね?」


 問われて考えてみれば、まあ確かにそういう奴もいるだろうとは思う。たとえば一番最初に俺に絡んできたジャッカルの取り巻きみたいなのなら、間違いなくそうなっているだろう。


 が、誰もがそうなるかと言われると……わからん。少なくとも俺自身は、自分がそうなっている想像ができない。自分の事をよく知りもしない他人に上辺だけちやほやされるのは、むしろ落ち着かない気がする。


「確かに皆が皆そうだとは言わないけれども、そのくらい調子にのってもおかしくない状況に君はあるってことさ。それに権力との距離の取り方も絶妙だ。普段から振りかざすような真似はせず、かといって必要な時には萎縮せずに利用できる。その感覚は何処で身につけたものなんだい?」


「いや、別に何かを勉強したとかじゃないんで、単なる処世術としか……」


「そうかい? まあいいさ。今はとにか、く私が君を正当に評価しているということだけ覚えておいてくれればいい。


 報告、確かに受け取った。もしまた何かあれば教えてくれ。その分の報酬はしっかりと出そう。


 それともし活動資金が足りなければ言ってくれ。たかだか物価が高い程度の理由で君達がここから去ってしまうのは大きな損失だ。限度はあるが、それでもこちらで可能な限り支援しよう。そうだね、とりあえず追加で一〇〇〇万クレドくらい探索者ギルドに送っておこうか」


「ふぁっ!? いやいやいやいや、まだ前回もらったお金が全然残ってますよ!? 毎回今みたいな成果を期待されても困っちゃいますし……」


 まさかの追加予算に慌てる俺を見て、しかしフラム様は楽しげに笑いながら言う。


「ははは、いいさ。これは君達を縛り付けるためのお金じゃない。強いて言うなら投資……君達を自由に活動させることで見込める利益からすれば些細な金額だよ。今回得られた情報に比べれば、むしろ安いくらいだ」


「そんなもんですかねぇ……ならまあ、もらっておきますけども」


 偉い人の申し出は、あまり断りすぎるのもよくない。誰だって自分の申し出を拒否されるのは気持ちよくねーしな。


 それでも無理な頼みなら何とか断る方向に持っていくが、情報提供の報酬として追加予算を出してくれるというのを固辞するのはそうじゃない。借りを作りすぎるのは怖いんだが、ここは受け取っておくのがいいんだろう……多分。


「ここでそうやってあっさり受け入れられるのが、君の器だよ。それじゃクルト君、それにゴレミ君も、これからもローザリアを頼むよ。勿論、ダンジョン探索もね」


「はい、全力で頑張ります!」


「ゴレミにお任せなのデス!」


「妾だってやるのじゃ! 隠し通路を見つけまくりなのじゃ!」


「期待しているよ」


 俺達のやる気ある返事にフラム様が頷き、予定外の報告は予想外の報酬と共に終わりを告げるのだった。

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