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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第八章 歯車男と大異変

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事後承諾の話し合い

「うぉぉ、帰ってきたぜー!」


 リエラさんへの報告も終え、借りっぱなしにしてある宿の部屋に戻ってきた。その安心感から声を上げる俺に、ゴレミが苦笑する。


「マスター、それさっきダンジョンから出た時も言ったデスよ?」


「ばっかお前、違うんだよ! あっちは『生還した!』って感じだけど、こっちは『家に帰ってきた』って感じっていうか……いやまあ、家じゃねーのはわかってるけどさ」


「ふむ、ちょっとわかるのじゃ。妾も<無限図書館(ノブレス・ノーレッジ)>から出て宿に戻ると、そんな気持ちになっておったのじゃ」


「ほら見ろ! わかる奴にはわかるんだよ!」


「はいはい、わかったデス。ならゴレミに膝枕されたときはどっちの気分になるデス?」


「それは……いや、どっちでもねーだろ! 単に後頭部が痛いだけだっての」


 いつも通りのやりとりが妙に嬉しくて、心が緩む。そのせいで不意に触れたベッドの柔らかさがたまらなく、今すぐそのまま横になりたい衝動に駆られるが……駄目だ、まだ我慢だ。


「このまま横になると明日まで寝ちまいそうだから、さっさと話を始めるか」


「そうじゃな。と言っても今回の探索の大部分は、先ほどリエラ殿への報告をする際に纏め終わっておるのじゃ」


「ああ。だからもうちょっと私的というか、細かいところを話し合おう。まずはジャッカルに払った一〇〇〇万クレドの報酬の件だが……」


 そう切り出した俺の前で、ゴレミがしょんぼりと肩を落とす。


「ごめんなさいデス。ゴレミが勝手に約束しちゃったのデス」


「いやいや、ゴレミだけのせいではないのじゃ! 妾だって同意したのじゃ!」


「待て待て、別に責めてねーって! そうじゃなくて、そもそもなんでジャッカルを雇ったんだ?」


「それは……」


 俺の問いに、ゴレミ達が説明をしてくれる。それによると、入る度に地形の変わるダンジョンの、まだ誰も到達しておらず情報のない二二層なんて場所に連れて行ってくれる探索者はいなかったという、考えてみれば当たり前の理由であった。


「なるほどな。で、まともに雇える相手がいなかったからやむを得ずジャッカルを頼った、と」


「そうなのデス。でも、ジャッカルは決してゴレミやマスターに対して好意的な存在じゃないデス。なので確実に協力してもらうには、大金でぶん殴るしかなかったのデス」


「時間が経てば経つほどクルトの救出が難しくなると考えれば、交渉の時間も惜しかったのじゃ。なので即決させられるような思い切った金額を提示したのじゃ」


「そっか。それじゃ仕方ねーよな」


「……怒らないデス?」


 伺うような上目遣いをするゴレミに、俺はその頭を優しく撫でる。


「当たり前だろ。俺を助けるために二人が頑張ってくれたってだけなのに、俺が怒る要素なんてなにもねーよ。流石に借金だと厳しかったが、手持ちで払える額だったしな」


「でも、これでパーティ資金はほとんど使い切っちゃったのデス」


「ならこれから稼げばいいさ。俺が言うのも何だけど、二人共協力してくれるだろ?」


「勿論なのデス! じゃんじゃんバリバリ稼ぐのデス!」


「妾だって頑張るのじゃ! あっという間に大富豪なのじゃ!」


「ははは、こいつは頼もしいな。ならこの話はこれで終わりだ……ありがとな」


 もしも立場が違ったら、俺も必ず、どんな手段を使ってでも仲間を助けに行く。だから俺は謝罪ではなく、例の言葉を口にした。それに二人が微笑んで頷くのを見届けてから、俺は次の話題に移る。


「んじゃ次だ。つっても次が最後なんだが……ゴレミが人間っぽく変身したのは、一体何だったんだ?」


「ぬぉぉ、妾も! 妾もそれがずっと気になっておったのじゃ! 是非とも教えて欲しいのじゃ!」


 ジャッカルがいる手前、またダンジョンという安全でない場所で話し込むこともできないため、ずっと聞くのを我慢していた疑問。俺の言葉にローズも興奮気味に乗っかってくると、ゴレミがニヤリと意味深な笑みを浮かべる。


「ふっふっふ、あれは……」


「あれは……?」


「ゴレミにもわからないのデス!」


「わかんねーのかよ!?」


 思わず大きな声でツッコミを入れてしまうと、ゴレミが呆れたような顔になる。


「そりゃわかんないデス。そもそもマスターだって、何であのタイミングでゴレミに向かって剣を投げてきたデス? ゴレミはマスターを全面的に信頼してるので受け入れたデスけど、普通は剣が刺さったら致命傷になってたデスよ?」


「それは…………いや、ほら、あの剣って俺の意志に従って形が変わるだろ? ならゴレミの形にもなるんじゃねーかと思って……お前ボロボロだったから、直ったらいいなって……」


「もの凄くふわっとした理由なのじゃ!?」


「上手くいったからいいデスけど、流石のゴレミもちょっとビックリなのデス。ただマスターがそうなら、ゴレミにだってわからないのデス。


 というか、もしわかってたらマスターがその剣を受け取った時点で刺してもらってたのデス。石で磨いてお肌がしっとりとか、そんなレベルじゃなかったのデス!」


「あー、そりゃ確かに……」


 今の発言で、本当にゴレミにもわからなかったのだということが心の底から納得できた。そりゃゴレミなら、あの姿になれるなら秒でなってただろう。


「あれ? じゃあなんで今はならねーんだ?」


「なろうと思えばなれるデスよ? でもマスターの協力が必要で、あと魔力をバカ食いするのでそんな気軽にはなれないデス」


「ああ、変身するだけで魔力消費すんのか。じゃああの……何だっけ? でっかい矢を打つのは……」


「『約束の蒼穹(アーバロン)』デス? 勿論とんでもない量の魔力がいるデス。変身だけならマスターの魔力をゴレミが溜めることで短時間ならいけるデスけど、あれを射るのはローズの協力がなかったら絶対に無理なのデス」


「そうか。まあそうだよな……ローズ?」


 ふと横を見ると、ローズがギュッと眉間に皺を寄せ、もの凄い形相になっていた。何事かと声をかけると、ローズがその顔のまま口を開く。


「あれは……あれは本当に辛かったのじゃ。口に手を突っ込んで内臓を直接引っ張り出されるような感じだったのじゃ。二人には申し訳ないのじゃが、正直あれは二度とやりたくないのじゃ……」


「おおっふぅ……そこまでだったのか」


「まあそもそも、ああいう必殺技は気軽に使うものじゃないのデス。使わないと死ぬ、くらいの場面までとっておくのがいいと思うデス」


「そうだな。魔石も消えちまうみてーだし、なら本当に最後の切り札ってことでいいだろ」


 強力な魔物を倒した場合、通常はそれに見合う魔石が手に入る。が、それが残らないということは、倒すだけなら倒せても利益が一切得られないということだ。


 なら無理をして強い魔物を倒す意味はない。ローズにかかる負荷も相当なもののようだし、普段は存在しないものとして考え、今回のように追い詰められてどうしようもないって時だけ使う、正しく「最後の切り札」という運用が妥当なところだろう。


「てか、何で魔石が消えるんだ? いや、そもそも魔石って何なんだ?」


 ふと、俺の疑問がそこに行き渡る。ダンジョンの魔物を倒せば死体や装備は消えるものの魔石が残るというのは常識だが、じゃあどうしてそうなってるのかと問われると、その答えを知っている者はいない。


 ただゴレミなら知ってる可能性はある。なので問うてみたのだが、ゴレミはゆっくりとその首を横に振る。


「ごめんなさいデス。そこまで根本的な質問になると、ゴレミにはわからないのデス。ただ『約束の蒼穹(アーバロン)』で攻撃した時に魔石が消える理由ならわかるデス」


「お、そうなのか? それは聞いても大丈夫なやつか?」


「はいデス。というか、どうせなので変身後のゴレミのことを、言える範囲でもうちょっと詳しく説明するデス! ゴレミ先生のいけない放課後レッスンなのデス!」


「放火後? 火なんかつけたら『いけない』じゃすまなくねーか?」


「一体何を教えられるのじゃろうか……?」


 俺とローズが色んな意味で注目するなか、ゴレミが目元の辺りを人差し指でクイッと持ち上げるような動作をしてから説明を始めた。

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