日用魔導具のあれこれ
「それでは査定額を出しますので、しばらく店内を見てお待ちください」
「わかりました、お願いします」
一礼するディンギさんにコートを託し、俺達はそのまま部屋を応接室っぽい部屋を出ると、店内に戻る。そう、俺の下した結論は「コートを売る」であった。
「マスター、本当に売っちゃってよかったデス?」
「いいんだよ。これでいくらか懐も暖まるだろうしな」
「じゃが気に入っておったのではないのじゃ?」
「ん? まあそこそこ気に入ってはいたけど……何でだ?」
ゴレミの方はともかく、ローズの問いかけには首を傾げてしまう。しかしそんな俺の反応に、むしろローズの方が意外そうな顔をする。
「何でって……ずっと着ておったではないか!」
「あー、まあ着てたけど、あれは単純に防御力があるからだからな。実際あれ着てなかったら、左腕は相当ヤバかったと思うし」
あのコートのもふもふの毛皮と丈夫な革素材は、二二層の金属矢の罠をしっかりと受け止めてくれていた。もしコートなしであの矢が肩にぶっ刺さっていたら骨にひびが入るどころか、最悪そのまま砕けていた可能性すらある。
そうなればあの時とは比較にならない激痛で動くことすらままならなかっただろうし、全てが上手くいって無事に地上に戻れたとしても、その治療にはかなりの金がかかったはずだ。
「ならやっぱり着ていた方がいいんじゃないデス?」
「そりゃそうだけど、金をかけてあれを直すくらいなら、普通に肩防具とかを買った方がいいかなって。ほら、あれ……暑いし」
「ぬあっ!? やっぱり暑かったのじゃ!?」
何故か大げさに驚くローズに、俺は思わず苦笑する。
「ははは、そりゃ暑いに決まってんだろ。本当にただの防寒着としてのコートだったら、とっくに着てねーよ」
「そうだったのじゃ……妾はてっきりクルトが凄く気に入っておるからずっと着ているのだと思っておったのじゃ」
「ゴレミもなのデス。だからあえて触れないようにしていたのデス」
「なんだよそりゃ……」
どうやら俺は、知らぬ間に二人に気を遣われていたらしい。まあ確かに、極寒のダンジョン仕様の毛皮のコートを、特に寒くも何ともないエーレンティアで着てたら、そりゃ変わり者かよっぽどのお気に入りかのどっちかってことになる……のか?
「まあいいや。とにかくコートを売ったことは気にすんな。それよりせっかく来たんだから、待ってる間店の中を見て回ろうぜ」
「そうじゃな。何だか色んなものがあって楽しそうなのじゃ!」
「エキナカでデパチカなのデス!」
「液……? 何のだ?」
今回もゴレミの発言をいい感じにスルーしつつ、俺達は店内を歩きながら棚の商品を眺めていく。するとそこには見たこともない道具が幾つも並んでいた。
「何だこりゃ? 野菜の皮むき器?」
「ほほぅ。表面を軽く撫でるだけで、凹凸を無視して綺麗に皮だけが剥けるというのは、なかなか便利そうなのじゃ」
「でも結構するデスね。ひとつ五万クレドもするデス」
「そこはまあ、魔導具なので」
品物を見て感想を口にしていると、背後から声をかけられる。振り返ってみると、そこには入り口のところで見た二〇代前半くらいの女性の店員さんが立っていた。
「あ、貴方はさっきの……?」
「いらっしゃいませ。先ほどは失礼致しました。私はこのディンギ魔法商店で売り子をやってます、ヨーコといいます。どうぞよろしくお願い致します」
「これはどうも、ご丁寧に。俺は探索者のクルトです。で、こっちは仲間のローズとゴレミです」
「ローズなのじゃ! 宜しくなのじゃ!」
「ゴレミなのデス! 中の人はお休み中なのデス!」
「えーっと、クルトさんとローズさんはともかく、ゴレミさん? は……?」
「ああ、ゴレミは人間と同じように扱ってください。色んな事情があってスキルで動かしてる感じなんで」
「あー、そうなんですね。畏まりました」
俺の雑な説明に、ヨーコさんはあっさりと納得してくれた。まあ客商売だし、不用意に客の秘密を詮索してきたりはしねーよな。
「ところで、ご希望でしたら商品の説明なども致しますが、如何ですか?」
「それは随分とサービスがよいのじゃ。色々あるから、是非聞きたいのじゃ!」
「ふふ、いいですよ。これでもちゃんと勉強してますから、どんなものでもお答え致します!」
楽しげに目をキラキラ輝かせるローズに、ヨーコさんが得意げな顔で言う。ならばせっかくだしということで、俺達は解説役のヨーコさんも加えて改めて店内の商品を見て回ることにした。
「この辺は照明ですね」
「おぉぉ、色んな色と形のやつがあるのデス!」
「同じ見た目でも値段が違うものがあるのは何なのじゃ?」
「その辺は作りの違いですね。たとえばこちらは虫殻を加工して作ったカバーの内側に、灯りの魔法を付与した魔石が入ってます。ずっと光っているので暗くする時はカバーをかけて遮光し、また光が弱くなったら専用の魔石を交換する形になります。
大してこちらは虫殻そのものに灯りの魔法が付与されていて、中の魔石の魔力を消費して光るタイプになります。他の魔導具と魔石を使い回せる利便性の高さと、入れる魔石のランクによって光量が調整できるという利点はありますが、代わりに魔力消費はやや多めになってますね」
「へー。割と違うんですね」
おそらく使い分けるというよりは、今の生活環境に合った方を選ぶ、みたいな感じなんだろう。なるほど、こういう細かい違いを大事にするのが、この店が大きくなった秘訣……なのかも知れない。いや、知らねーけど。
「あっちにはでっかい姿見もあるのデス! あれはどんな効果があるデス?」
「あれは手持ちの服を登録しておくと、実際に着替えなくてもそれを着た姿が映る鏡となっております。一般の方のみならず、貴族のご婦人なんかにも人気があるんですよ」
「おおー、それは凄いのじゃ! 妾も映して欲しいのじゃ!」
「ゴレミのファッションチェックが始まるデス! マスター、行くデス!」
「わかったわかった。行くから引っ張るなって!」
ゴレミとローズに両方の手を引っ張られ、俺は姿見の前まで連れて行かれる。そこでヨーコさんの説明を聞きつつ、二人のファッションショーが始まった。
「これは何とも新鮮な見た目なのじゃ」
実際にはドレスを着ているローズが、鏡の中では簡素なシャツと短いズボンという、その辺の村の子供のような格好になっている。正直、あんまり似合ってはいない。
「出会った当時のローズならショタっぽくてかっこ可愛い感じになったと思うデスけど……もっと豪華というか、ちゃんとした貴族の紳士服みたいなのはないデス?」
「ありますよ。ならこれとかはどうでしょう?」
「おお、これは素晴らしいのじゃ!」
「よく似合ってるデス! 美麗にして華麗なのデス!」
「確かにこっちはいいな」
普段がピンクのドレスだけに、黒地に金糸で刺繍の入ったピシッとした服に身を包むローズは見応えがある。ただ当のローズは微妙に顔をしかめている。
「むぅ、ピッチリした服を着ておるのに、着心地がドレスのままなのがどうにも落ち着かぬのじゃ」
「そりゃ本当に着替えてるわけじゃねーんだから、仕方ねーだろ」
「感覚にまで影響がでる魔導具となると、ちょっとうちの価格帯では難しいですね。作れないわけではないと思いますけど、完全な受注生産になってしまうので」
「次はゴレミデス! ゴレミが生着替えしたいデス! 一分でカーテンが落ちるデス!」
「え? 別に時間制限はありませんし、本当に服を脱いでいただく必要はありませんよ?」
「あー、こいつの言うことは気にしないでください。こら、迷惑かけたら駄目だろ?」
「迷惑ではなく、サービスなのデス! 深夜の視聴率はこうやって稼ぐのデス!」
「意味がわからん……」
いつも通りに苦笑いを浮かべる俺をそのままに、今度はゴレミが姿見の前に立った。





