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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第八章 歯車男と大異変

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最優先の相談

「それじゃまずは、基本的なところからデス。マスターが『鍵』を使うと、ゴレミにかかっていた封印が解除されてスーパー美少女モードに変身するデス!」


「その呼び方で本当にいいのか……? ってか、封印? つまりゴレミには元々ああいう姿になる能力があって、この剣……鍵? にはそれを解除する機能があったと?


 それは流石におかしくねーか? だってこれ、オヤカタさんがちょっと前に作った剣だぜ?」


 ダンジョンの奥で見つけた伝説の剣とかならともかく、ほんの一月前に作られた剣に、それより前からずっと俺達と一緒にいるゴレミの封印を解く能力があるというのは如何にも不自然だ。


 だがそんな俺の問いに、ゴレミもまた困ったような表情をしてみせる。


「それをゴレミに聞かれても、ゴレミだってわからないのデス。ただ客観的な事実としてそういう機能があったというのを報告しているだけなのデス。


 一応考えられる可能性としては、オヤカタのオジジが魔物になる前の段階で、ゴレミの誕生に関わる何かをしていたということデスけど、それこそゴレミには何もわからないのデス」


「あっ、あー……まあ、そうだな」


 オヤカタさんがかつて魔物ではなく人間……というか、ドワーフ? として普通に地上で暮らしていたであろうことは、以前にオヤカタさんが話してくれた思い出話からして間違いないだろう。


 でも、じゃあ当時のオヤカタさんがどんな存在で何をしていたかなんてことは、もはやオヤカタさん本人にもわからないらしい。ゴレミの方も知っていて言えないという雰囲気ではねーし……ならベリルさんとかに聞けばわかるのか? 仮にそうだったとしても、まず教えてはもらえないだろう。


「それに……仮にゴレミとその剣にそういう関係性があったとしても、マスター以外の誰かがその剣をゴレミに刺して、同じ事が起きたとは思えないデス。ゴレミとマスターの間に強い絆や深い愛があるからこそ、こうなったのだと思うデス。


 だから誰かがその剣を奪っても、ゴレミの心を、魂を解放することはできないのデス。マスターとゴレミのこれまでの日々があったからこそ、ゴレミは変身できたのデス。


 マスターとゴレミは、いつだって唯一無二で最高のパートナーなのデス!」


「おぉぅ、言うじゃねーか……はは、そうか」


 結局何がわかったということもなかったが、そういう全てが今のゴレミの言葉でどうでもよくなった。言葉にしたら安っぽいが、俺達の間に確かにあるそれにわざわざ理由を求めるなんざ、確かに野暮ってもんだろう。


 あとはまあ、詳しく説明されてもどうせわかんねーんだろうなぁという気持ちもなくはないが……これを言うと「マスターは本当にしょぼくれ大王なのデス」とかあきれ顔で言われそうなので、未来永劫口にすることはない。


「では話を戻すデス。あの状態になると、まず稼働に必要な魔力の消費量が爆上がりするデス。マスターが一日歯車を回し続けて溜め込んだ量でも、多分五分は保たないデス。


 代わりに消費する魔力量に応じて身体能力があがるデス。この前アホみたいに弱かったのは、必要最低限すら下回った状態で無理矢理変身したからだと思うデス。普通はちょっと殴ったくらいて手首がグキッとなったりしないデス」


「あれは痛そうだったのじゃ……」


 苦い顔をするゴレミに、ローズがしみじみそう呟く。そうか、あれはそういう理由だったのか。こっちは実に納得だ。魔力消費が上がるのに弱くなるとか意味わかんねーしな。


「それに加えて、あの状態だと人間と同じ五感がちゃんと機能するデス。つまりマスター達と一緒に食べたり飲んだりもできるデスし、マスターの夜のお供だってできるのデス! あ、食べたものは体の中で分解されるデスから、出す必要はないデス。アイドルはトイレに行かないのデス」


「おお、飯食えるのか! なら一緒に……いや、五分じゃキツいか?」


「妾が魔力を供給すれば、もうちょっといけるのではないのじゃ? クルトの一日分で五分というなら、一、二時間維持するのはわけないのじゃ」


「そりゃいいな! よし、それは今度やってみよう……すまん、また話を逸らしちまったか」


「ふふふ、いいのデス。ゴレミも楽しみにしておくのデス!」


 俺が心のメモ帳に「ゴレミと飯を食う」を書き込むと、ゴレミもまた嬉しそうに笑って話を続ける。


「それじゃ最後は、『約束の蒼穹(アーバロン)』の説明なのデス。細かいことは話が難しくなりすぎるのであくまでもざっくりとした説明デスけど、『約束の蒼穹(アーバロン)』はゴレミの心を……今の状態だとマスターやローズの心も一緒に、矢にして射る魔導兵装なのデス。


 そうして撃ち出した心で相手の魂に直接衝撃を与えて倒す技なので、基本的には防御不能の貫通攻撃なのデス。特にダンジョンの魔物なんかは心や魂が不安定なので、ドラゴンだろうがタイタンだろうが当たればほぼ必殺なのデス」


「へー! そりゃスゲーな!」


「ふむ、魂に直接攻撃ということなら、相手が硬かろうが大きかろうが関係ないということなのじゃ」


「そういうことデス。ただその性質上、魂のないモノには当たらないデス。つまり物理的な攻撃力が一切ないので、奥さんや子供に冷たくあしらわれがちな中年オジジの気になる頭髪よりうっすい紙切れ一枚だって射抜けないのデス」


「……………………」


 ゴレミの発言に、俺は何とはなしに自分の頭に手を触れる。間違いなくふさふさではあるが……いや、それ以上は何も言うまい。


「でも何にも触れないということは、物理的な手段で止められないということでもあるのデス。分厚い石壁の向こうだろうが最高級の防具に身を包んでいようが、『約束の蒼穹(アーバロン)』の矢からは逃れられないのデス!


 ただ誘導したりするわけじゃないデスから、素早く動く相手だと回避されることもあり得るデス。ちゃんと狙って射らないと当たらないのデス」


「その辺は普通の魔法や武器と同じということじゃな。物理的に防げぬのはわかったのじゃが、それだと魔法では防げるということなのじゃ?」


「そうデスね。『約束の蒼穹(アーバロン)』を超える魔力で障壁を作れば、防げるとは思うデス。ただ込めた魔力が魔力デスから、お城とか砦とか、超強力な魔法攻撃を想定して防備を固めている場所でもなかったら大丈夫だとは思うデス」


「なるほどなぁ。纏めると生物特攻の最強の一撃ではあるが、絶対無敵の一発ってわけじゃねーってことか。とすると魔石が消えるってのは……」


「相手の存在の根源たる魂的なものを直接砕いちゃうデスから、魔石にならないのデス。ちなみにダンジョンの外の魔物や人間相手に射ったら、生きているだけ(・・・・・・・)の死体ができあがると思うデス」


「うわぁ…………」


 その光景を想像し、俺は思わず顔をしかめる。どうやら『約束の蒼穹(アーバロン)』は、俺が考えていた以上にエグい技らしい。


「細かい仕様とかは他にも色々あるデスけど、大まかにはこんな感じなのデス」


「そうか、わかった。ならひとまず俺達としては、特に何かを意識する必要はないってことだな?」


 勝手に変身しちまうとか、普段から大量の魔力を消費するようになるとかなら、そもそも今までと同じような活動はできないことだってあった。だが任意で変身できるだけというのなら、何かを変える必要はない。


「はいデス。強いて言うなら、一回変身した後は少し多めに歯車を回してくれると助かるくらいデス」


「そのくらいなら何の問題もねーな。ならさしあたって俺達がすべきことは……」


「ゴレミに食べさせる初めての料理を何にするかを決めることなのじゃ!」


 俺はローズと顔を見合わせ、ニヤリと笑ってそう口にする。


「へへへ、何がいいかな? やっぱ激辛か? それとも超酸っぱい漬物とか?」


「妾は歯が痛くなるほど甘いものがいいと思うのじゃ! あの雑に甘ければいいという味わいは一度苦しむ……ではなく、楽しんでみるべきなのじゃ!」


「あの、マスター? ローズ? ゴレミは普通に美味しいものが食べたいのデスけど?」


「任せとけ! 最高に美味い飯を食わせてやる!」


「なのじゃ!」


「うぅぅ、不安しかないのデス……」


 そう言葉にしつつも、ゴレミの顔にはどこか楽しそうな雰囲気がある。なので俺達は疲れも忘れて、ゴレミの初めての食事会の計画をじっくりと話し合うのだった。

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